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冤罪魔王と悪役令嬢ロボの銀河騒動記  作者: ぎあまん


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14交易コロニー事変



 イオの出した金属片は、魔法を遠隔発動させるための共鳴の魔法陣が仕込まれた物だった。

 かつては自身が使役するゴーレムたちに取り付け、遠隔地から魔法を使うために使用していたそれをヴィルダに装着させることで、機体の外へ魔法を発動させることができるか試してみたかった。


 実際にゴーレムに付けた状態で魔法を使って見せ、センダナルとともにヴィルダのどの部分に取り付けるかを話し合い、作業をしている内に、工房艦グランダラは安全圏航路セーフティラインを抜け、領域ゲートに到着した。


 領域ゲートは円を二つ繋げた巨大装置であり、それぞれの円が入り口と出口と役割を分けている。船の出入りが混乱しないための措置によって生まれた形状を口の悪いものは丸メガネと呼び、多少の詩的センスのあるものはメビウスリングと呼ぶ。

 ゲート前は侵入の順番を待つ列ができていたが、列は順調に消化されていき、到着の一時間後には工房艦グランダラの順番が回ってきた。

 ヴィルダの改造や、魔法の調査で忙しいセンダナルたちはその光景を見ることもなくゲートを通り抜けバーンズ星系へと到着する。


 警戒していた襲撃もなく移動は順調に進行していき、イオたちは交易コロニーの一つに到着した。

 個人で船を持って移動することのできる者は、たとえ少しでも物資を輸送するのがこの時代の宇宙民コロニストにとっての常識である。

 そのため、このような交易コロニーは多数存在する。補給のついでにそのコロニーでの相場や、停泊している商人の船がアップしている買取表などを眺めて、売りと判断すれば自分の持っている物資を放出する。あるいはこちらから物資の一覧を提示し、売値を提示したり、交渉したりなどすることもある。

 イオもそんな交易に、宙賊基地から持ち出した高級酒を並べるとどうなるのか気になったが、後回しにして通信施設に向かうミーシャを護衛することにした。


 パイロットスーツの上からジャケットを羽織り、腰にはレーザーガンを吊るしたイオに対し、ミーシャも工房艦のプリンターで作ったどこにでもある作業員の服に帽子を被り、少しでも性別を隠せるような格好になっていた。

 交易コロニーの港湾施設からコロニー内部へは、チューブトンネルを走るカーゴトレインによって運ばれることになる。

 リング型コロニーの内部に作られた人工の世界をイオはしばらく感動して見つめていた。

 まさしくSFの世界だ。

 街並みらしい物はなく、物資を収める巨大倉庫がいくつも立ち並び、そこから忙しく荷物が出し入れされる。

 交易コロニーを現代地球で例えると、高速道路のドライブインを発展させたような存在となる。職員のための多少の生活空間はあるものの、大半は停泊する船が補給するためのエネルギー生産施設や食料などの物資、交易によって集まる様々な商品を一時預かりをするための倉庫で埋め尽くされてしまうのも仕方ない。

 超高速通信施設は、そんな交易コロニーの中央部に存在するという。


「使い勝手の悪いところに置くもんだな」

『超光速通信施設は重要だから、簡単に壊されない場所に作られるものなのよ』


 イオの感覚としては公衆電話を探して右往左往させられるようなものだが、それをヴィルダが通信機越しに訂正する。

 イオの耳に小型の通信機が貼り付けられており、それでヴィルダとの通信が可能となっている。


 カーゴトレインにはイオたち以外に人がいなかった。

 交易コロニーでの要件はほぼ港湾エリアで完結できるように設計されているものだ。超光速通信を使うという特別な理由でもない限り、外から来た人間がカーゴトレインに乗るのはコロニー職員ぐらいのものだ。


「通信をする前に、イオ様にはお話ししておきたいことがあります」


 二人きりのカーゴトレインの中で、ミーシャがいきなりそんなことを言った。


「俺にか?」

「はい」

「俺に話すということは、自動的にヴィルダには知れてしまうが?」


 と耳にある通信機を示す。

 ミーシャがそれを知らないわけもなく、すぐにセンダナルも知るところになるのは自然な流れだ。


「かまいません。イオ様には私の口から直接聞いてもらいたかったのです」

「わかった」


『むむむ』とヴィルダが唸る声を聞きながら、イオは頷いた。

 そこにある意図はあえて考えないことにした。


「ミーシャという名前は、咄嗟に出た偽名です。私の本当の名前はリリスミア・ファーラ・ダグワーレン。現皇帝陛下の五女となります」

「つまり、皇女様ということか?」

「はい。まだ正式ではありませんが、成人の義を迎えれば皇位継承権も発生します」

「なるほどな」

「驚かないのですか?」


 イオの淡白な反応にミーシャは戸惑いを見せた。

 銀河帝国を支配する皇帝一族であることを明かしたのだ。広大な版図に及ぶ権力を考えれば、もっと驚かれるのが普通だと、ミーシャは思っていた。


「いや、十分に驚いているよ。ただ、身分がありそうなことは前にも言っていたからな。予想以上の話にはなったなと思っている」


 この時のイオの驚きが少ないのは、いまだ銀河帝国の権力の大きさを理解していないことも大きい。また、その社会で暮らした経験のない身としては、帝国皇室そのものへの忠誠心もなければ、畏敬や憎悪などを含むところがないせいでもある。

