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Chapter3【決闘】

闘技場の巨大な門をくぐった瞬間、耳を劈くような轟音がハル子を包んだ。


――歓声だ。


観客席を埋め尽くす無数の魔族たちが、咆哮にも似た声で沸き立ち、その熱狂はまるで炎の渦。

空気が震え、地面すら脈打っているように感じられる。


ハル子は思わず立ち止まり、圧倒的な熱気に目を見開いた。


ふと視線を横に向けると、そこにはリヴァイアが乗ってきた飛竜──黒銀の巨躯を誇るドラゴンが、悠然と翼を休めていた。


陽光を鈍く反射する鱗は、まるで鋼鉄と夜の混ざり合ったような色。

その存在感は、伝説そのものだった。


(……うわ、なにこれ。ほんとに、ゲームの中じゃん……)


思わず心の中で呟きながら、ハル子は足を進めた。

闘技場の中心へ――運命の渦のただ中へ。


そして、そこに"いた"。


リヴァイア。

腕を組み、仁王立ちし、鋭い眼光をこちらに向けている。

鍛え抜かれた肉体からは、ただ立っているだけで覇気が吹き出していた。


彼女は、この舞台の“王者”だった。


そのときだった。


低く、地鳴りのような声が闘技場に響いた。


「レンよ、油断は禁物だぞ……」


(えっ……!? 今、ドラゴンが喋った……!?)


ハル子は心の中で絶叫しながらも、なんとか表情を保った。

けれどその内心は、既にパニック寸前だ。


リヴァイアは飛竜に深く頷き、拳をぎゅっと握りしめる。


「この小生リヴァイア、たとえ偽りの魔王とて、全力で討ち果たしてみせましょう! 見ていてください、バハムート様!」


――その名を聞いた瞬間、ハル子の思考が凍りついた。


(バハムート……!? やっぱりこれ……絶対、ゲームの世界だよね……!?)


しかし――


肌に刺さる乾いた風。

鼻をつく砂塵の匂い。

耳を焼くような観客の熱気と叫び。


そのどれもが、信じられないほど「リアル」だった。


(……いやいや、リアルすぎるでしょこれ!!)


どこか夢の中にいるような感覚で戸惑うハル子をよそに、重厚な足音が響いた。


アンドラスが現れたのだ。

深紅のマントをはためかせ、堂々と闘技場の中心へと歩み出る。


そして、地を割るような声を張り上げた。


「これより試合を開始する!

勝敗は、相手が動けなくなるか、気絶、もしくはギブアップによって決する!」


その声音には、長き戦場を渡り歩いた者だけが持つ威圧と儀式めいた重みがあった。


宣言を終えると、アンドラスは静かに身を(ひるがえ)し、闘技場の外へと退いていく。


緊張が、場を支配する。


そして――


──ゴォォォン!


銅鑼(どら)が鳴った。

それはまるで、世界を切り替える合図のように、場内の空気を震わせる。


試合、開始。


刹那――

リヴァイアの姿が、まるで霧が風に吹き飛ばされるように消えた。


(……え!? 消えた!?)


驚きが脳を突き抜けるより早く――


ズバァンッ!


上空から、閃光のような剣閃(けんせん)が落ちてくる!


リヴァイアだ。

天を裂き、音速で急襲しながら、鋭く剣を振り下ろしてきた!


ハル子の本能が叫ぶ。

“ヤバい、死ぬ!”


咄嗟に身をひねり、紙一重で回避。

風圧が肌を裂きそうなほど鋭かった。


(……この身体……なにこれ、めちゃくちゃ動ける!!)


息を呑むほどのスピードでの反応。

脳より先に、身体が勝手に動いている――!


一撃をかわしたハル子を見て、リヴァイアが口元を吊り上げた。


「さすがは魔王よ。その一撃を見切るとは……だが、これならどうだッ!」


言い放つや否や、跳躍。


そのまま宙を舞い、天高く躍り上がる。


「スキル――十束(とつか)の舞!!」


リヴァイアの剣が光を裂いた。

流星群のごとき十連撃。

天からの斬撃が、まるで雨のように降り注いでくる!


(あかんあかんあかん、これ正面から食らったら終わるって!)


ハル子は反射的に手をかざし、コンソールを呼び出す。

必死にスキル一覧をスクロールし――目に飛び込んできたそれを、迷わず選択。


「スキル、ソラリス発動!!」


次の瞬間、剣が眩く煌めいた。


キィィィンッ!!


互いの剣が激突し、火花を散らす!

鋼と鋼がぶつかる咆哮が、闘技場にこだました!


ソラリスの剣技が、降り注ぐ十連撃を受け流し、

その合間を縫って、鋭いカウンターが突き刺さる!


