エピローグ
人間とはいかに醜いものであろうかと私はバーで熱く語っていた。言葉だけでなく、酩酊からくる暑さも私自身を熱らせていた。店主はそんな私の言葉を受け流すように聞いてただ頷くだけであり、私は自身の言葉を聞け!とばかりに自身をヒートアップさせていった。熱い今の自身とそれとは対をなす、冷たいウィスキーを口に流し込む、喉が焼けるような感覚に陥り、咳き込む。すると隣で飲んでいた黒いコートとハットを見に纏った一人の人物、昔の探偵、いや、ヨーロッパ紳士と形容した方がよいであろうか、その人物は私に話しかけてきた。
「君は人間を醜いと思うのかね?」
ゆったりとしたその声は不思議と脳に直接話しかけてくるようで、テレパシーがあったらこんな感じなのだろうなどと考えながら返答をした。
「あぁ!人間ほど醜いものを僕は知らないね!外見はなんでもないように見えるだろう?心の内部を覗いてごらんよ!きっとこれほど醜いものを今後見ることができないと思うものが見えるさ!」
隣の人物は頷くと共に口を開く。
「あぁ、全くその通りだ。しかしね、人間ほど美しいものもまた私は知らない。私は人間というものには美と醜が混在しているように感じられるのだよ。それも両極端なものだ。人間とは欲望や自己嫌悪のような醜とまだ見ぬ宇宙の神秘的な美で構成されているのだ」
「そんなことはない!人間は醜のみだ!人間とはつまり概念としての醜なのだ!美だと?笑わせるな!人間のどこにそんなものが存在するというのだ!」
「無理もない、君はまだ若い。そのような考えになるのもわかる。」
そう、言葉を発しながら男は隣の席に置いておいたカバンに手を入れ、なにやらガサゴソと探し始めた。
「君にこれをやろう。私はこれが手記なのか、書いた人物が小説家で原稿を書いたものなのかはわからない。これは私が持っているより君が持っている方が良かろう。読んでみたまえ」
そう言い、男は私に一冊のノートのようなものを手渡した。中を数ページめくってみると、走り書きとまではいかないが、お世辞にも綺麗とは言い難い文字がびっしりと並んでいた。
「今日のお代は私が出してあげよう。今日君と会うことができた喜ばしい縁と、今までの君とは違う、新しい君への誕生日プレゼントとと思ってくれ」
そう言い終えると、男は札束をポンとバーカウンターに置き去っていった。
私は酔っている状態でぼんやりとした意識の中、その出来事を心の中を介在しない状態で眺め、ただただ「帰るか」と思いノートを片手に帰路に着いた。




