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Chapter53【トウキョウ】

魔王ハル子――その名は、今や最北の国、ニタヴェリル全土に轟いていた。

それは南の都市ヴィルツにも―――


ピンクの魔法指輪を指にはめ、かつての姿――26歳のOL『池沢ハル子』の姿へと戻っても、街の人々の視線は変わらなかった。


「魔王様だ!」

「魔王様、ありがとうございます!」

「我らが救世主!」


どこを歩いても、声がかかる。拍手が起きる。人々の目はまるでアイドルを見るように輝いていた。


(あああ……私の“ハル子”人生が……)


誰にも言えない心の声が、胸の奥でむなしく響く。それでもハル子は、少しだけ微笑んだ。


――それでも、次なる場所が、私を待っている。


そんな予感が、胸に灯っていた。


その頃、リヴァイアのもとに緊急の報せが届いた。


「マルボルク城塞都市が、再び帝国軍の奇襲を受けているようです」


沈痛な面持ちで彼女はハル子に報告した。

報告を聞いたハル子は、即座に判断を下す。


「四天王リヴァイアよ。すぐにマルボルクへ戻って撃退させるのだ!」


短い命令に、リヴァイアは深くうなずいた。

任務の重さを胸に、彼女は眷属であるワイバーンの背へと躍り乗る。


夕空を切り裂いて飛び立つその姿を、仲間たちは黙って見送った。


その後‥‥


ハル子一行は次の目的地である『トウキョウ』へ向け、都市ヴィルツの中央に位置する、飛空艇発着場へと向かった。


到着すると、そこに広大な格納庫の中があり、中には異様な存在感を放つ一隻の飛空艇が停泊していた。


それは、飛空艇というよりも――軍艦だった。


艦体の後方には煙突が八本、黒煙こくえんを噴き出している。船体は全体が重厚な鉄板で覆われ、見るからに堅牢だ。艦首と艦尾、そして側面にはいくつもの砲門がずらりと並び、艦の腹部には大型の大砲や重火器らしき装備までが搭載されていた。


まるで鋼鉄の要塞が、空に浮かぶために作られたかのようだった。


「すご……まさか、こんなものが空を飛ぶなんて」


ハル子は息を呑んだ。


そのとき、甲板から軽やかな足音とともに一人の男が現れた。


銀髪をなびかせ、赤いマントを翻して現れたのは、ニタヴェリル共和国航空部隊の

総帥――そして機械技師でもあるグラン・パド・ドゥであった。


彼は“にやり“と笑い、右手を広げて叫んだ。


「さあ、この《空中戦艦ゲヘナ》が、インペラトル皇国の“トウキョウ”まで運んでやるぞ!」

その声には誇りと自信、そしてどこか演劇じみた華やかさがあった。


ハル子は思わず口を開けたまま、その鉄の飛空艇を見上げた。


(トウキョウ……か。私の知らない、もう一つの“東京”)


