005:一攫千金
冒険者の昇級試験を受けるため、俺とグレイシアはギルド総合館にやって来た。
途中少しいざこざがあったものの、昇級試験の窓口で無事に説明を受けている。
受付嬢によると冒険者の昇級手段にはいくつかの方法があって。
「一つ目はギルドで策定した昇級試験を受けそれに合格すること、二つ目は五つ星以上の冒険者の推薦を得てギルドの査定に通ること、三つ目は特例中の特例なので気にする必要はございません」
「昇級の段階を一気に飛ばすようなことはできるか?」
「基本は無理ですね、大人しく昇級試験を受けて下さい」
昇級試験を受けられるのは半年に一回。
俺とグレイシアは冒険者ギルドの生ぬるいやり方にほぼ同時に舌打ちする。
「「チ」」
そしたら受付嬢も応酬するように舌打ちしていた。
水面下で繰り広げられる攻防の中、ある女性冒険者から声を掛けられた。
「その二人を三つ星冒険者として推薦します」
女神か!? 天使のような美声に振り向くと、そこには美少女が立っている。
何頭身かわからない小顔の肌は白絹のように透明感があって。
紺碧色の大きな瞳はそれだけで芸術品のように際立って。
水色の毛髪は毛先につれ白いグラデーションを描いていた。
太々しい態度だった受付嬢が驚いたようすで彼女の名前を口にする。
「ニーアさん!? え? 本当にニーアさんが推薦するんですか?」
「悪かった?」
「い、いえいえいえ、滅相もありません、ニーアさんの推薦であれば通ると思います」
「ありがとう、よろしくお願いします」
冒険者業界に飛び込んで日の浅い俺とグレイシアは会釈するだけにとどまり。
彼女が立ち去ったのを見て、受付嬢の人が怖いもの知らずですねと言っていた。
「あの人はどんな方なんですか?」
「ニーアさんをご存じない? にわかですね」
説明によると、彼女はキメラシティで唯一の七つ星の冒険者だった。
アイシクルローズのニーアの異名を誇り、天候さえも操るようだ。
「くれぐれもニーアさんのご機嫌を損ねないようにしてくださいね?」
「俺たちだって、そこまで馬鹿じゃないですよ。彼女は恩人ですからね」
「そうだといいのですが、三つ星のスターエンブレム用意してきますね」
しかし、七つ星冒険者っていうのは凄いんだな。
彼女の鶴の一声だけで、一つ星から三つ星に昇級させられるのだから。
隣にいたグレイシアは、感情をまったく読ませない無表情で。
「これでがっつり稼げるね」
「おう、目標は一年で金貨百枚だ」
「その十倍は稼ごう」
一年で金貨百枚というのは、前職の年収の十倍だ。
俺としては金貨百枚でも夢のような目標だったつもりだけど。
冒険者というのはハイリスクハイリターンの代名詞のような職業ともあれば――。
三つ星に昇級した俺たちはさっそく、オークの群れの討伐クエストを受けた。
キメラシティを陥落しようとオークの大軍が進行している。
先日、激震の杖でのめした亜人や、他の冒険者と一緒になって戦場に繰り出した。
戦場の指揮を執っていたのはウノ隊長、五つ星の冒険者だ。
「クソ冒険者諸君、ギルドの話が本当であれば、オーク一匹につき金貨一枚だ」
え? マジで? オークと言えばビッグティガーよりも格下のモンスターなのに。
「さらに言うと、オークを百匹討伐したものには試験を待たずして昇級されるぞ」
おいおいおい、このクエスト激烈に美味しいじゃないか。
「名をあげてみせろッ!! 行くぞ!」
機先を制したのはグレイシアだった。
彼女は俺があげた弓を引いて、オークの大軍目掛けて上級弓術魔法を放つ。
「万物を焦せ、不死鳥の一矢――ッ!!」
彼女が放った矢に続くように広範囲の緑色の火炎がオークを襲い。
オークの大軍もやられた仲間を見て血気盛んに突撃してきた。
「第二波、いきます」
やらせるか! このまま彼女に美味しい所持っていかれては神童の名折れ。
俺はグレイシアを手で制止した。
「後は俺がやる」
「おじさん……そんなこと言って、自分一人だけ儲けを独占するつもりじゃない?」
「やだなー、そんなことないよー」
恩師から譲り受けた三つの神器、激震の杖と、魔力増幅の短剣を使わせて頂く。
短剣によって体内で魔力が増幅し――激震の杖を通して大魔法を顕現する。
「時空振動」
大軍で突進してくるオークたちの中央で、超振動を起こす。
超振動によってオークの身体は分子崩壊を起こし、一斉に血飛沫を上げて吹き飛ぶ。
今回の指揮を執っていたウノ隊長は凄惨な光景に悲鳴をあげていた。
「ひぃ! なんだこれは、今のは誰がやったんだ!」
「俺ですが何か?」
「あ、危ないだろうが馬鹿野郎!」
「味方に被害が出ないようにちゃんと計算してますから、ご容赦を」
今ので大体五百体のオークを討伐したはずだ。
オークの群れはまだまだいるし……これは。
一攫千金のぼろ儲けすぎて、笑いが止まらんわ。