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Chapter12【激戦】

夜が明け、灰色の雲が空を覆っていた。

昨日の澄んだ青空はどこへ行ったのか、まるでこれからの戦を予期するかのように、大地に重苦しい気配が立ちこめていた。


アーサー王と魔王ハル子は、それぞれの軍を率いて進軍することを決め、最後に一瞬、視線を交わす。


互いの腕を交差させ、戦友としての信頼と祈りを込めて。


「ルシファー殿、どうかご武運を」

アーサー王が静かに告げる。


「勝利は我らに!」

魔王ハル子が鋭く言い放ち、両軍は別れの時を迎えた。


挿絵(By みてみん)



静寂を裂くように、金属の鎧がぶつかり合う音、兵士たちの規則正しい足音が、朝靄の中に響いていく。


しばらくすると…


アーサー王軍は、焼け焦げたキャドバリー村を通過した。

そこにはかつての生活の痕跡すら失われ、瓦礫の山と化した家々、崩れた教会の鐘楼しょうろうが痛ましく横たわっていた。


灰が舞い、空気は焦げ臭く、死の気配が肌を刺す。


「この光景……ガーラには見せなくて良かったな」

リヴァイアが眉をひそめ、声を絞り出す。


「……はい」

仮面の下から、魔導士リリスがかすれた声で答えた。


その時――遠くの空に轟音が走る。

赤黒い火柱が爆ぜ、竜巻が天を裂き、怒涛のような攻撃音が風とともに響く。


「戦が始まっておるな……」

アーサー王の目が鋭く細められた。


キングスウッドの南、都市を囲う長大な城壁に向かって、聖ルルイエ帝国軍が総攻撃を仕掛けていた。

矢の雨が空を覆い、爆発音が轟き、城壁に迫る帝国の兵士たちは獣のような雄叫びを上げていた。


城壁の上では、ログエル王国の兵が必死に応戦しているが、敵の物量とロボット兵の前に、明らかに押されていた。


「ふむ……敵はまだ我らに気づいておらぬな。皆、突撃陣形を取れ!」

アーサー王が声を張る。


その号令に、ランスロットとガウェインが胸に手を当て敬礼し、すぐさま部隊を整える。


アーサー王は剣を高らかに掲げた。空の雲間から一筋の光が剣を照らす。


「聞け!これより敵の背後に奇襲をかける!この戦の勝敗は、そなたたち一人ひとりの槍に、剣に、心にかかっておる!