鉄の飛空艇を見上げながら、ハル子は心の中で感嘆した。頼れる仲間たち、そしてこの最新鋭の軍艦――インペラトル皇国へ向けて、心強い船出となるだろう。


しかし、そのとき。


「そうだ……お前たち、これから聖ルルイエ帝国と戦うのだろう」


背後から低く重い声が響いた。


「うわっ!」


思わず飛び跳ねるように驚いたハル子が振り返ると、そこには『シド・レヴリー』の姿があった。額にゴーグルをかけ黒い瞳が、じっと彼女を見つめていた。


「あ……ああ、そうだ。おそらく数か月以内に、奴らは再びレオグランス王国へ侵攻してくる」

ハル子は気を取り直し、真剣な表情で答えた。


「おそらく今回は、ミカエルを先頭に立て、全力で我らを滅ぼしに来るはずだ」

その言葉に力を込め、ハル子は拳を握りしめた。


「だが――それを返り討ちにする。それが私たちの仕事だ!」

ハル子の目がきらりと輝いた。その決意はすでに“覚悟”となって宿っていた。


シドはそんな彼女をしばらく見つめ、やがてゆっくりと口を開いた。


「そうか……ならば、これを授けよう」


そう言って彼は、黒い革紐で口を結ばれた少し大きめの巾着袋を差し出した。手のひらよりも一回り大きく、ずしりと重みがある。


「ピンチになったら、迷わず開けるのだぞ」


「おう! ありがとな、シド!」


ハル子は気さくに笑って受け取ったが、袋を手にした瞬間、その重みに眉をひそめた。


(……え? この中身、なんか……すごい気になるんだけど)


袋の口元に手を伸ばしかけ、ぴたりと止まる。


(でもこれ……私が前にアルル女王に“ピンチが来たら”って渡したのと同じパターンじゃない?)


開けたい。でも開けたくない。そんな葛藤かっとうが脳内でぐるぐると回っていた。


そのとき、グラン・パド・ドゥの朗々たる声が場内に響いた。


「さあ、まもなく出航だ! 乗り遅れるな!」


その一言で、ハル子たちは現実に引き戻された。巾着袋をしっかりと腰に巻き、彼女は一同とともに飛空艇のタラップを駆け上がった。


鉄と魔法、野望と運命が交錯する空の旅が、いま始まろうとしていた――。



そして、飛空艇は静かに地を離れ、インペラトル皇国の首都――トウキョウへと向けて飛び立った。


挿絵(By みてみん)


雲を割り、蒼天を駆ける鋼鉄の船。その飛行甲板に、ハル子は一人出ていた。高所の風が髪を揺らし、雲海の向こうには果てしない青の大地が広がっている。


(やっぱり、こういう開けた場所って……落ち着くなあ)


目を細めながら空を見上げていると、背後から気配がした。


「魔王ハル子様――インペラトル皇国という国をご存知で?」


重厚な声とともに現れたのは、艦長グラン・パド・ドゥだった。彼は風を受けながらも背筋をまっすぐに伸ばし、威風堂々(いふうどうどう)と立っていた。


「ええ、日本の……ううん、なんというか……古風な感じ?」


ハル子は少し照れたように笑いながら答える。


「ふむ。実はあの国は、聖ルルイエ帝国に迫害された“黒髪”の人々――つまり、魔法が使えぬ人族が集い築いた国家なのですよ」


「えっ、黒髪……そういえば、皆黒かったかも……髪」


思い返してみると、確かに都市セランで戦った兵士たち、どこか懐かしい顔立ちで髪は黒かった――(みんな、戦国時代みたいな感じの甲冑かっちゅうを着ていたから、自然と日本人だと思っちゃったし、違和感なかったわ……)と、内心苦笑した。


「数年前、帝国での差別と弾圧に耐えかねた者たちが、インペラトル皇国へと集い、それ導いた大将軍が軍を起こし、帝国に対して宣戦布告したのです」


「それを率いるのが、大将軍・伊勢双水殿いせ そうずいなのです。あの方こそ、人族の統率者にして、戦略家。勇猛さと慈悲じひを兼ね備えた、まさに英雄なのです!」


語るグラン・パド・ドゥの目は熱を帯び、誇りに満ちていた。


「すごい人なんだ……でも、きっと優しい心の持ち主なんですね」


「まさにその通りです。あの方は、魔力のない人族にとっての“救世主”――希望の星なのです」


澄み切った空の下、風に吹かれながらハル子は目を細める。その胸に、これから出会う者たちへの期待が高まっていく。


(伊勢双水……きっと、すごい人物なんだろうな)


眼下がんかに流れる雲海うんかいはまるできぬのようで、空は限りなく蒼く澄んでいた。


魔王ハル子の新たなる旅路は、空を超えて――“トウキョウ”へと続いていく。







飛空艇に揺られて七日――


鋼鉄の軍艦は、ついに雲を割り、インペラトル皇国の空域へと突入した。


(長かったような、あっという間だったような……)


