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024:人形族

 ジャガーの下から帰還したら夜だった。

 クランハウスでは俺の帰りをメンバーが勢ぞろいで待っていた。


「ただいま」


 グレイシアが帰宅した俺にさっそく声を掛けた。


「おじさんのお友達には会えた?」

「会えた、色々学ばせてもらった」

「何を学んだの」

「彼のお墨付きの創作料理、今作ってやるよ」


 キッチンに向かうと、キーツが怪訝なまなざしを送っている。


「彼を連れてこれなかったのか」

「一人で居たいらしいからな」

「残念だ」

「大丈夫、ジャガーの畑魔法は一通り教わってきた。明日やってみせよう」


 キーツは俺の返答に口端を少しつりあげて悠然と微笑んでいた。

 ということで今夜はジャガー直伝の絶品グルメをとくと味わってくれ。


 彼にならって料理魔法を使い、物凄い早さでグルメを差し出していく。


 マキナティアが律義に前掛けをつけてナイフとフォークで食べるふりをしていた。


「お前は食べられないだろ」

「おお、そうじゃった」


 マキナティアと同卓していたアンデルセンがずっこける。


「マキナさんは食事はとれないの?」

「わしには消化器官がないからの」

「じゃあ何のために口が?」

「会話するためじゃ」


 不思議だよな、機人っていう生き物は。


 ◇ ◇ ◇


 翌日、珍しくアスターがクランハウスを訪れた。

 いつも通りの爽やかな顔つきで、兄さんと俺のことを愛着する。


「ジャガーさんの畑魔法を伝授してもらったらしいね」

「誰から聞いた?」

「マキナティアが教えてくれた」


 マキナティアは夜中にアスターの家に乗り込んで、会話に興じたようだ。


「夜中の二時くらいにだよ? そこから今までずっと付き合わされた」

「用件から言ってくれよ、その話は本題じゃないだろ」

「もし、畑魔法で農業するのなら、ギルド総合館で農家登録しなきゃダメだよ?」

「その場合って冒険者資格はなくなるのかな」

「大丈夫、農業ギルドの方でも定められた作物量を期間内に納めればいいだけだ」


 よっし、それなら今からギルド総合館に向かうか。

 最近は顔見せてなかったし、冒険者ギルドの受付嬢にお土産持っていくか。


 ジェーンが寄越した木彫りの熊なんかがいいな。


 そのままアスターと並んでギルド総合館に向かった。

 農業ギルドはここの最上階にある。


 その前に二階にある馴染みの冒険者ギルドへ向かうと、周囲がざわつき始めた。


「あいつがそうだろ?」

「ああ、どうする?」


 様子がおかしい、さっさとお土産渡して帰ろう。

 俺たちのクラン創設を推進してくれた受付嬢の所に向かうと、黄色い声を上げる。


「ラウル様!? 私に何か御用でしょうか」

「その節はお世話になったので、クランメンバーからお土産です」

「はぅうう~、ラウル様から頂き物もらっちゃうなんて、幸せです」


 彼女は俺からのプレゼントである木彫りの熊を抱きしめ、薔薇色気分みたいだ。


 冒険者ギルドにいる連中の反応が明らかにおかしい。

 グレイシアと二人で昇級試験受けに来た頃なんて露骨に邪見にされたぞ。


 アスターが何かを察したのか。


「兄さん、僕は一足先に四階に行ってるね」

「俺も行くし」

「後ろ見てごらんよ」


 言われ、背中に感じる熱波に立ち返る。


 冒険者ギルドに集っていた冒険者から腕をつかまれた。


「俺のことは覚えてるか」

「ま、まぁな、その後は通行料とかいういやがらせしてないだろうな」


 トカゲ頭の亜人の冒険者はいきおいよく首を横に振り、反省の色を見せていた。


「貴方の背中を見て、改心した。今はレイヴンズチルドレンの加入を目指してる」

「それはそれは、まぁ近いうちに数十名の入団募集でもやろうかなって考えてて」

「本当か!!」


 顔ちか、声もでか。

 鼻息が掛かるぐらいの距離まで詰められ、大声で確かめられた。


 すると同室していた冒険者が大歓声のような怒号をあげる。


「おっしゃあ! レイヴンズチルドレンに絶対入るぞ!」

「以前は化け物ぞろいで駄目だったが、今度こそは入る!」

「ラウル、俺はあんたに言われてずっと修行してたんだ!」


 内のクランは宝くじとかじゃないぞ。

 血気盛んな冒険者はその後、俺の名前を連呼して大喝采だった。


「ラウル! ラウル! ラウル! ラウル!」

「黙れ! 恥ずかしいんだよ!」


 静かにするよううながすと、彼らはフゥウウウウゥとあおるんだ。

 冒険者って最高にバカなんだな。


 アスターの後をおって四階に向かった、丸眼鏡姿の受付嬢の所に通される。


「そ、それではこれでラウル様の農家登録が終わりました」

「ありがとうございます、精一杯農作物を出荷してみせます」


 農業ギルドへの登録が済み、これでキメラシティで畑を耕せるぞ。


 隣にいたアスターが疑問を解消するために口を開いた。


「ジャガーさんの畑魔法って、種まきから作物の成長促進までだよね?」

「土壌改善もあるよ」

「でも収穫はどうするの? 研究所にいた頃は兄さんが機械化していたみたいだけど」


 俺は便所飯の同胞であるジャガーさんの研究に協力していた。

 彼の畑魔法で出来た作物の収穫を機械化で自動で獲る実験だった。


 あれは全天候型で実用するには程遠かった。


「収穫自体は人手でやるしかないかな」

「じゃあさ、農業ギルドで別のクラン作ればいい」

「それはまた今度でいいだろ」

「実はね、キメラシティに難民がいるんだけど、彼らを雇い入れよう、それがいい」

「話を強引に進めようとするな」


 もしかしてアスターが今日俺の所に来たのは難民問題が本命か?

 農業ギルドから離れて、キメラシティにある避難所に向かった。


 そこで俺は人形族との別称を持つ、愛くるしい猫の獣人と出会った。


 彼らはアスターの顔を見るなり失意の表情に希望の光をともす。


「アスター様にゃ」

「元気? 今日は君たちにとっておきの話を持ってきたよ」


 彼らはこの世でも非常に非力な存在として有名だ。

 だから彼らは一様に愛くるしい相貌をしているという進化説が有力で。

 非力ゆえに、生き残るための手段として飼い主に出会えるよう可愛くなったらしい。


「兄さん、話はついたよ。兄さんがメイガス帝国から貰ってる海産物との交換条件で畑の収穫作業を手伝ってくれるって。よかったね、早速だけど彼らの家を割り振ったらどうかな」


「勝手に話進めるなってさっきも言っただろ」


 俺の台詞に人形族はしょんぼりとしていた。


「駄目なのかにゃー」

「えっと、待ってくれ、考えをまとめるから」


 交換条件に応じてくれたとはいえ、いずれ給金を支払うことになるだろう。

 農業ギルドからの補助金は出るから、あれをああして、よし整った。


「あー、皆さん、是非ともあなた達を俺のクランに招き入れたいと思います」


 大量にいた人形族はにゃーにゃーとかわいい歓声をあげる。


「皆さんの衣食住を用意しましょう、そしてゆくゆくはお給金として」

「にゃー」

「月給換算で金貨一枚をお支払いします!」


 大見えきるように言うと、アスターが心配そうにしていた。


「王都の平均月収よりも少し割高だけど大丈夫だったかな」

「大丈夫大丈夫! ちゃんと計算したから!」

「目が血走ってるよ、なんかごめんね兄さん」




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