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007:ジャックザリッパー

 素敵な家屋を貰い、俺はアスターと約束した。

 兄さんは俺の分まで冒険者として自由に生きてくれと。


「ゆくゆくはクランマスターにでもなればいい」

「俺に人を動かすような人望はないよ」

「……いずれ兄さんの理解者が現れるさ」


 あの会話から早二週間が経った。


 アスターが予言した俺の理解者は一体どこに?

 街中を見渡しながらキメラシティを歩いていると。


 道中――誰か助けて! という悲鳴がとどろく。

 すかさず悲鳴がした方向へ駆け寄るも、無残に切り裂かれた女性の身体があった。


 通り魔か? それも魔法使いの。


 周囲を見渡すも人影はなく。

 ビッグティガーの時に使った感知魔法にも怪しい人影は写らなかった。


 俺の目を欺くやり口、相当の手練れだ。


 それよりもこの女性まだ息しているぞ。

 ならば――なんとかなるかも!


 ◇ ◇ ◇


 後から駆け付けた街の警備兵に事情を説明すると。


「とにかくしばらくそこで反省していろ!」


 なぜか俺は誤認逮捕され、キメラシティから離れた牢獄塔に入れられた。

 隣の牢獄にいた自称何でも屋が、俺に声を掛けた。


「一体どんな悪さしたんだ」

「話しかけんなよ、俺は何もしてない、誤認逮捕だ」

「俺と一緒にここから抜け出さないか?」

「そんなことしなくても俺の場合誤認逮捕だ」

「頭の固ぇ甘ちゃんかよ、使えない新入りだぜ」


 牢獄にあったボロボロのベッドに横たわり、記憶の魔法を使った。

 俺が見聞きした過去の情景を俯瞰してながめられる魔法だ。


 通り魔が犯行に及んだ当時、俺はグレイシアと買い物していて――


「ここは金さえ積めばなんでもそろうから良い」

「その考え方は成金でしかないぞ」

「おじさんにだけは言われたくない」

「俺のことはそろそろ名前で呼ばないか?」

「おじさんの名前なんだっけ」

「そこから!?」


 俺とグレイシアはこの街の一流冒険者になっていた。

 一流、とまでプロフェッショナルじゃなくとも、一流半ぐらいにはなっている。


 つまりそれなりに稼げるようになっていたんだ。


 グレイシアは主にキメラシティで洋服類を買い漁った。


 明日着る分、明後日着る分、そのまた明日着る分と言う具合に。

 俺が洋服っていうのはローテーションを組んで使うものだって言うと。


「そうなの?」

「グレイシアは不思議ちゃんだな」

「……」

「金遣いが荒い不思議ちゃんだ」

「ねぇおじさん」

「なんだ?」

「他人に注文つけたいのなら、その手に持ってる高級酒は何?」


 俺は俺でこの街でそろう世界津々浦々の酒をマニアックに蒐集していて。

 アスターからも貰った家の一階の棚にコレクションとして飾っている始末だった。


「私以上にお金使ってるよね?」

「君にとやかく言われることじゃないから」

「なんで?」

「グレイシアは俺の奥さんでもなんでもないだろ」

「そうだったっけ」


 え? と言うことはなんだ……グレイシアは密かに俺の嫁になりたいと思っているのか? いや待て、グレイシアとパーティーを組み始めてから早一か月になろうとしている。その上で分かったことがある、グレイシアは頭に超がつくような天然少女であるということ。俺は彼女の性格というか性質を見抜いているんだ。伊達に神童と呼ばれてないし、女心の一つや二つ読み取れないようなノンデリでもないし、何にしろグレイシアは俺のことなど路傍の石程度にしか思ってない可能性があって、今ここで露骨に下心をみせて彼女に引かれようものなら俺は明日から彼女に一生ネタにされるんだろう、そう言えばあの時のおじさんは発情してたよね、みたいな具合に。だからここで下手打つわけにはいかな(略。


 隣を歩く灰色の癖毛を持った彼女は前を向いて、整然とした横顔を見せていた。


 今にして思えば、グレイシアは謎多き娘で、何故俺と一緒にいるのだろう。


 横を歩く褐色肌の美少女をちらちらと見て、意識を取られていた時。


 キメラシティの路地裏から女性の悲鳴が聞こえて、グレイシアに荷物を頼んで駆け付けたら、切り裂かれた女性と対峙した。女性は酷く出血していたものの、息をしていたので俺の回復魔法を受けることができた。


 あの後はキメラシティの救護兵に彼女を引き渡したけど、どうなったかな……。


 初めての牢獄生活は三日続いた。

 三日後に解放されたのは、被害に遭った女性が証言してくれたからだ。


「はっきりと覚えてないんですけど、この人じゃないと思います」

「だから誤認逮捕だって言ったじゃないですか」


 危うく冤罪を掛けられる所だった、冷や汗をかきつつ文句をつける。

 俺を誤認逮捕したキメラシティの警備兵であるワトソンは素直に謝っていた。


「申し訳ないラウル殿、ある筋から貴方が犯人である可能性を示唆されまして」

「……それって」


 俺の兄弟子で、今や国切っての猛将と呼ばれて威張っているゴザか?


 あの人は本当にろくなことしないな。


 兄弟子にこれ以上足引っ張られないように警戒しておきたい。


「今ゴザ将軍はどんなご様子ですかね」

「聞いた話だと、補給物資の横領がバレて、少し立場を危うくしているとかしてないとか」


 本当にろくなことしないな。





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