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025:誕生日会

 農業ギルドに加入して、農家クラン『猫の手も借りたい』を創設。

 クランメンバーには大量の猫の獣人を起用した。


 彼らは早速いい働き手として収穫作業に明け暮れている。


 非力な愛玩動物ぐらいにしか思ってなかったけど。

 意外にも彼らは器用で、仕事も丁寧。

 愛想もいいし、一所懸命にせっせと働いてくれる素晴らしい労働力だった。


 せわしない日々を送っている中、グレイシアが俺を訪ねに総団長室にやって来る。


「おじさん、誕生日おめでとう」

「は?」


 ああそう言えば、今日は俺の誕生日か。

 と言うことは冒険者始めてそろそろ一年が経つな。


「ありがとうグレイシア、君と出会ってからそろそろ一年経つな」

「誕生日プレゼントも用意した」

「おお、ありがとう」

「おじさんと私は家族だから」

「……グレイシアの誕生日っていつだっけ」

「おじさんの誕生日の三日後だけど、たぶん正確なものじゃない」

「はは、なんだよそれ」


 気づけば俺は三十三歳になってしまった。

 グレイシアは誕生日プレゼントとしてワインの試作品をくれた。


 これって、俺の畑で収穫できるようになったワイン用のブドウで作ったのか?


 グレイシアは灰色のくせ毛頭をこくりと頷かせて、俺を感心させる。


「飲むのが楽しみだな、とにかくありがとう」

「おじさんに内緒でみんなが誕生日パーティーを開くみたい」

「口にしちゃったら内緒にしていた意味がなくなるよな」

「そうかな」

「グレイシアは出会った当初からグレイシアって感じだな」

「おじさんは、あの頃と比べるとぜんぜん違うね」


 懐かしい。

 うだつの上がらないサラリー生活、上司のパワハラに突然の解雇。

 さらに実家をゴザに潰されて行く当てなく酒場で酔いつぶれていた。


 冒険者になったはいいものの、ゴザの圧力で当初はろくな仕事を回してもらえず。

 思えば俺の転機になったのはグレイシアとアスターの二人と出会ったことだな。


 二人には足を向けて寝れません。


 グレイシアは俺の誕生日パーティーの用意が出来ているから来てと一階に誘う。


「その前にちょっと書類片付ける」

「みんなが待ってる」

「せっかくの誕生日会だし、後顧の憂いをたって飲み明かすためにこれやってから」

「……」


 最近になってキメラシティの農作物の出荷量が激増した。

 俺の農家クランの影響が大きい。


 何せ俺の畑では種まき、生育、収穫まで一日のスパンで完結するからな。

 人形族の力も借りて大量の収穫物を生産している。


 ある日を境に、農業ギルドから出荷量を減らして欲しいと言われるようになった。

 そうすると人形族に払っているお給金が捻出しきれないので。


 俺はメイガス帝国や、アリアドネ公国にも農作物を出荷することにした。

 取り分けアリアドネ公国は人工栽培している魔法植物や、キノコも頼みたいと言ってきた。


 魔法植物はポーションや医薬品などに用いられるため需要が高いし。

 キノコも種類によっては薬になるし、風味が豊かで食品としての需要もある。


 そこで俺はアリアドネ公国に出張する運びになっている。


 今片付けている書類仕事はその出張に関する資料だ。


「よ、よし、書類仕事終わった」

「早かったね」


 グレイシアはずっと待っていたようだ。

 早かったねとは言うが、一時間ぐらい待たせてしまった。


 彼女は手のひらを差し出して、俺の手を取った。


「みんなが待ってる」


 ということでいざ俺の誕生日会の席へ。

 総団長室から二階の吹き抜けの廊下に出ると、室内は真っ暗だ。


 廊下から覗える一階の居間の至る所に人形族の瞳が光って浮いていた。


「総団長が来たにゃ」

「長かったにゃー」


 一時間もこの状態だったの!?

