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Chapter42【光の騎士】

(リヴァイア・レン……父はリヴァイア・サン……そういうことか)


(だが――本来なら父と結ばれるはずの召喚契約が、なぜラ・ムウに?)


疑念が胸をよぎる刹那、空から咆哮(ほうこう)(とどろ)いた。


漆黒の飛竜――バハムートが、破壊神ガルーダに鋭く襲いかかる。翼を広げ、空を切り裂きながら、闇を纏うその巨体が雷雲をかき消していく。その背には紅蓮(ぐれん)の魔力が灯り、次の瞬間、灼熱の業火がその(あご)から放たれた。


一方、蒼き海の覇者――リヴァイア・サンも、悠然(ゆうぜん)と宙を舞い、勇敢に挑む。龍のごとき長大な身体を(ひるがえ)し、口から奔流のような水圧レーザーを放つ。白銀の波動は空気を裂き、轟音を伴ってガルーダを狙い撃った。


だが――


「グゥヤアアアアッ!!」


ガルーダの翼が風を裂き、二つの攻撃を弾き返す。バハムートの炎は空中で跳ね返り、下方の帝国軍に降り注いだ。火柱が上がり、地面が揺れ、兵士たちの悲鳴が混じる爆発音が響く。


リヴァイア・サンのレーザーも、ガルーダの翼に砕かれた。弾き飛ばされた水流は地面に叩きつけられ、大地に深々と亀裂を刻んでいく。土煙が舞い上がり、戦場が混沌とした怒りの咆哮に包まれた。


「つ……強い……思った以上だ……」


魔王軍不死騎士軍副軍長リリスが思わず声を漏らす。その瞳がわずかに揺れた。


その時、空高く舞い上がった漆黒の飛竜――バハムートが、咆哮と共に口元に魔力を集中させる。赤き光が収束し、空間が歪むほどのエネルギーが膨れ上がる。そして――


「インフェルノ!」


炎と共に放たれた死の閃光が、一直線に破壊神ガルーダへと襲いかかる。迎撃するように、ガルーダは巨大な翼を翻し、再び防御の姿勢を取る――が。


「ギギギィイイイッ!!」


その一撃は、すでに神の耐久すら超えていた。ガルーダの翼が焼け(ただ)れ、爆風が空を揺るがす。衝撃波が四方に広がり、戦場の空気が震える。


ガルーダは苦悶(くもん)の声を上げ、空中でバランスを崩す。その瞬間を逃さず――


「ハイドロプレス!!!!!」


リヴァイア・サンが雷鳴のごとき声と共に咆哮した。開かれたその口から放たれたのは、渦巻く怒涛の海流。水が光を纏い、まるで巨大な龍の如く空を駆け、ガルーダに襲いかかった。


ドゴォオオオオオオオオオン!!!


直撃。衝撃とともに空が爆ぜ、水飛沫(みずしぶき)が戦場一帯を包み込む。視界は白い霧に覆われ、誰もが一瞬、何が起きたのか分からなくなる。


ガルーダは再びよろめいた。巨大な身体が左右に揺れ、その威容に亀裂が走っているのが見える。


そして――


「ラ・ムウよ……我らの力では、かの破壊神ガルーダは倒せぬ……」


静かに、だが重々しく、リヴァイア・サンが呟いた。


その声は、霧の中でも確かに響き、魔王軍の者たちの胸に深く突き刺さった。


「魔王様よ……なにか、打つ手は……」


焦燥に揺れる声で、傍らのラ・ムウが問いかけた。破壊神ガルーダの暴威を前に、老いた賢者の目にもわずかに怯えが浮かんでいる。


ハル子は静かに目を閉じ、頭の中に浮かぶ最後の切り札を思い描いた。


――《ナイツ・オブ・ラウンド》。


ログエル王国のアーサー王と十二人の騎士団を召喚する、唯一無二の超召喚魔法。発動には莫大な魔力を要し、一度使えば十年は再召喚できない。まさに「一世一代の切り札」だ。


(……十年に一度、か。だが――いま使わずして、いつ使う!)


ハル子の瞳が力強く見開かれ、決意が宿る。


「うむ! 我が召喚魔法で押し切ろう!!」


マントを翻し、戦場に向かって手を掲げる。


「さあ――いでよッ!!」


その瞬間、空気が震え、魔力が天に向かって螺旋を描き始めた……が。


「――ちょっと待って!!!!」


鋭い金属音とともに、戦場の後方から轟音が鳴り響いた。空を切り裂くジェット音。振り返ると、黒煙を巻き上げながら、漆黒のロボットが猛スピードで接近してくる。


「ガーラ!?」


彼女の乗る機動兵装は、重力駆動式の超重量級ロボット“アルバス”。


「待って‥‥・魔王様! 私に‥‥私にやらせて!」


魔力のうねりが空を満たす中、不意の乱入に一同が凍りつく。


ハル子の手が、半ば召喚を始めかけていた空中で止まった。


「……ガーラ‥‥」


修道女ガーラの乗った機体に気迫が溢れるのを確認した。


「ようやく……追いつきました……魔王様……私に修行の成果を見せたいのです!」


漆黒のロボのコックピットから姿を現したガーラが、血の滲むような決意を込めて叫んだ。彼女の額には汗が浮かびあがって見えた。


その言葉に、大魔導士ラ・ムウが目を細めた。


「うむ……これは、面白いかもしれぬのう……」


ただの機械兵士ではない。“その放たれる魔力とオーラ”――そんな気配を彼は感じ取ったのだ。


ハル子はしばし沈黙し、ガーラの真っ直ぐな瞳を見つめる。


(……正直、あまり期待はしてないけど……修行の成果…見てみるのも悪くないかな?)