 さらには、帝国外のこととはいえ、イオ自身のこれまでの経験から権力者というものに対して懐疑的であり、大きな期待をしていないことももちろん関係している。

 そんな自分のところに権力者の娘が転がり込んでいるという状況が、なんの運命の悪戯なのかと、考えもしていた。

 とにかく、純粋に驚くにはイオは心は擦れ過ぎていた、というのが正解だろう。


「なんだか、ムッとしますね」

「なんだそれ」


 言葉通りに帽子の下で頬を膨らませるミーシャに、イオは苦笑した。


「もっと敬ってくれてもいいんですよ」

「……そんな至尊の方とは露知らず、ご無礼をお許しください」

「許します」

「では、これ以上は我が身の器では扱いきれぬ案件、どうかこのままコロニーに駐留しているだろう軍隊に……」

「ごめんなさい、このままの扱いでいいです」


 あるいは警察にと言おうとしたところで、ミーシャに止められた。


「正直、誰を信じていいのかわかりません。突然襲われ、気が付けばあなたの前で目覚めていたという状況です。なにが起きたのかもわからないのです。ただ、この身を狙う理由は我が家に関係しているだろうことは間違いないのでしょうけれど……」

「まぁ、そうだろうな」


 未成年の少女を狙う理由なんて、性犯罪を除けばその家庭が理由の大半だろう。

 しかも皇族、いままでの追っ手の数から考えても、その身分が理由であると考えるべきだ。むしろ、それ以外の理由をあえてほじくり出す必要があるのかというほどだろう。

 そんな少ない可能性にあえて目を向けるぐらいであれば、より大きな可能性への対策を講じた方がいい。

 そうすれば結果的に、少ない可能性への対処にもなるのだから。


「しかし、そうか。敵はどれほどのことをしでかすつもりなのやら」

「わかりません。ですが……」

「わかっている。約束したのだから、守るさ」


 そう言って、イオはうなだれるミーシャの頭を帽子越しに撫でた。


「無理して愛嬌を振り撒かなくともいい」


 イオは少し前のやり取りのことを指して言ったつもりだ。ミーシャの精一杯の冗談を子供じみたやり方で潰してしまったと反省もしている。


「俺自身、権力には嫌な思い出があるもんだから、冷たい反応になったかもしれない。すまないな」

「いえ、そんな」

「悪いのは大人であって、まだなにもしていない子供のせいではないからな」

「……子供、ですか?」

「子供だな」

「むう」


 ミーシャがなぜか頬を膨らませた。


「どうした?」

「わかりました。よーく、わかりました」

「だから、どうした?」

「私、これでも自分にはそれなりに自信があります!」

「うん?」

「だから、守っていただいている間に、私の魅力をわからせて差し上げます」

「けっこうだが?」

「まぁまぁ、そう言わずに」


 並んで座っていたのだが、ミーシャがずいっと近寄ってきた。

 同じだけ横にずれて、距離を保つ。

 そうするとミーシャがまた距離を詰めてくる。

 また逃げるを繰り返せば、すぐに端に追い詰められてしまった。

 密着されれば、作業着で隠されている柔肌の感触が嫌でも伝わってきてしまう。


「帝国美容術の粋を集めて育てられた私の体に興味はありませんか?」

「若い子がそんな言葉を使うものじゃない」

「だから、子供扱いしないでください!」

『イオの女たらしっ‼︎』


 いきなりの怒声が通信機から放たれ、イオの鼓膜が破れたところでカーゴトレインは目的地に到着した。


 中央にあるコロニー運営本部ビルに到着すると、事前に予約がされていたのでスムーズに超光速通信施設へと入ることができた。

 来客対応用のボットに導かれ通信記録室に案内される。事前に通信内容を作っておくこともできたのだが、ミーシャがここで記録を作ることを選んだのだ。

 そうしたのは、工房艦の中ではヴィルダたちの目を除外することができないということが大きかったのだろう。

 だというのにカーゴトレインの中で喋ってしまったのは、ミーシャの精神が限界だったのかもしれないと、イオは考えた。

 通信記録室の中に入っていくミーシャを、イオは見送る。

 入り口の前で待っていると、鼓膜の治った耳にヴィルダの声が響いた。

 もちろん、治したのは魔法の力だ。


『私というものがあるでしょ! イオ! 浮気はダメよ!』

「わかったわかった」

『ちょっと前に私のことでいっぱいだって言ってたくせに』

「それはそれとして、目の前の問題に対処するのは当然だろう」

『うわぁ、イオは女たらしのハーレム主人公になる気ね』

「どうしてそうなる?」


 怒るヴィルダを宥めている間にミーシャは記録と送信を済ませて部屋から出てきた。


「おつかれ」


 そう声をかけようとしたその時、突然の揺れがイオたちのいる建物を襲った。


「きゃあっ‼︎」

「地震か?」


 ミーシャを庇って身を屈めながらイオは周囲を確認する。

 言った後で、コロニーで地震が起きるはずがないと思い直す。

 すぐに警報が鳴り響き始めたことから、なにか大きな事故が起きたのだということはわかった。

 しかし、事故の内容まではわからない。


『イオ、大変!』

「ヴィルダ、なにが起きた?」

『コロニーの外で爆発事故が発生! しかもただの爆発事故じゃない!』

「なら、なんだ?」

『次元震を観測! どっかの馬鹿がD事故を起こしたのよ』

「D事故?」


 新たな用語の登場に、イオは首を傾げるしかない。


『ディメンション・アクシデント! アクマが出るよ!』


 なんで魔法のない世界に悪魔がいるんだという質問は、大気を切り裂く金切り声によってかき消されてしまった。

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