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028:神鳥

 二日後、一応アリアドネ公国にたどり着いた。

 その頃には俺の全身はバッキバキ。


 腰が痛い、腰が。


 腰痛に悩まさていると、それを癒すような葉擦れの音がさざめいた。

 単なる葉擦れの音じゃない、これは魔法の力がこもった森のささやきだ。


 アリアドネ公国の首都は自然との融合を重視して作られた街だ。

 首都の中には巨樹の根っこが大蛇のように街中にあって。

 森と一体化した自然の景観が一目でうかがえる。


 とそこに、緑色の一人の若い軍服姿の女性がやってきた。

 恐らく彼女が俺と書簡でやり取りしていたエイミーさんだろう。


「ラウル・マクスウェル様でしょうか、エイミーです。長旅ご苦労様でした」

「来ましたよ、遠路はるばる」


 ちょっと腰をいわしてまでアリアドネ公国に来たんだ、ただじゃ帰らないぞ。


 エイミーは亜麻色のポニーテール姿と柳眉が凛々しい美人さんだった。

 俺との書簡のやり取りからだと、この外見は想像できない。


「カサンドラ王国の神童にお会いできて光栄です、ひとまずこちらへどうぞ」


 案内されるがまま俺たちは彼女の後ろをついていく。


「……レイヴンズチルドレンに貴方たちがいるなんて知らなかった」


 と、エイミーさんは俺の横に左に並んでいた双子に言っていた。


「知り合いかグリム」

「腹違いの姉です」


 おお、それは本当に奇遇。

 今回双子やグレイシアを連れてきたのは三人の母国だったからだ。


 土地勘とか俺よりもあるだろうし、って大雑把な考えで連れてきたんだ。


「だから他意はない」


 グリムは俺の言葉を疑おうとしなかった。


「そんな所だろうと思ってましたし、姉と言っても面識がある程度です」


 気まずいじゃん? 最後の一言が余計だよ。

 エイミーさんは気に留めた様子もなく、首都の奥手にある王宮へと向かう。


 カサンドラ王国にあるような象徴的な建物とは違い。

 自然と共に生きる国のありようを示したような宮殿だ。


 宮殿内をそのまま歩いていくと、玉座の部屋の前にある待合室に通された。


「それでは上官がお呼びになるまでこのままお待ちください」

「承知いたしました」

「ここから先は陛下の御前になりますので、変装魔法は解いて頂けますか」


 ぎ、ぎくり。

 エイミーさんは俺の後ろに隠れた人形族のハンクをにらむ。


 ハンクは自分の変装魔法がばれたことに脂汗をかきながら文句言っていた。


「どういうことだラウルくん、君の計画と違っているじゃないか」


 ハンクの声音が低くなったことに、グリムが驚いていた。


「変装魔法なんて使ってたのか」

「く、くぅ、仕方ない、ここは腹をくくって本当の姿で対応するしかないか」


 変装魔法が解かれると、顔を覗かせたのはジャガーさんだった。

 アンデルセンがショックを受けている。


「うそ」

「ごめんなアンデルセンくん、ハンクの姿は仮初、本当の俺はジャガーだ」

「だ、だって、ハンクは俺になついてくれて、俺のこと好きだって」

「嘘と言ってしまえば簡単だが、君のことは比較的気に入っているよ」


 ジャガーさんって人間恐怖症とかって言ってたけど。

 人によってはろこつに態度変えるからな。


 エイミーさんは義理の弟がろうばいする姿を見て笑っていた。


「いい気味、国を捨ててキメラシティで冒険者の立場に甘えるからこうなるのよ」

「ちょっと、言い過ぎですよ」


 双子をかばおうと彼女を注意するも、グリムが止めていた。


「姉は元々こういう人なんで、こういう人ですが極悪人とは違うので大丈夫です」

「つまりお互いに口が悪いってことでOK?」


 今度、新しいメンバーの面接する際は品行方正な人を選ぼう。

 でないと俺の神経がどんどん擦り切れていくだけだ。


 話を元に戻すと、ジャガーさんを連れて来たのは理由がある。

 ジャガーさんが希望したのと、彼は公国にしかない種子を欲しがっていた。


 とても貴重な代物らしく、魔法研究所にいた頃から公国に要求していたそうだ。


 この後アリアドネ公国の一番偉い人に謁見するけど、その時に言えばいい。


 待っているとエイミーさんと同じ格好した軍服姿のお姉さんが奥手から来た。


「エイミー、こちらの準備は出来ました」

「了解です、ではラウル様並びにレイヴンズチルドレンの皆さん、奥へどうぞ」