ハル子は飛行甲板に出て、新しい空の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。風が髪を撫で、異国の気配が肌を打つ。そして、船は徐々に高度を下げていた。


眼下に広がるのは、どこか懐かしく、そして壮麗な光景だった。


木造の建物が整然と並び、その屋根は黒くつややかなかわらで覆われている。周囲には美しい田園が広がり、金色のいなほが風に揺れていた。大通りが縦横に走り、整然とした町並みは、まるで巨大な平城京。まるで日本の時代劇に入り込んだかのようだった。


(うわぁ……タイムスリップしたみたい……!)


興奮を隠せないまま、さらに視線を向けると、目の前に現れたのは――巨大な白亜の城だった。


白い漆喰しっくいの壁に、堂々たる五重の天守。二の丸、三の丸と続く連結式の城郭じょうかく。その姿はまさに、伝説の名城――姫路城のごとく気品と迫力を放っている。


「おおおお!すごーーーい!!」


思わず声を上げたハル子は、子どものように両手を広げ、目を輝かせた。旅の疲れも吹き飛ぶような光景だった。


城の敷地内には広大な広場があり、そこが飛空艇の発着場となっているようだ。赤い旗を振る誘導兵たちが甲冑に身を包み、整然と動いていた。その甲冑はまさに戦国武士そのもので、まるで映画のワンシーンのような異様な現実感がそこにあった。


飛空艇は着地の準備に入り、大きなうなり声を上げながら速度を落としていく。


――ゴォオオオオ……!


「プシューーーーーーー!」


煙突と機関部から白煙を噴き出しながら、軍用飛空艇は地に降り立った。


着地の衝撃がわずかに船体を揺らすと、鉄の階段が機械音とともに地上へとゆっくり降ろされた。


「ふぅ……いよいよね」


ハル子は深呼吸をして、階段を見つめた。その向こうに広がるのは、“黒髪の人族の国”――インペラトル皇国。どんな出会いが待ち受けているのか。心は高鳴り、不安と期待が入り混じる。


そして、ハル子一行は、一歩ずつ――地上へと足を踏み出した。



「久しぶりですね!筑前守!」


甲冑の足音が響く中、声をかけてきたのはクイとカイだった。飛空艇のタラップを降りたハル子の目の前に、にこやかな笑顔で現れた二人。戦場では剣を交えるような鋭い眼差しだったが、今はすっかり友の顔だ。


「ようこそ!我がインペラトル皇国の首都、トウキョウへ!」


とカイが胸を張って言った。


(……東京? でも完全に時代劇セットなんだけど…むしろ”江戸”でしょ!!)


そんな戸惑いを胸にしまいながら、ハル子一行は彼らの案内で、目の前にそびえ立つ巨大な城へと歩を進める。


挿絵(By みてみん)


城門をくぐり、長い回廊を渡った先に通されたのは――まるで劇場のような広大な和式の大広間だった。


畳がどこまでも敷き詰められ、数百畳すうひゃくじょうはあろうかという空間。天井は高く、梁には精緻せいちな彫刻がほどこされ、金箔をあしらった灯籠とうろうが柔らかい光を落としている。脇には巨大な和太鼓が並べられており、その皮を打ち鳴らす音が場内に鳴り響いていた。


ドン……ドン……ドン……ドン……


太鼓のリズムが刻まれると、場内の空気が張り詰めていく。やがて、呼子の高らかな声が響き渡った。


「伊勢双水様の御登場~~!」


そして、現れたのは――全身を漆黒の甲冑かっちゅうで包んだ武者だった。顔すら完全にかぶとで隠され、その存在は、まさに人ならざる“威”そのもの。


高台の畳の間にゆっくりと歩み寄り、座に着いたその男の左右には、旗が三つ、堂々と掲げられていた。


左に桔梗紋ききょうもん、右に竹丸に桐紋きりもん、そして中央には異形のように映える対蝶紋むかいちょうもん。それらはこの国の象徴であり、同時にこの空間を支配する威厳の印だった。


