004:昇級試験前の騒動
アスターの言った通り、三日後に馬車はキメラシティについた。
ここは街のエネルギー源となる巨大な魔石『アポロン』によって夜を知らない。
隣にいたグレイシアにその説明をすると、今一要領を得れない顔つきだった。
「夜を知らない?」
「魔石の恩恵を受けて年中明るい街ってこと」
俺たちを乗せた馬車が着いたのは夕暮れ頃。
しかし街にいる人々は帰路につこうとしていない。
次第に街の中央にあるアポロンが力を発揮して、街に灯りがついた。
間もなく夜になると言うのに、キメラシティは煌々と輝き始め。
街にあった植物も光に吸い寄せられるように枝葉を伸ばしていた。
アスターはグレイシアや俺に、万感の思いを込めた表情を浮かべていた。
「二十年掛かった、この街を作るのに」
アスターが夢に邁進していた二十年は、俺にとってどぶさらいのような辛苦の二十年だった。燦然と輝くキメラシティの道をアスターの馬車はそのまま走り、豪奢な館に入っていった。
館の玄関先で馬車が止まると、一人の子供とその母親のような美しい女性が出迎える。
「パパー!」
アスターは駆け寄って来た子供を腕に抱えて、紹介していた。
「俺の娘と嫁です」
その光景に、俺たちの二十年の格差を見せつけられているようだった。
◇ ◇ ◇
翌日、アスターの一家に見送られて俺とグレイシアはキメラシティの冒険者ギルドがあるギルド総合館という建物を目指して街中を歩いていた。アスターの話だと、俺たちの冒険者等級である【一つ星】だと満足に仕事を振れないかもしれないとのことだった。
そのためグレイシアを連れて早速昇級試験を受ける。
冒険者等級は【一つ星】から始まり、天井となる上限はない。
が、実質の上限は【七つ星】とされている。
【七つ星】の冒険者ともなれば、誰もが災厄級のクエストを経験したことがある。
冒険者であることを示すスターエンブレムと呼ばれるワッペンを身に付け。
二人で様々なギルドの受付窓口がある、ギルド総合館に向かった。
「冒険者ギルドの受付は二階のようだな」
「行こう」
一階にあった案内板を見ると、他にも商人ギルドや、農業ギルド。
さらには神官ギルドといった聖職者になるための受付もしているみたいだ。
さすがは隣接する三国が共同出資する混成都市だな。
階段を伝って建物の二階に上がると、屈強そうな人間や亜人でひしめいていた。
トカゲ頭をした亜人の一人が見るなり俺たちの進路を体で塞ぐ。
グレイシアが煩わしそうに聞いていた。
「何?」
「キメラシティははじめてか? ここを通るには通行料を払うしきたりだ」
亜人は俺たちのスターエンブレムを見て、余裕の笑みを浮かべる。
「帰れ、一つ星にキメラシティのクエストは引き受けられねぇ」
グレイシアは怒っていたのか、静かに弓を構える。
あわてて彼女を制止し、俺は亜人に向かって口を開いた。
「どうしても通してくれないのか?」
「通りたかったら倒していきな」
「ああ、だったら――話が早くていいな」
「あ? ――うおっ!?」
恩師から授かった激震の杖の柄で地面をコンと突くと、通せんぼしていた亜人のみぞおちが陥没して、そのまま向こうに吹き飛ばされる。周囲にいた冒険者がざわめいて、一部は俺たちに剣を構えた。
「やんのかよ!」
「よせ」
「止めるな!」
「いいからよせ、あいつラウル・マクスウェルだ」
「ラウル・マクスウェル? 誰だよ、有名な奴なのか?」
「カサンドラ王国の稀代の神童と呼ばれていた男だ、俺たちが敵うような相手じゃない」
ご説明どうもありがとう。周囲で剣幕を立てていた冒険者も納得してくれたみたいだ。隣にいたグレイシアはトドメとばかりに吹き飛ばされた亜人の頭上に矢を埋め込ませる。
追い打ちかけるにしても、その後も無表情で亜人を見詰めていた態度が怖い。
さてと、昇級試験の窓口は、手前のここだな。
窓口にいた受付嬢の前に行くと開口一番小言を言われた。
「ギルド建物内での争いごとは困ります」
「どうもすみません、ですがそう言うのでしたらああいった輩を放置しないでくれませんかね」
俺の反論に受付嬢はこほんと咳払いする。
「ようこそ、キメラシティの冒険者ギルドへ。昇級試験をご希望でしょうか?」
受付嬢は起こった騒動をどこぞに置いて、営業スマイルを浮かべて接客に勤しむ。
さすがはキメラシティの冒険者ギルド職員、いい根性してるよまったく。