――全軍、突撃ぃい!!!!!」


「うおおおおおおおおおおお!!!!」


怒号が天地を揺るがし、騎馬と歩兵が一斉に走り出す。

鉄蹄てっていが地を蹴り、剣が風を切る。突撃の嵐が、静寂だった戦場の裏手に押し寄せた。


後衛にいた帝国兵がようやく気づく。


「て、敵襲!? 後ろから!? ば、馬鹿な……!」


悲鳴も束の間、アーサー軍の鋭い突撃が帝国軍の背後を切り裂く。

陣形は瞬く間に崩壊し、戦場は混乱の坩堝と化した。


その混乱の最中、キングスウッドの城壁上。

白髪の大魔導士マーリンが、深い目を細めて呟く。


「おお……あれは、アーサー王の軍か。まさかこの時を見ようとは」


その隣で、青年パーシヴァルが槍を肩に担ぎ、瞳を輝かせる。


「さあ、参ります!アーサー王が背後に現れた今こそ、我らも動く時です!」


城門が音を立てて開かれ、パーシヴァルの声がこだました。


「聞け!王が敵の背後に現れた!これは、かねてよりの作戦通り!全軍、突撃準備――命を無駄にするな!勝ち残ってこそ誉れぞ!」


「おおおお!!」

兵たちの士気が高まり、パーシヴァルは槍を突き出して叫ぶ。


「全軍――突撃!!!」


騎兵たちが疾風のごとく飛び出し、地を鳴らすひづめが戦場へ突き進む。


空では、マーリンが巨大な魔法陣を完成させた。

旋回する竜巻の中、数千の鋼鉄の矢じりが渦を巻いていた。


「行け……嵐よ、我が敵を貫け!」


その呟きとともに、竜巻が爆発するように前方へ解き放たれた。

鋭い音を立てて降り注ぐ矢じりが、帝国軍の隊列を容赦なく貫き、兵が次々と倒れていく。


「マーリン殿、感謝いたす!」

パーシヴァルが叫び、槍を構える。


「この聖槍ロンギヌスの威、思い知れッ!!」

一閃――槍の突きが敵兵を吹き飛ばす。兵士の盾ごと貫かれ、地を抉る。


だが帝国軍の中枢には、恐るべき存在があった。

身の丈五メートルはあろう緑色のロボット兵が、鋼鉄の巨体を軋ませながら進軍してくる。


巨大な剣が風を裂き、拳が地面を叩くたびにログエル兵が吹き飛ばされていく。

一撃で十人をなぎ倒すその力は、まさに戦場を支配する"巨神"だった。


そこへ、閃光と共にアーサー王が舞い降りる。

聖剣エクスカリバーが黄金の光をまとい、王の手で振り下ろされる。


「斬ッッッ!!」


剣閃一閃。

ズバン――!という音と共に、ロボットの脚が関節ごと斬り落とされ、巨体が地に沈んだ。


「皆の者、このロボットは通常の攻撃では斬れぬ!狙うは関節、つなぎ目だ!そこを叩け!!」


アーサーの号令が飛ぶと、兵たちがその言葉に従って動き始める。


的確に脚の根元を狙い、鋼鉄の巨体が次々と倒されていった。

片足となったロボットがバランスを失い、轟音と共に地面に倒れ込むたび、戦場に勇気が広がっていった――。



【激戦深まる――死の大地と神の咆哮】



「よし! この調子だ! いけるぞ!」


ガウェインが剣を振るいながら叫ぶ。帝国軍の重装歩兵を次々に打ち倒し、敵陣の突破口を開きつつあった――その瞬間。


ズガァン!!


「うわっ!?」


土煙とともに、何かに弾き飛ばされるようにガウェインの身体が吹き飛んだ。重い鎧ごと跳ね上げられ、鉄と肉が軋むような鈍い音が戦場に響く。


「ガウェイン!? どうした!?」


ランスロットが叫ぶ。しかし彼の目に映ったのは、戦場に不釣り合いな“黒い壁”のような影だった。


「……な、なんだ……あれは……」


ランスロットの視線の先――その正体に、アーサー王の目が見開かれる。


「……っ! あれは……バジリスク……いや、それ以上の……」


現れたのは、まさに“神話”そのものだった。

全長50メートルにも及ぶその蛇は、コブラのような威嚇姿勢で鎌首かまくびをもたげている。

ただし、体を覆うのは黒金色の竜鱗りょうりん。七本の角が王冠のように頭から伸び、鋭く光る瞳は生物のものとは思えない“ことわり”の視線。

その存在がわずかに動くだけで、空気がひび割れ、大地が軋む。


だが、それだけでは終わらなかった――


ドゴォォォォォン!!!


離れた場所で大爆発が起き、数十のログエル兵が空中を舞う。


「こ、今度は何だ――!?」


その中心から現れたのは、さらに異形なる存在。

頭部は二つ――片方は獰猛どうもうなライオン、もう一方は冷徹な瞳を持つヤギ。

そして、隆々たる筋肉を備えた四肢に加え、尻尾は生きた蛇のようにうねり、毒を含んだ牙を剥いている。


キメイラ――破滅をもたらす召喚獣の王。


「……あれは……あれまで召喚してきたのか……!」


アーサー王が、信じられないものを見るように呟く。


バジリスクが咆哮し、キメイラが咆える。


その瞬間、戦場が――地獄と化した。


バジリスクが地を這うだけで、兵士たちは恐怖で足が竦み、逃げ出す間もなくその尾で吹き飛ばされる。

鋼の甲冑すら意味をなさず、巨体に踏み潰されて原型を留めぬしかばねと化す。


キメイラは咆哮とともに火炎を吐き、兵の隊列を飲み込む。

その口が開くたびに命が消え、尻尾の蛇が襲いかかれば十数人が一度に吹き飛ばされる。


「うわああああっ!!」

「助けてくれぇええ!!」

「だ、誰かっ……!!」


死、死、死。

味方の悲鳴と、焼け焦げた肉の臭いが充満し、絶望が戦場を覆い尽くす。


「……くっ……ここは、一時撤退しか……!」


アーサー王の決断が下されようとした、その時――


空が、裂けた。


雷鳴のような音とともに、天空から二つの影が急降下する。


「ギャアアアアアアアオオオン!!」


漆黒に輝く竜――リヴァイア。そして、紅蓮の王・バハムート。

その背にまたがるのは、魔王軍四天王リヴァイア。


「行くぞッ! インフェルノォォォッ!!」


詠唱の声が轟き、バハムートの口から光が集まり

灼熱の火球がバジリスクめがけて降り注ぎ――


ドゴォォォオオオオオン!!!!


爆発音が大地を裂き、火焔が空を焦がす。

数百メートル先まで炎と爆風が押し寄せ、バジリスクの巨体が悲鳴のような咆哮を上げ、揺らぎ、そして――


ズシィィィィィィィン……!!


倒れた。その衝撃だけで地面が沈み、戦場が震えた。


そして、それを見上げ唖然としているアーサー王のそばに

戦線の隙間を縫うように、リリスが現れた。


彼女は顔を覆う髑髏どくろの仮面を少し上げ、静かに巻物を取り出した。


「ご安心ください……母上を召喚します――召喚魔法ボレアス!」


布の巻物が開かれ、神秘的な光が戦場を照らす。

その中から、神聖な風とともに現れたのは、青白い輝きを放つ巨大な女神。


挿絵(By みてみん)


「……久しいわね、リリス……」


ボレアス――氷の霊王。

優雅に空中を漂い、キメイラを一瞥する。


「うるさいわね……コキュートス!!」


瞬間、絶対零度の吹雪が戦場全体に解き放たれた。

キメイラの咆哮が氷の壁に吸い込まれ、たちまちその全身が氷塊と化す。


そして、ボレアスは冷たく指を鳴らす。


パチンッ


・・・・と


その音に反応し氷漬けになったキメイラに

ヒビが走った。


パリ……パリリ……


パリィィィィン!!!