「ぐっ……!」


リヴァイアが地面を裂くように着地し、片膝をついた。


「……これでも通用しないか……っ!」


だが――


リヴァイアはすぐさま立ち上がった。

血走った瞳でハル子を睨みつけ、叫ぶ。


「ならば、これでどうだァ!!」


怒声とともに、彼女は天へと手を掲げる。


「バハムート様――我に、力を!!」


「バハムート弐式!!!」


その瞬間だった。


飛竜バハムートの巨体が、音もなく霧散(むさん)し、

黒煙のごとくリヴァイアにまとわりついていく。


──そして始まる、変貌。


肌は光り輝く鱗に覆われ、

顔は竜へと変わり、尾ひれが空気を切るように揺れる。


その姿はもはや人ではなかった。

竜の神威(しんい)を宿した、完全なる“人型竜”――バハムートの化身。


挿絵(By みてみん)


リヴァイアが唇を吊り上げ、高らかに告げる。


「これが我が究極魔法……!

この姿での戦闘時間はわずか三分!!」


「だがその間、攻撃・防御・速度――すべてが()()となる!!」


言葉とともに、地を揺るがす魔力が噴き出す。

闘技場全体が震え、空気が焼けつくような熱気に包まれた。


ハル子はその光景に、顔をひきつらせながら心の中で叫ぶ。


(ちょ、ちょっと待って……6倍って……それもうラスボスの仕様じゃん!?反則でしょ!?)


額に冷や汗が滲む。

このままでは、確実に押し切られる。


(落ち着け……! 落ち着けってハル子……!)


ハル子は呼吸を整え、手を伸ばしてコンソールを呼び出す。

震える指先で必死にスキル一覧をスクロールする――


そのとき、あるスキル名が目に飛び込んできた。


それは、今まで使ったことのない、

だが、どこか“決定的”な何かを感じさせるものだった。


(……これだ。)


ハル子の瞳が光を宿した。


次の瞬間、彼女は無造作に剣を()()()()()

金属音が乾いた地面に鳴り響く。


そして、空を仰いで――突如、笑い出した。


「ふふ……ふふふ……ふはははははっ!!!!」


その声は狂気そのもの。

観客席の魔族たちが、一斉に沈黙する。

空気が凍ったような静寂が、場を支配した。


リヴァイアが目を細める。


「……どういうことだ? 剣を捨てるとは……まさか、敗北を認めたのか?」


だが、ハル子は静かに口角を吊り上げ、凍てつくような声で告げた。


「貴様ごとき――指一本で十分だ。」


一瞬で怒気が爆ぜた。

リヴァイアの顔が怒りで真紅に染まる。


「なにぃぃぃ……!? ほざくなぁぁぁぁぁッ!!!」


竜のごとき咆哮とともに、暴風のような気迫が場を襲う。

リヴァイアが突進。

空気が軋み、観客席の魔族たちさえ思わず身をすくめるほどだった。


──だが。


振り下ろされた剣が裂いたのは、空虚(くうきょ)な残像。


「なにっ!? どこだ!? どこにいるッ!?」


パニックに陥るリヴァイア。

そのとき――


耳元で、冷たい囁きが響いた。


「どこを見ている……ここだ。」


気づいた瞬間には、もう遅い。


ハル子の指が、リヴァイアの額を――軽く、つついた。


──デコピン。


「ぐぼぁっ!!!!!」


雷鳴のような音とともに、リヴァイアの身体が吹き飛ぶ。

まるで投石器で弾かれたかのように、闘技場の端まで一直線。

石壁に激突し、そのまま深々とめり込んだ。


……微動だにしない。


完全、沈黙。


場内には、再び、死のような静寂が訪れていた。


──カン、カン、カン、カン!


試合終了の鐘が、場内に高らかに鳴り響いた。


静まり返る闘技場の中央に、アンドラスがゆっくりと歩み出る。

その重々しい足音が、勝利の余韻をさらに引き立てていく。


そして――


「魔王様の──勝利!!!!」


宣言と同時に、場内が爆発した。


「魔王様ぁぁーーッ!! 最高ォォ!!」

「魔王様万歳ッ!!」

「ルシファー様! ルシファー様!! ルシファー様ァァッ!!!」


怒涛のような歓声が、闘技場を飲み込む。

魔族たちのコールが一つに揃い、まるで雷鳴のように響いた。


万雷の称賛を浴びながら、ハル子はその場に立ち尽くしていた。


呆然としたまま、心の中でぽつりと呟く。


(……え? ルシファーって……私の名前?

って、堕天使!? 魔王!?

ていうかこの世界観、どこまで盛るつもりなの!?)


大歓声の渦。降り注ぐ称賛の嵐。

だがハル子の脳内は、別の意味で修羅場だった。


そうして彼女は、混乱と喝采の両方に包まれながら、

知らぬ間に“魔王ルシファー”として祭り上げられていった──。



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― 新着の感想 ―
いくら偽物と思ったからっていきなり魔王様にタイマン張るのは凄いっすね。でもそのくらい四天王も強いという事ですかね。四天王を全員出さないで小出しにしていくスタイルも今後の登場に期待がかかっていいですね。…
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