 俺がそこに驚いていると、室内に明かりがついた。


 視界が晴れて、一階の居間に大きなケーキが用意されている。

 ケーキにはチョコレートで『祝・お誕生日!』と書かれていた。


 クランの団長を務めるニーアがやって来て、状況を説明する。


「ラウルに日ごろの感謝を伝えるためにご用意しました」


 見ればアスターもいるし、アンネさんや酒屋のアルもいる。

 他にもおめかししたギルドの受付嬢などもいて、みんなで祝ってくれた。


「ありがとうみんな」


 ニーアが俺の手を引っ張ってケーキの所に案内する。ケーキには俺の年と同じ数のキャンドルがあった。口を近づけて息を吹きかけ火を消すと、何を思ったのかグレイシアが手で俺の顔面をケーキに埋めさせる。


「何するんだよ!」

「これが誕生日ケーキの作法って聞いた」

「盛大に騙されてるぞ」


 気を利かせたアンデルセンから手ぬぐいを受け取り、顔を拭く。

 グレイシアのせいで楽しい誕生日会が一転して地獄になるところだった。


 ◇ ◇ ◇


 グレイシアが開始早々はっちゃけたこと以外は歓談も盛り上がり。

 参加者全員から誕生日プレゼントを頂いた。


 ジェーンは母国のメイガス帝国から取り寄せた魔法具をくれた。


「総団長、これ私からです」

「おおー、これは魔法インク?」

「はい、総団長が業務で使ってるものよりも高級な奴です」


 魔法インクは安価なものから彼女がくれた高級品まであって。

 ジャガーさんの畑魔法には欠かせない代物だった。


 ジェーンがくれたのは特殊な奴で、おそらく本人は用途を理解してない。


 双子の魔法使いからは靴をもらった。


「ありがとう、もうそろそろはき替えようかなって思ってた」


 双子を代表してグリムがその靴の説明をする。


「それ、キャッスルヴァニアの特注品です」

「え? すごい高価な代物じゃないか」


 キャッスルヴァニアは真祖の吸血鬼が治める世界的大国で。

 質の高い衣類を国の特産品としてあつかっている。


「お誕生日おめでとうございます総団長」

「ありがとう二人とも、大切に使うよ」


 キーツからは鉱物をもらった。

 紫色に光り輝く魔石の原石のようだが、これは?


「いずれ総団長の役に立つ」

「いずれな? ありがとう、部屋に飾っておくよ」

「……時価総額金貨八百枚はくだらない」


 マジか。

 グレイシアからは自家製ワインをもらったし、誕生日さまさまだ。


 ニーアが近寄ってきて、深紅色のマフラーを俺の首に掛けた。


「それは冒険者ギルドからの贈答品、偉大なクランマスターにだけ贈られる」

「どうりで高級感あると思った」

「赤竜の鱗で作られているから、耐熱性はいいと思うよ」


 恩師のマントと同じ感じか。

 ニーアはマフラーに加えて指輪ケースも渡してきた。


「これは私から」


 以前、彼女からキスされた時の光景が脳裏をよぎる。

 逆プロポーズなんてことはないよな?


 しかし、ケースを開けて中にあった指輪を見て、色欲めいた妄想は吹き飛んだ。


「これってニーベルングの指輪?」

「さすがはラウルだね」

「受け取るに受け取れないよ」

「どうして?」


 ニーベルングの指輪、一説では世界最古の指輪で。

 無限の魔力を供給し続ける神話級のアイテムだ。


 キーツからもらった魔石も高価だけど、これは値打ちがつけられない特別な品だ。


 俺みたいな冴えない三十三歳のおっさんがもらっていいものじゃない。

 するとニーアは目を鋭くさせて、俺に聞いた。


「じゃあこっちの指輪にする? これは婚約指輪で」

「ニーベルングの指輪は生涯大切にする」


 と、初期のクランメンバーは家宝とも呼べるプレゼントを贈ってくれた。



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