氷塊は無数の破片に砕け、風に吹かれて消えた。


「ふん、雑魚が……」


冷たく言い放つボレアスは、リリスにだけ柔らかく微笑む。


「無理しないでね、リリス……」

と優しい口調で言った。


そして、風とともにその姿は消え去った。


戦場に残されたのは、静寂と――圧倒的な“力の差”を目の当たりにした者たちの、呆然とした瞳だけだった。


アーサー王、ランスロット、ガウェイン……そしてログエル兵たち。

彼らは理解した。


これは、“神の領域”だと。


アーサー王は剣を高々と掲げ、戦場に響き渡る声で叫んだ。


「脅威は去った! さあ、立ち上がるのだ! 我が勇者たちよ!!」


血と泥にまみれた兵士たちは、その声に顔を上げた。

恐怖に凍りついていた彼らの瞳に、再び光が宿る。

崩れ落ちた盾を拾い、剣を杖のように使って立ち上がる者もいる。


その様子を、戦場の遠く、丘の上から

赤い鎧に身を包んだ男が見下ろしていた。


聖ルルイエ帝国軍

将軍カマエルである。


隣には金色の鎧に長い金色の髪をなびかせ、鞭を丸めて手に持つ女将軍――

将軍クシエル。


「……ぐっ、旗色が悪い……。まさか我が召喚獣・バジリスクがやられるとは……」


カマエルは、唇を噛みしめながら呟いた。


「同じです……我がキメイラまで氷塊にされるとは、想定外でした」


クシエルが静かに応じる。

二人の眼差しは、戦場の彼方で氷となって砕け散った召喚獣の残骸を映していた。


一瞬の沈黙ののち、二人は目を合わせる。


「……撤退、ですかな」


「ええ、妥当でしょうね」


その言葉とともに、二人は背中の天使の如き翼を広げ、冷たい風を切って南へと飛翔した。

その姿は、夕陽に照らされ赤く染まりながら、徐々に空へ溶けていった。


――残された帝国兵たちは、動揺に包まれていた。


「え……カマエル様とクシエル様が……帰還された……!?」


「ま、まさか……見捨てられたのか……!?」


「ち、撤退だ!退けーっ!全軍、撤退!!」


一人、また一人と走り出す。

その動揺はたちまち伝播し、あれほど統率されていた帝国軍は総崩れとなった。


地響きとともに、帝国兵たちは敗走を始めた。

それはまさに、堤防が決壊したかのような混乱。統率を失った軍は、もはや軍ではなかった。


その光景を見届けたアーサー王は、戦の終わりを告げる。


「皆の者! 我々の勝利だ!!!!!」


剣を高く掲げたその声は、雷の如く戦場に響き渡る。


「おおおおおおおーーーーっ!!」


ログエル兵たちが一斉に叫び、勝利の雄叫びが天を震わせる。


その様子を、空から見下ろしていたリヴァイアは、静かに微笑んだ。

下にいるリリスを見つめるその瞳には、誇りと安堵が浮かんでいた。


その頃、戦場に一人の騎士が駆け寄ってきた。


「我がアーサー王! よくご無事で――!」


パーシヴァルが膝をつき、敬礼する。


「おお、パーシヴァル。ケガはないか?」


「はい。しかし、報告があります。私は城壁の上から帝国軍を観察しておりましたが……」


彼は深刻な表情で続けた。


「今、我々が戦っていた帝国兵は、おそらく五万弱……帝国軍にはまだ十万以上の兵が本陣に残っているかと……。このままでは――」


「な、なに……!? 十万だと……?」


アーサー王の顔が青ざめた。


「し、しまった……! ルシファー殿が一万の兵を率いて、本陣――アレッサンドリアへ向かっていた……!」


拳を握りしめ、歯を食いしばる。


(まさか、陽動……!?)


アーサー王の脳裏に最悪の可能性がよぎる。

目の前の勝利の代償として、後方の都市が――味方が、囮になってしまっていたのではないか。


(今から援軍を出すにしても間に合わぬ……! アレッサンドリアは、この戦場からでは遠すぎる……)


胸に渦巻く焦燥と罪悪感。

それでも祈るしかなかった。


彼は空を見上げた。


厚い雲の隙間から、一筋の光が差し込む。

天が勝利を祝しているかのように。


「ルシファー殿……どうか、ご無事で……!」


彼の声は空に吸い込まれ、太陽の光が静かに戦場を照らしていた。


――――――――――


そして、時を2時間さかのぼる――


荒れ地を越え、深い森を抜けた先。

そこに立ち現れたのは、海洋都市アレッサンドリアの荘厳なる城壁。


その前に姿を現したのは――


魔王ハル子。

そして、彼女に従う**影偵軍シャドウレギオン**であった。


その眼差しは、静かに都市を見据えていた――



挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

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本格的な戦闘に入ってきましたね! にじみ出るFF感!笑
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