ほんの少し口元を緩め、魔王ハル子は顎を引いて威厳ある声で命じた。


「よし、ガーラよ!修行の成果を――見せてみよ!」


その声に、ガーラの身体が震える。まるで、長年追い求めてきたその一言を受け取ったかのように。


「はい! 見ていてください、魔王様ッ!!」


エネルギーがチャージされ、ロボットの背部ジェットが閃光を放つ。


次の瞬間、轟音とともに漆黒の機体が天へと舞い上がった。


戦場の空に、新たな星が昇る――。


「さあ、行くよ――アルバス!!」


ガーラが叫ぶと同時に、コックピット内に光が点滅した。


「同期スタンバイ完了。魔力チャージ、お願いします!」


機械音混じりの声が返る。戦闘モードのアルバス、その声にはまるで意思が宿っているかのような響きがあった。


「はあああああッ!!」


ガーラが両手を広げ、魔力を機体へと注ぎ込む。彼女の身体からほとばしる光が操縦席に流れ込み、全身の回路を奔る。


ギギギギ――!


機体全体が一瞬、音を立てて震えた。そして次の瞬間、ロボットの装甲が閃光を放ち、漆黒から――

純白へと変貌した!


まるで神話に出てくる“光の騎士”のような姿に変わったそれは、戦場の誰もが目を奪われるほどの神々しさを放っていた。


「よし……あれ、いくよ! 準備はいい?アルバス!」


ガーラが叫ぶ。高揚したその声に、アルバスが応える。


「魅せましょう、我らの最終火力――!」


白きロボの左腕に光が集まり、まばゆい輝きが弓の形を取る。そして右腕に――


「火力最大出力――《ブラフマーストラ》、展開!!」


空間を歪ませるほどのエネルギーが凝縮され、一本の光の矢となって姿を現す。


「――さあ、行けええええッ!!」


ガーラの雄叫びと同時に、弓は解き放たれた。


閃光の一撃――神すら撃ち落とす“終焉の矢”が、破壊神ガルーダに向かって解き放たれる!


光の矢は、神速の如く破壊神ガルーダへと一直線に突き進んだ。


その速度、威力、気迫――あまりの凄まじさに、ガルーダでさえ本能的な恐怖を覚えたのか、両翼を前に広げ、顔を覆い隠すようにして身を守ろうとする。


しかし――


「ブラフマーストラ」の矢はその防御をあざ笑うかのように、翼ごと貫いた。


ゴウッッッ!!!


爆裂するような衝撃が大気を裂き、矢はそのまま地表を抉って突き進み、地中深くへと突き刺さった。


瞬間、轟音と共に地面が光に包まれ――


破壊神ガルーダの姿は、まるで霧が晴れるように、音もなく、儚く、消え去った。


……静寂。


その光景を目にした帝国兵たちの間に、衝撃と恐怖が走る。


三十万の大軍は、まるで時間が止まったかのように唖然(あぜん)と立ち尽くした。


「……ば、化け物だ……」


「破壊神ガルーダ様が……一撃で……」


兵士たちは口々にそう呟き、戦意は風に流される塵のように失われていった。


その隙を逃さず、ハル子は立ち上がり、声高に笑った。


「――フッハッハッハ!! よくやったぞ、ガーラ!!! あとは我に任せよッ!!!」


その声は、戦場全体を震わせるほどの威厳に満ちていた。


しかし――


(やっば……このロボ……それにガーラ……バハムートやリヴァイア・サンより強いんじゃない?)


と、心の奥では冷や汗をかきながら、ハル子は小さく呟いたのだった。


「――フェーバー!」


魔王ハル子が呪文を唱えた瞬間、天を覆うように巨大な魔王の幻影が出現した。


その姿は禍々(まがまが)しくも荘厳(そうごん)。赤黒いオーラを纏い、鋭く光る眼で帝国軍三十万を睨み下ろした。


「さあ帝国軍よ!死を届けようじゃないか!!」


とハル子は恐ろしいまでの威圧感を交えた声で言い放った。


「う、うわあああああ……!」

「魔王‥‥…あの魔法を使うのか‥‥!」

「我が軍二十万をたった一撃で消し飛ばした、あの“魔法”を……」

「逃げろっ……皆!逃げるんだああああああ!!!」


帝国兵たちは恐慌(きょうこう)状態に陥った。指揮官たちがいくら制止しようとも、誰も耳を貸さない。陣形は崩れ、兵士たちは蜘蛛の子を散らすように敗走していく。


勝敗は、決した。


「――ふっはっはっはっはっは!!!!!」


戦場の中心に立つ魔王ハル子が、威風堂々と勝利の笑い声を轟かせた




――そのとき。


「……たすけて……! ハル……!」


風に紛れるような、かすかな声が耳に届いた。


ハル子は、ふと顔を上げる。


遥か空の彼方、光を纏った天使のような存在が飛翔し、その腕に抱えられるようにしているのは――


「アルル……!?」


レオグランス王国の女王、アルル。アンドラスに護衛を任せてあったはずだが…今、空に浮かんだ何者かに連れ去られようとしている。


「――しまったッ!!!」


思わず声を上げたハル子は、即座に魔力を練り、詠唱する。


「――飛翔!!」


瞬間、背に黒き魔翼が顕現(けんげん)し、風を裂いて空へと舞い上がった。


魔王の力、その矛先は今――

仲間を奪った“天使”へと向けられた。


挿絵(By みてみん)

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