左の席には、以前ハル子が対面した隻眼せきがんの将・惟任日向守これとうひゅうがのかみが静かに座していた。右には、頬に刀傷のある強面の武将が、腕を組んでにらみを利かせている。


そして中央に座した甲冑武者――その存在は異質で、まるで戦場に立つ一柱の神のようだった。


「ようこそ。我がインペラトル皇国へ」


その声は低く、重々しく、そしてはっきりと場を支配した。


「我はこの国の大将軍を務める、伊勢双水と申す」


その名が響くと、場の空気が一段と引き締まった。


ハル子は呆然とその姿を見つめていた。甲冑越しに放たれる気迫に、言葉を失いそうになったが――


(しっかりしなきゃ! 私は今、魔王じゃなくて、ただの旅の使者……!)


と気を取り直し、少し笑顔を作って前へ一歩出た。


「私はハル子!そしてこちらが…アンドウに…ガラハ、あとはこのロボは……ロボタ……です」


名前を紹介するたびに、それぞれがぺこりと頭を下げる。


(魔王軍って、気付かれませんように……!)


心の中で祈るように思いながら、ハル子は伊勢双水の鋭い視線を正面から受け止めた。

「ははは!お主のことはよう知っておる。して……少しばかり、その力とやらを試させてもらってもよいか?」


甲冑越しに響く伊勢双水の声は、どこか楽しげでありながらも、挑戦的な気迫に満ちていた。


「え……?」


ハル子は思わず声を漏らし、視線を泳がせた。唐突とうとつな展開に、思考が追いつかない。


だが、次の瞬間――


「さあ、皆の者! これより、この者と一本勝負を行う! 全員、下がられよ!」


伊勢双水の号令が大広間に響き渡ると、畳のへりに控えていた使用人たちが一斉に動き始めた。屏風がどかされ、太鼓の列が端へと移動し、観覧席のように武将や客人たちが整列する。


「えっ……えええええっ!?」


ハル子は絶句したまま、その場で固まった。両手を挙げたまま、困惑のきわみである。


だが、誰も止めてくれない。空気はすでに「やるしかない」と言わんばかりの流れとなっていた。


やがて場が整えられ、数百畳の大広間の中央に、ハル子と伊勢双水が向かい合って立った。まるで見世物のように、武将や使用人たちが畳の縁から静かにその様子を見守っている。


(ちょ、ちょっと待って! なにこの展開!)


ハル子は慌てながらも、帯に巻いた一つのアイテムにそっと手をえた。――シドから託された、全ステータス3倍増のメギンギョルズ


(……どうなっても知らないんだからね!)


覚悟を決めて、深く息を吸い込む。


そのとき――


「これより、我がインペラトル皇国・大将軍・伊勢双水様と、来賓・ハル子様の一本勝負を執り行う!」


呼子が張り上げた声が空間を切り裂く。


「ルールはただ一つ! 降参するか、動けなくなった者の負けとする!」


静寂が訪れる。


――そして。


ドォォォォォォン!


巨大な和太鼓が轟音を放ち、大広間の空気が一変する。


緊張がぜ、空間が静止したかのような静寂の中――

 

重厚な甲冑を纏った将軍・伊勢双水が、ぬうっと一歩前に出る。


対するハル子も、そっと片足を引き、剣に手をかざした。その瞳には、確かな意志の火が宿っていた。


いよいよ、勝負の火蓋が切って落とされようとしていた――!


ハル子は静かに剣を抜いた。冷たい金属音が大広間に響く。


その対面、伊勢双水は悠然ゆうぜんと長い鉄製のキセルを取り出し、火をともした。紫煙しえんがゆっくりと天井へと昇っていく。まるで戦など、眼中にないかのように――。


「……なめられてるね」


ハル子はじっと相手を見据えながら、心の中で呟いた。


(私、この帯でステータス3倍なんですけど!)


