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意味不明な会議に参加してる件。

短編として投稿するには長かったので、2話に分けてみました。

「連れてくるのわぁ、大人しい人たちじゃないとぉ、何するか分からないですしぃ」


 イラッとする口調で答えた女に、会議室の空気が冷えた。


「だからぁ、相手は選んだんですよぉ」

「そんな言い訳はどうでも良い」


 上座にいる男がイライラを隠さずに一刀両断している。


 いつもならコイツのクソな言い訳に鼻の下を伸ばしてる部長がいないのは、会議が進んでいいよなあ……と、大輔(だいすけ)は手元の資料のはしっこをペラペラ無意味にめくりながら思っていた。

 この女、仕事を教えてもらう立場のくせして、教わったことは一向に覚えず、指導役の伊藤さんが苦言を(てい)したら「そんなのぉ、伊藤さんがやれば良いんですよぉ。今までやってたんでしょ~?」と言い放ったバカである。作った書類はことごとく間違っているし、そもそも「ふくりけいさん?ふくり?ふくふくぅ?うっけるぅ~」と草を生やした非常識女だ。


 もちろんこんなやつ、ぶっちゃけ部署のお荷物でしかない。


 なんでこんなのを正社員採用したんだと言いたいところだが、部長の知人に頼まれたという()()()()()だから、どうしようもなかったらしい。そう、総務の遠藤さんが苦い顔で愚痴っていた。


「問題は、おまえが無断で人を連れて行ったことだ」


 上座にいる男は、非常識女のくねくねを完璧に無視していた。


「無断じゃないですぅ、本人がうんって言ってくれたからぁ」

「いずれも生きるか死ぬかの状況で、選択を迫っています」


 女の言葉を修正したのは、補佐だった。


「連れ去られることに同意しなければ、死ぬ状況に追い込んでいます」

「それは同意と呼ばんな」

「でもぉ、良いって言ったの本人ですしぃ」

「規約違反だ」

「えぇ~でもぉ」

「黙れ」


 上座の男が圧をかけ、非常識女が口を開いたまま固まった。

 日本でやったら、パワハラって呼ばれるんだよなあ……と思いながら資料に目を落とし、そこで大輔は気が付いた。


 この会議、会社のものじゃないぞ。


「え……?」


 二つある資料のうち、片方のタイトルが『わたしの世界に人を連れてったらいい感じになりました』。発表者は非常識女になっていて、これはA4の紙一枚に感想文にもなっていない文章が数行書いてあるだけ。もう一つはありきたりなパワポを印刷したものだが、タイトルは『異世界民拉致に関する審議』とある。


「……夢か」


 現実のものではないな、と判断して、大輔は会議参加者に目を戻した。

 座っているメンバーも、大輔ともう一人を除けば、会社の人間ではなかった。


「……夢としか思えないわよね」


 大輔の呟きに小声で返してきたのは、隣に座っていた遠藤さんだった。


「会社ももう無いのに」

「そうだよなあ」


 夢に見るほど遠藤さんと親しかったっけ?とは思ったが、そこは夢なら何でもあり得るので、スルーする。


 あの非常識女が雑な横領をやらかしてくれたおかげで、会社のキャッシュフローに問題が生じ、二度の不渡りを出したのは先々月の事だった。

 二度の不渡りから金融取引停止を食らえば、中小企業など倒産するしかない。先月には破産手続きが開始されていて、大輔は現在、無職の状態だった。


「世界への介入で多数の被害者を出した点も、無視はできませんね」


 補佐役が眼鏡を押し上げながら説明を続けていた。


「連れ去られた人間とその家族、お前が直接介入して破綻させた人間関係、潰した企業とその従業員および家族、そういったものをすべて勘定すると、影響を受けた人間は千人は優に超えます」


 厳しい顔をした補佐役の説明に、大輔はあきれていた。


「あいつ、どれだけ社外でやらかしてたんだ」


 話の内容が現実離れしているが、夢なんだから気にしない。


「たしかに、家族は影響受けてるわよね。親が無職になったら進学できなくなる子もいるし」

「柴田課長の娘さん、大丈夫かな」


 オレに似ず利口な娘なんだよ、と、娘が大学に合格した時には嬉しさを隠しきれてなかった柴田課長は、最後まで迷惑女や部長の尻拭いに駆け回った苦労人だ。娘が望むなら大学院にも行かせてやりたい、と課長は言っていたが、家族思いの娘さんだから、父親の失職で進学を諦める可能性も高い。


