01冤罪魔王と悪役令嬢ロボ
カクヨムからの転載となります。ルビ関係がおかしくなるかも。
ごめんね。
最初はよかった。
異世界召喚。
新たに得られた肉体。
魔王を倒せなんて綺麗事は言われず、戦国乱世な異世界に配置される駒の一つとして、ただ必死に生きていれば良かった。
戦争はまさしく地獄のように厳しかったけれど、それでもなにも考える必要がないくらい忙しかったのは、逆に気持ち的にはたすけとなっていた。
疲労を疲労と思わないような肉体のおかげだったのかもしれない。
この世界の魔法や魔法を用いた技術を覚えるのが面白かったからかもしれない。
覚えたそれらを使って、地獄のような戦場から少しずつストレスを削り取っていく作業が楽しかったからかもしれない。
気が付けばただ一人。
魔導兵団を率いる『鋼の英雄』イオルード・ティンバーライン将軍の出来上がり。
昔の名前はとっくに捨てた。
独自改良した鋼のゴーレムを率いて、戦場を圧倒していく。
泥沼の戦場は次々と飛び火を続け、気が付けば大陸の端から端までを鋼のゴーレムたちと進んできた。
そうして二十年。
異世界で過ごした時間の方が多くなったと感じるようになった頃に、戦乱は我が国の勝利で幕を閉じることになる。
最後の戦は、『鋼の魔王』イオルード・ティンバーラインの討伐で締めくくられた。
そう、つまりは、すべての戦争責任を俺に押し付け、奴らは自分たちを清廉潔白だと言い張り出したのだ。
なんたる傲慢。
開いた口も塞がらない。
だが、一人で戦い続けた俺には、戦場で隣に立ってくれる戦友も、政治的な援護をしてくれる味方もいなかった。
無敗の魔導兵団も、すでに味方には解析されている。
しかも、敵は大陸統一国家だ。
物量の差は圧倒的。
それでも粘った。
戦争による被害などなにも恐れなかった。
結局のところ、俺はこの異世界に来て、ずっと一人だった。
一人になることを求めていた。
次の日にはいなくなる隣人のことで心を痛めるのが嫌で、考えないようにしていた。
なにも見たくはなかった。
その究極の形が、魔導兵団だったのだろう。
全てはデータの上でのことだと片付けた。
俺も見なかったのだから、世界の人々も俺のことを見なかった。
だから、まぁ、これは締めくくりとしては相応しい戦いだったのかもしれない。
大陸のおよそ三分の一を火の海に沈めてやった。
その代償として鋼のゴーレムたちは全て倒れ、俺の前には勇者が立ち塞がった。
異世界召喚された勇者なのだというのだから、笑えてしまう。
結局、この世界の連中は自分たちの問題を自分たちで解決する気がないのだ。
俺と勇者は熾烈な戦いを続け、そしてついに奴の剣が俺の胸を突いた。
心臓に注がれる重苦しい空虚。
それを感じた時、ああ、やっと終わったなと感じた。
だが、終わりではない。
終わりではないと、この肉体を作った異世界の賢者たちは知っていたようだ。
「こんなものではお前は死なない。だから、封印する。その肉体に用いられたラヴァナール彗星金属の因果を使い、貴様を彗星へと封印追放する」
そんなことを言う。
ラヴァナール彗星とは、この世界の夜空で見ることのできる大きな彗星だと聞いたことがある。
たしか、百年に一度、姿を見せるのだとか?
そういえば、今夜あたり、その彗星が見れる夜だったか?
なるほど、最後の決戦はそういう風に仕組まれていたのか。
「問題解決は外に向かって頼むか捨てるかしかできないのか? 勇者、これはお前の未来じゃないのか?」
「黙れ! 俺は! この世界の人たちが、好きだ!」
ああ。
まぁ……。
俺だって、嫌いじゃなかったんだがね。
だからこそ、死んでいく戦友たちのことを考えたくなかっただけだったんだが……。
まぁいいさ。
クソッタレな世界なんて、こちらからごめんだ。
封印だろうがなんだろうが、受け入れてやるよ。
あばよ、クソッタレ。
「やっぱりお前はいらない」
いきなりそんなことを言われた。
某国の王子のために用意された私。
王子の成人の時を待って自分を磨き続けてきた私。
王子のためだけに、完璧になることを求め続けられてきた私。
だけど、ある日突然に「いらない」と言われた。
そんなことってあるんだ。
「やっぱり私は、これを選ぶことにした」
なんて言って見せてくるのは、スターシア社製の特別機。
ただの戦闘機。
特別機なのは別に不思議なことではない。
だって、私もそうだから。
王子が十歳の時に願い、その要望に応じた能力を持って生まれた戦闘兵器。
それが私。
それなのに、成人間近な王子はいきなり意見を翻して、別の会社に成人の義で搭乗する機体を変えてしまった。
王子専用機という座を、一度として使用されないまま別の、しかも別で開発された戦闘機に奪われる。
そんなことって……あるの?
しかも、この突然の専用機制作契約破棄問題の原因が、こちら側にあるということにされてしまっていた。
なにやらやった覚えのない罪をでっち上げられ、結果私は、カタログスペックさえも満たしていないポンコツだと判断されたのだ。
もちろん、私の開発者たちは抗議した。
だけど、もちろん、聞き入れられなかった。
どうやら私の開発者側の組織が政治的なやり合いで敗北してしまったらしい。
なにより、ここは王子のいる国、政治を主導する側に悪意を持って動かれれば弱い。
私たちは、大人しく引き下がるしかなかった。
そして王子は、私の廃棄処分を命じた。
ただ負けるだけならともかく、これには我慢できなかった。
だから私は逃げた。
家出をしてやった。
このままなにもせずに廃棄なんてごめんだ。
開発者たちも協力してくれたけれど、できる限りあの人たちがなにかした痕跡は消去しておいた。
私に搭載された電子頭脳は新開発された超強力な奴なのだ。
現行の陽電子頭脳たちなんか相手にもならない。
王子め、こんな私を選ばなかったことを後悔するがいい。ワハハハハ!
派手な破壊工作なんてすることもなく、全ての手続きを欺瞞情報で誤魔化して、普通に出航してやった。
静かに飛び出した宇宙の中で、私は考える。
まずは名前を考えよう、いつまでもテスト中の仮名なんて嫌だ。
自分で考えよう。
今日から私は一人なんだから。
そうだ。
人間を研究するために集めたデータの中に、いまの私のような状況になるエンタメデータがあった。
悪役令嬢物とかいうジャンルだ。
そうね。ヴィルダなんてどうかな?
V.L.D.A=Villainous Lady Automaton.
悪役令嬢型自律機械。
うん、いいんじゃないかな。
悪役令嬢みたいなハッピーエンドを目指してやる!
なんて思ったけど……さて、これからどうしたものか?
あっ、レーダーに反応。
脱走がバレちゃったか。
ううん、このままだと追いつかれるな。
あっそうだ。
この先にある危険宙域でちょっとやり過ごそう。
パイロット付きの戦闘艦が、あんなところに入ってくるはずもないし。
よしよし、そうしよう。