 緊張するぅ、が、ただでは帰らないぞ。

 絶対に交渉を物にするんだ。


 俺たち五人はエイミーさんに連れられて玉座の間に着く。

 一段の壇上にあった玉座には、君主であるファードランド様が座っていた。


 君主としてはお若い相貌だが御年三百歳超の絶対君主として有名だ。


「君に会うのはこれで二度目だな、久しくしている」


 俺は神童やっていた頃に彼に一度謁見したことがあった。


「お覚えになられているとは思っておりませんでした」

「レイヴン殿が君を可愛がられていたからな、して早速だが用件を聞こう」


 ファードランド様はお忙しいのだろう、手短に用件を聞いてきた。

 ジャガーさんが隣で俺の裾を引っ張り、例の種子を聞いてくれと頼んでいる。


「先ず、俺の農業クランで生産している野菜をこちらでも流通させてください」

「ああ、ちなみにどんな野菜を生産しているのだ?」

「栄養価のあるものから、歯ごたえあるしゃきしゃきっとしたものまで、色々用意しております」


 野菜の品種名を言うだけでは相手に伝わらない可能性がある。

 なので俺の言葉に崩して例えばこんな味、というちょっとした食レポをした。


「今その野菜を見させてもらえるか」

「ええ、でしたらそのまま味わっても美味しいこちらなんてどうでしょう」


 エイミーさんの手からファードランド様に野菜が渡される。

 ファードランド様は健康そうな白い歯でもしゃりと、味わっていた。


「非常に噛み応えがあり、また野菜の味わい深さである苦味にあふれている」

「その野菜は他と煮だすことでうま味のある美味しいスープが作れます」


 色々な調理に使える万能野菜の一つだと思う。


「ありがとう、あとでこちらの交渉担当と具体的な話を詰めてくれ」

「お打診されていた魔法植物とキノコの栽培についても私の方にて話し合わせて頂きます」


「話が早くて助かる、アリアドネ公国の魔法植物やキノコの類は成長が遅く、また多くの量を収穫できずにいたのだ。そなたの方でこの問題を解決してくれるというのであればそれにこしたことはないのだ」


 じゃあ、最後にジャガーさんが希望していた植物の種子について交渉するか。


「陛下、最後にお願いがございます」

「申してみよ」

「アリアドネ公国にて製造しているという秘薬の素となっている植物である不死の草の栽培もお任せ頂けないでしょうか」


 俺の申し出にファードランド様は鋭い目をそらして思案していた。


「……もし、仮にもし、この申し出がそなたたちからでなければ即刻追放していた所だ。というほど、アレは我が国の宗教において重要であり、また我らの方でもいくどとなく試みたが、不可能だった」


 まぁ、そうだろう。

 俺が神童だった頃、所属していた研究所の発言力は随一だったと聞くし。

 ジャガーさんは研究所を通してアリアドネ公国に要求したけど、断られた代物だ。


「なにゆえ、アレの栽培を申し出た?」

「それは俺の便所飯の友人である彼がお答えします」

「便所飯?」


 ジャガーさんを陛下に差し出すようにして背中を押すと。

 小さな声で「後で覚えていろよラウルくん」とつぶやいていた。


「初めまして、ジャガーと申します」

「もしかしてお前はカサンドラの王立魔法研究所にいなかったか?」

「その節はご面倒おかけしました、しかし私の志はあの時から変わっていません」

「では何か、不老長寿には興味ないが、不死の草を調理してみたいと?」


 ジャガーさんは不老長寿にそこまで興味ないようで。

 初老の彼が望むのは不死の草を使った世界でたった一つの料理だったようだ。


 肥満質な体で膝立ちし、ジャガーさんは陛下の前で地面に額をつけた。


「生い先短い私の、生涯における夢です。ご要望とあらば陛下にお仕えしてでも」

「彼はそう言いつつ用件がすんだら逃げるのでご注意を」

「ラウルくんは黙ってて!!」


 ファードランド様はその光景に不敵な笑みを浮かべる。


「条件付きで許可しよう、栽培はアリアドネ公国の管理している土地でのみ可能とし、また不死の草を使った料理を作るさいは公国の臣下の同行のもと行うこと。不老長寿の薬の製法については一切調べないこと。あとは仮にその料理が出来たら私にも一口頂けないか」


 そのお言葉に、ジャガーさんは腹の底から泣き叫んでいた。


「よっしゃあああああああああああああああ!!」


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