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023:門外不出の魔法

 総団長室でジャガーの捜索情報を待っている中、ニーアに少し昔のことを話した。


 王立魔法研究所に居た頃、俺は便所にこもってご飯を取っていた。

 いわゆる便所飯だ。


 便所にこもってないとゴザや他の兄弟子にいじめられるから。

 ジャガーは当時の俺と同じく便所飯していた同士だった。


「ジャガーの今日のおかずはなんですか」

「カレー」

「カレー?」

「各種香辛料を混ぜ合わせてひき肉などを炒めた奴さ」


 ラウルくんも食べてみるかい?

 俺とジャガーは便所飯を通じて親交を持つようになり。


 彼から様々な料理の作り方を教わったものだ。


 ニーアはだからラウルはお料理も上手なのねって納得しているみたいだった。


「ジャガーは天才だったよ、それにいい人でもあった」

「王立魔法研究所ってすごい所だね、ラウルやアスターさんもいたんでしょ?」

「自慢じゃないけど、俺たちがいた頃は研究所の黄金期で」


 あの機関には様々な分野の天才が集っていたと思う。

 恩師もその内の一人で、彼は魔法の天才だ。


 その天才たちも寿命や、流行り病に倒れていったし。

 研究所が黄金期だった頃の王国は、周辺国の中で一番の発言力を有していた。

 研究所の衰退と共に王国も形骸化していった感じはある。


 ジャガーの探索では主にジェーンが活躍していた。

 俺が人づてに聞いた山籠もりしているといった情報を真に受け。

 ジェーンは持ち前の速さを活かして三国の山々をめぐっているらしい。


 彼女には三段階の成長余地があると思っている。

 一段階目はゲイルドラゴンとの死闘でクリアーしていて。

 二段階目の成長は今回の件でクリアーできるだろう。


 ニーアも最近のジェーンは評価していた。


「ジェーンさん凄いよね、すごい勢いで成長していってる」

「だといいけど」

「普通に考えて、数千キロの距離を一日で走破できるのって彼女だけじゃない?」


 それも今日で十日目だよ?


 ジェーンの走力は元々素質があった。メンバー入りの試験を受けた際、彼女はひょっとしたら地上最速を誇れる逸材になるかもしれないと妄想したのがきっかけで、面接のあとに呼び出して、身体検査をさせてもらった。


 彼女の成長余地はまだまだある。

 いずれは神速の域に到達するようになり、凄い冒険者になるかもしれなかった。


「総団長、だめです、ジャガーさん見つかりません」

「駄目だったか」

「すみません、それとこれ本日のお土産です」

「これ何? 置物?」


 魚をくわえた木彫りの熊……芸術品の一種でいいのか?