 小さい会社だったから、家族の顔を知っている事だってある。課長の娘は小学生だった頃から知っているから、余計に心配だった。


「最大の影響が、その柴田美優さんです」


 ふいに話を振られて、大輔と遠藤は補佐役に顔を向けた。


「これが引っ掻き回さなければ、美優さんは進学して研究職になるはずでした。彼女が開発する予定だったシステムは、人類史に影響を与えたはずです」

「え」


 話が大きすぎた。

 まあ、夢だし、そう言う事もある……だろう、多分。


「火星に人間を送るための技術を開発する予定だったんですよ」

「え、ちょっと待ってなにその壮大なSF」


 たしかに、工学部に行ったとは聞いてるけど。


「しかし、父親の失職で美優さんの未来が変わりました」

「ヤバくね?」

「ヤバいです。あなた方の世界の人間が、地球でそのまま滅びる運命が決まりました。地球から逃げるための技術の開発が遅れて、小惑星衝突を回避する技術を持つ時間の余裕がなくなりましたので」

「オレの想像力がヤバかった」


 寝る前に何か映画でも見ていたのだろう、よく覚えていないけど。

 たしか、地球にぶつかりそうになった小惑星を逸らすために石油採掘人が宇宙に行く映画があったはずだ。いつか見ようと思っていたのを、無職になってから見たはずだし。たぶん、その辺のストーリーを覚えていたから、こんな夢を見てるのだろう。


「あたし、そんなのしらないしぃ」


 いつのまにか復活していた非常識女が、ぶぅ、とわざとらしく頬を膨らませて見せた。


「あたしのせいじゃないっしょー」

「お前のせいだ馬鹿者」


 上座の男が切り捨てるように言った。


「どっかの小娘なんて、気にする必要」

「その娘の運命は戻さないといかんな」


 上座の男が、眉間にしわを寄せたまま呟いた。


「さすがに影響が大きすぎて、こちらの神々に喧嘩を売ることにしかならん。こやつは我が陣営のお荷物とはいえ、我が方のやらかしはやらかしだ。こちらの手で可能な限り修復しないとな」

「ええ~、よその人間どうでも」

「この際だから、こやつを使う。存在をすべて解消すれば、修正に必要なエネルギーは得られるな?」

「ちょっとぉ!なんで人間の」

「黙っておれ」


 非常識女の発言にかぶせて、上座の男が鋭く命じた。


「これは決定事項だ。お前は存在を抹消する」

「ひっどぉ〜い!パパが知ったらどうなると思ってんの?」

「彼の方にはご了解いただいている。そもそもお前のような出来損ない、彼の方の名を貶めるだけであろう。存在する事が間違いだ」

「ひどぉい!」

「連れて行け」


 いつのまにかそこにいた二人の警備員が、非常識女の腕を両脇から固めた。


「ちょっとぉ、なにすんのよチカン!」

「第七監房に入れよ。入れた後は拘束を」

「ちょっとはなしなさいよ、わかってんの、あんたなんかパパに言えば、ちょっと痛い痛いやめてよぉぉぉ」


 騒ぐ非常識女に一切構わず、警備員は暴れる女を強引に引きずって出て行った。

 上座の男が深いため息をついて、それから大輔たちを見た。


「君達には大変な迷惑をおかけした、代表してお詫びする」


 頭を下げた男に、会議室にいた何人かが顔色を変えていだが、誰も異論は唱えなかった。


「状況が今一つ掴めないのですが、謝罪の前にご説明いただいてよろしいですか」


 詫びを受け入れるかどうかは、理解してから決めたほうが良い。

 ここで()()()()()()()()()()()言葉は、「頭を上げてください」である。下手にそんな事を言えば、状況も分からないままに相手の詫びを受け入れ許したことになり、こちらの損害についての交渉もできないままになりかねない。

 若い女性がやりがちな間違いだが、大輔も遠藤さんももちろん、そんなに初心(うぶ)ではなかった。


「ああ、そうだな」


 ごまかしは効かないと理解したのだろう、上座の男は下げていた頭をあげて話し出した。


「あの馬鹿が、君達の世界から人を(さら)っていた。それだけに飽き足らず、君達の世界に降臨して、君達の歴史を終わらせるところだった」

「その、世界がどうこうというのは、いったいどういう事でしょう?」

「文字通りの意味だ」

「井上さん、まずはこちらの皆さんの素性を伺ったほうが良いんじゃ?」


 遠藤さんがそうコメントした。


「え?」

「どういう集団のどんな会議の場なのかが良く分からない、というのが一番問題じゃない?」

「夢でしょこれ」

「私、起きてるのよ」

「え?」

「今、VR会議にログインしてるの。自分がホストしてるルームに入っただけだから、どことも(つな)いでないけど」

「ええ?!」


 遠藤さんは総務にいた人なので、これまでそう親しくしてたわけではないから、VRに興味があるとまでは知らなかった。というかルームを自分で持ってるほど馴染(なじ)んでるというのが意外だった。

 いや、夢ならそういう突飛(とっぴ)な話もありうるか。あり得るな。


「おかしな事が起きてるみたいだけど、とりあえず、この人たちが何なのか聞いても悪くないかと思って。というわけで、自己紹介していただけませんか」

「それも道理だな」


 上座の男がうなずいた。

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