内心の怒りと焦りを抑え、すうっと目を閉じる。そして一言、静かに呟いた。


「――スキル、ソラリス」


その瞬間、ハル子の姿が一閃いっせんの風と化す。光の尾を引くように加速し、まるで音を置き去りにするかのようなスピードで伊勢双水に迫った。


「はあああああっ!!」


鋭いやいばが一直線に振り下ろされる――!


だが。


カン、カン、カン、カン、カン――!


金属音が連続して鳴り響いた。


そのすべてを、伊勢双水は――キセル一本でいとも簡単に受け流していた。


「なっ……!」


衝撃で目を見開くハル子。


(そのキセル……何なの!?)


常識ではありえない。魔力強化された剣撃が、キセルの一振りで受け止められるなんて――。


思考が追いつく前に。


「ふっ」


かすかに唇が笑ったのが見えた――と思った瞬間、キセルの柄が目の前に迫っていた。


ドガッ!!!


「がっ……!」


鈍い音と共に、ハル子の腹部に直撃する衝撃。全身の空気が抜け、彼女の身体が数メートル吹き飛ばされた。


畳の上を転がる音とともに、ピタリと静寂が広がる。


口元から、一筋ひとすじの”赤”が流れた。


(……う、そ……)


立ち上がれない。その一撃には、ただの打撃以上の何か――圧倒的な「格」の違いが込められていた。


遠のく意識の中、ハル子は震える手で剣を支えながら、立ち上がろうとする。


観客たちの息をのむ声が、どこか遠くから聞こえていた。


(え……なにこのオッサン……強すぎる……!)


たたみに這いつくばったまま、ハル子は苦悶くもんの息を漏らす。


(ならば――)


「少し手を抜いてたわ! 本気でいかせてもらいます!」


震える手で剣を両手に握り、天へと掲げた。その瞬間、彼女の全身から濃いくれないのオーラが噴き出す。


「――オメガアタック!!」


オーラは空気を裂き、床をきしませるほどの圧を帯びて渦巻いた。


(さあ……前とは違う。ステータス30倍……いや、擬人化の指輪で半減だから‥‥15倍止まりだけど――それでも!)


「さあ、行くよ!!」


気合と共に爆発的な加速。ハル子の姿が残像すら残さず消え、まるで稲妻のように伊勢双水へと斬りかかる!


――その刹那。


ドガァァァァァン!!


激しい衝撃と共に、大広間に煙と砂塵が立ち上る。


一瞬の静寂。


煙の中から見えたのは――


床に叩きつけられ、血を吐きながら倒れ込むハル子の姿だった。


「……がっ……!」


伊勢双水のキセルのたった一撃が、すべてを凌駕していた。


観衆が息を呑む中、ハル子は歯を食いしばりながらゆっくりと体を起こす。


「……まだ……まだよ!!」


鋭く睨みつけるその瞳に、怯えはない。あるのは、ただ燃えるような闘志だけ。


(……この指輪、外すしかない……!)


ハル子は決意し、指輪に手をかけた――その瞬間。


「――ふふふ、わしの負けじゃ」


唐突とうとつに、伊勢双水が手を下ろした。


「強くなったのう、ハル子よ……」


優しげな声音。それは、どこか懐かしい響きを帯びていた。


そして――


伊勢双水はゆっくりとかぶとを脱ぎ、顔を晒した。


「――え……? ま、()()()()()???」


まさかの素顔に、ハル子の脳が理解を拒絶する。


「ど、どういうこと……!?」


混乱するハル子の背後で、呼子の声が響く。


「勝者――ハル子様!!」


ドンドンドンドンドン!


和太鼓の音が堂々と場を支配する。観客たちは拍手喝采。熱狂の渦が大広間を包み込む。


だが――


その中心で、勝利したはずのハル子は、未だ呆然ぼうぜんと立ち尽くしていた。


(……夢? なんなの……この展開……?)


胸の鼓動こどうだけが、現実を告げていた。


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