020:アスターの最終目標
それぞれに割り振られた仕事を終えたメンバーがクランハウスに集った。
一番最後に帰って来たのはマキナティアを連れたジェーンだった。
「総団長、貴方のおかげで私は一皮剥けました」
「おお、やったじゃないか」
「言葉の比喩じゃなくて、文字通りの意味ですよ!」
よくよくジェーンの話を聞くと、彼女はクエスト時に背中に怪我を負ったらしい。
真空の刃をぎりぎりの所で躱し、背中の皮膚が剥けたようだ。
マキナティアが彼女の手から離れると、珍しく弱音を吐いていた。
「わしも散々だったの、ゲイルドラゴンの機動性を舐めておった」
「まぁまぁ、無事に討伐できたんだろ?」
「ぎりぎりの戦いだったがの、その通りじゃ」
ジェーンは俺の態度の何が気に食わなかったのか、銃口を向けていた。
「二度とこんな無茶させるな! 二度とだ!」
構えていた拳銃はマキナティアにあげたものだけど、ジェーンに渡ったのか。
と、とりあえず、銃口は下ろしてもらって。
「みんなお疲れ様、今回もそれぞれ大活躍だったと思う、そのためキメラシティの責任者であるアスターから感謝状をもらったぞ。今から読むので耳をかっぽじって聞くように、えっと」
『クラン・レイヴンズチルドレンの皆さん、今回も無理難題を見事にこなしてくれて最大限の感謝を伝えたいと思います。ありがとう、今回の皆さんの活躍によって大勢の命が救われました。私は彼らを代表して皆さんに再度お礼すると共に、今回の仕事に見合った報酬をご用意させて頂きました』
件の報酬だが、まずは双子の七つ星冒険者への昇級。
双子は昇級の話を聞いて二人で拳を重ねて喜んでいた。
他にもジェーンは四つ星に、グレイシアは五つ星になり。
キーツは六つ星にまで昇級したことに加え。
「クラン・レイヴンズチルドレンの代表である兄さんも七つ星への昇級が決まった」
五つ星だった俺は飛び級で七つ星に昇級する。
これは異例なことだとアスターは手紙の中で語っていた。
『兄さんの力は誰よりも俺が知っていたけど、先のメイガス帝国での活躍に加えて、兄さんの実力は周知のものとなっていっている。カサンドラ王国の女王様が冒険者ギルドに兄さんの昇級を勅命したみたいだよ? おめでとう兄さん』
アスターはいつになく素直に俺やクランメンバーを褒めていた。
裏でもあるのか? と勘ぐっていたけど、手紙の最後には嬉しいことが書いてあった。
『つきましてはキメラシティは皆さんへの感謝を物にして返したいと思います。兄さん、クランハウスとして兼用している家はもう手狭だろ? クランハウスの隣にレイヴンズチルドレン専用の施設を建設することになったよ。これがどういうことかと言えば、レイヴンズチルドレンはキメラシティを代表する冒険者クランになったってことさ。僕の名前に泥を塗らないよう、これからも頑張って欲しい。追伸、兄さんのクランに入りたい希望者が早くも殺到しててね、そのうち対応よろしく』
「だってさ、アスターはこの家の隣の敷地に俺たち専用の家を作ってくれるつもりらしい。ジェーンや双子にキーツはもう無駄に家賃支払う必要もなくなるな。おめでとう」
ジェーンは魂が抜けた感じになるも、数秒後に陶然とした表情に切り替えていた。
「お父さん、私、もう死んでも悔いはない」
「生きろ、君にはまだ二段階の余地がある」
「言っている意味がわかりません総団長」
「直にわかるよ」
「それよりも、いつですか、私たちの家が建てられるのは」
そうあわてなくても、順次取り掛かってくれるだろ。
アスターは敏腕で、処理能力が秀逸で昔から仕事が早かった。
だから気づけば建っていた、ぐらいの勢いで俺たちの家が建つだろう。
と、そんな風に余裕の態度で日々を過ごしていたら。
ある日、アスターがその足でクランハウスを訪れた。
「できたよ兄さん、兄さんのクランのためにつくった家」
「ついにできたのか」
その日、俺たちのクランは半月ほどの遠征軍に出ていた。
メイガス帝国の貿易ルートに常駐していた海賊団を討伐するために船旅してて。
帰ってきたらクランハウスの前にアスターがいて、満面の笑顔でさ。
肩から蒸気を発して、やりきったという様子で俺たちの家が完成したって報告する。
俺たちの家がどんなものか気になってクランハウスの奥手をみんなで見る。
一番背丈の小さなマキナティアがひょいと顔を覗かせて、感想を口にした。
「おお、これはまたずいぶんと頑張ってくれたの、まるで街みたいじゃ」
マキナティアの感想にアスターが微笑みながら説明していた。
「キメラシティの新しい区画として機能するように作った、ここは兄さんのクランを中心とした区画にする。まだ住民はそろってないんだけど、兄さんがこれから必要な人材を選りすぐって集めればいいだけの話だ。何しろキメラシティの一部だから、アポロンの恩恵も受けられるようになってる」
意気揚々と饒舌に語っている所悪いが。
「やりすぎじゃないか?」
「いいんだよ、僕の計画だとキメラシティはいずれ三国から独立させるつもりだし」
このまま街を拡大していって、国として機能させる。
「それが僕の人生の最終目標だよ」
アスターの夢は俺なんかよりも壮大で。
やっぱり二十年の差はでかかったのかなって、心がしょっぱくなった。