「とりあえず明日もお願いする」

「それはいいですが、総団長と団長のお二人はここ最近何をしてるんですか?」


 俺は俺でアスターからの厄介な依頼をやっつけている。

 伝えようと口を開いたら、ニーアが手でふさいだ。


「ラウルと私は愛について語り合っていました」


 ジェーンは彼女の舐め腐った言葉に腹を立て、顔を紅潮させて出て行った。


「そんな理由で他人をこき使うな!」


 大きな音を立てて閉まる扉、ニーアは彼女のことをかわいいよねってからかっていた。


「とりあえず、山にはいなさそうだね」

「そうだな、かといってジャガーが人里にいるとも考えづらい」


 あの人は極度に人間が苦手だから。

 だから便所飯していたんだし。


「他界していたらどうする?」

「他の方法を探す」


 ご存命であればいいんだけどなぁ。

 彼の安否を考えていると、総団長室の漆喰の扉がノックされた。


「どうぞ」

「ジャガーの捜索が難航しているようじゃの」


 マキナティアだった。

 俺と同じでジャガーに面識があるマキナティアは、ある有力な情報を寄越した。


「わしは古巣である王立魔法研究所でジャガーの足跡をたどっていた」

「無茶するな、あそこにはあの人がいるし」

「幸いなことにヴェノマスは不在しておった」


 名前を口にするだけでも呪われそうだ。

 あの人だったら、本気でその魔法を発明していそうだ。


「それよりもジャガーの居場所がわかったかもしれないの」

「本当か!?」


 ジャガーは一体どこにいるというのだろう。

 そこでマキナティアは古い資料を寄越した。


 王国の倉庫にある魔道具の入出管理リストだ。

 前職の時に毎日のように見ていた奴だ。

 日付を見ると、俺が勤め始める前後の古いリストだった。


「そのリストによると、ジャガーがあるものを倉庫から持ち出しておる」

「なるほど、じゃああの人は今頃空のどこかに?」

「主なら計算して位置を割り出せるのではないか」


 俺とマキナティアの話についていけなかったニーアが、詳細を聞き出そうとする。


「ジャガーさんは倉庫から何を持ちだしたの?」

「その昔、俺が作った機械仕掛けの浮遊島があるんだ」


 浮遊島のコンセプトは上からの命令だった。

 王国の西方にある空島国を攻め入ることを想定した潜伏性の高い機動兵器を作れ。


 ジャガーはそれを倉庫から持ち出して、おそらく今もそこで生活している。


 機械仕掛けの浮遊島は残念ながら実戦投入されることはなかった。

 そのためあれには移動ルートと速度を限定するセキュリティが掛けられている。


 マキナティアは俺にその移動ルートと速度を計算して位置を特定すればいいと言ったんだ。


 無茶苦茶言うな。

 しかし、ジャガーが浮遊島にいる可能性は限りなく高そうだ。


 そこから俺は一人で総団長室に籠り。

 答えの見えない数式と格闘するという地獄を見る羽目になった。


 ◇ ◇ ◇


 某日、ジャガーを発見する。

 彼はマキナティアが推測したように、機械仕掛けの浮遊島にいた。


 日除け傘をビーチチェアの横にさしてのんきに昼寝しててさ。


「ジャガーさん、お久しぶりです」

「……え? 誰?」

「研究所でお世話になったラウルです」

「君がラウル……? 神童だった頃の見る影もないな」

「あれから二十年ぐらい経ってますからね、今日はご相談があって来ました」


 単刀直入に、ジャガーにキメラシティで協力して欲しいと言った。


「無理、俺が人間恐怖症なの知ってるだろ」

「そこをなんとか、同じ便所飯を食った仲間として」

「痛い過去をほじくらないでくれるか」


 貴方の作業場には特定の信頼のおける人間以外立ち入らせないし。

 それ相応の報酬も出します。


「ということでお願いしますよ」

「……昔の君は人間味がなくてよかった、けど今は罪深い人間そのものだ」

「他人のこととやかく言う前にそのまん丸とした贅肉体をどうにかしてください」


 早死にしますよ。

 二十年ぶりに会ったジャガーは初老で肥満体型の男性になっていた。


 ふと、鼻先に香ばしい匂いがただよった。

 美味しそうな匂いにお腹の虫の音が鳴り、ジャガーはにやけ面で言った。


「ラウルくんも食べる? 僕の新作料理」

「ください」


 やはりジャガーは天才だ。

 俺も一人暮らしが長かったので、自炊もしていて料理の腕に自信があった。


 しかしその日、彼が作った新作料理を舌鼓して、味覚の価値観ががらりと変わる。

 俺がこれまで食べてきたものは一体何だったんだ、というぐらいの衝撃を覚えた。


「……ラウルくん、便所飯を共にした君にお願いがあるんだ」

「ん? おかわりください」

「おかわりは自分で作るといいし、農産物も君が作ればいい」

「し、しかし、俺にはこの味は出せません」

「僕が教えてあげるよ、料理も、そして万能畑と呼ばれた魔法の数々も」


 かつて神童だった君なら習得も容易のはずだ。


 ジャガーは懐古の念がこめられた眼差しで俺を見ている気がした。


「料理はまぁいいとして、後者は貴方の人生そのものと言ってもいい門外不出の魔法ですが」

「そう、だから君以外に教えるつもりはない」

「さっきは無理って言ってたのに、急に気変わりしましたね」


 俺の言葉にジャガーは眉をしかめて不満そうにしていた。


「本当に残念だよ、昔の君は冷徹でまるで機械のようだった、だから好きだった」

「なおさら俺に魔法を教えるといった意味がわかりません」

「すべてはこの浮遊島にある、僕はこれのおかげで夢のような二十年を過ごせた」

「つまり恩返しのつもりなわけですね? そんないやそうな顔しないでくださいよ」


 ジャガーは終始俺のことを変わった、昔の方がよかった、などと言いつつ彼の魔法を教えてくれた。彼の秘伝の魔法を体得するのにそう時間は掛からなくて、便所飯の同士である彼とも、別れの時が来た。


「ありがとうございました、もしお困りの際は気軽に言ってください」

「あー、ラウルくん」

「はい?」

「また……来るといい、その時までに新作料理考案しておくから」


 俺はそんな彼に贈りたい言葉があった。

 俺が変わってしまったように、貴方も変わりましたよね。


 便所飯の同士だった彼にそういうと、眉を八の字に曲げて不満そうにしていたよ。




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