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002:冒険者登録

 俺が魔法に再覚醒した場所は生家があった地方の酒場だった。

 俺の詠唱で吹いた一陣の爽快な風に、周囲の客がはっとする。


 近くのテーブルにいた常連の気風をしている酒飲みから声を掛けられた。


「兄ちゃん、魔法使い様だったのか」

「え? いや、あー……そうですね」

「なら奢ってくれたっていいだろ? 魔法使い様ともなれば酒代の一つや二つ」

「俺は薄給だったんで無理ですね」


 お互いに頬を朱色に染めて、奢れ、奢れない、と応酬している。

 同テーブルにいた灰色の癖毛を持った少女が顔を上げ、可憐な褐色の顔貌を見せた。


「冒険者登録は明日でいいんだよね?」


 少女の台詞に俺は首を傾げた。

 隣のテーブルにいた酒飲みは彼女の言葉にほぉと感心する。


「兄ちゃんは魔法使いでありながら冒険者になるつもりか」


 今にして思えば、それもありだな。


 冒険者と言えば常に危険と隣合わせの職業だが、その分、成功した時のリターンも大きい。まさにハイリスクハイリターンの代名詞のような仕事だ。世界に人を脅かす魔物がいて、戦乱が絶えないこのご時世では需要も高そうだし。


「ええ、俺は明日彼女と冒険者登録しに行くつもりです」

「だったらなおのこと奢ってくれたっていいだろ?」

「それとこれは話が別です」


 一宿一飯を酒場で過ごし、朝日が昇ると灰色髪の彼女も起きて来た。


「お早う」

「お早う、先ず聞きたいんだけど、お名前は?」

「グレイシア、しがない薬草師やってます」

「俺のことはどこまで知ってる?」

「十歳までおねしょしていたことぐらいしか」


 むしろその痛い情報を知られてても恥ずかしいだけなんだが?


「俺はラウル・マクスウェル、グレイシアの準備が整ったら冒険者ギルドに行こう」


 彼女は酒場から出て、井戸水で顔を洗い、謎の薬草を噛んでいた。


「これが気になる? 虫歯予防と口臭予防のためのもの」

「へぇー、俺にも一つくれない?」


 頼むと、グレイシアはその薬草以外にも酔い覚ましの薬草をくれた。

 彼女にお礼を言いつつ、なけなしのポケットマネーから銀貨二枚をあげた。


「準備出来たよ、いこ」

「ちょっと待って」

「何か?」


 今の俺は本当に魔法の力に再覚醒できたのだろうか?

 確かめる意味合いも込めて、俺自身が開発した時空魔法の一つを使ってみた。


「よかった、ちゃんと魔法使えてる」


 俺の目の前に直径五十センチほどの黒い穴があった。

 これは時空魔法を使った亜空間に存在する俺専用の倉庫につながる穴だ。


 亜空間倉庫と名付けていたが、広い王国でも俺以外の使い手はいないみたいだ。


 倉庫には俺が愛用していた魔法具の数々がある。

 グレイシアの装備は弓のようだし、彼女には神弓の模倣品をあげておこう。


「これ使ってくれ」

「いいの?」

「大丈夫、単なるレプリカだ。俺も俺の装備に着替えて来る」


 一度酒場に戻って、姿見鏡を借りて、亜空間倉庫から取り出した紫雲柄のマントを羽織る。これは恩師が亡くなる直前、譲り受けた形見みたいな代物だ。恩師からのプレゼントは他にもあって、例えば魔法力を増幅させる精巧な魔法銀の短剣も肌身離さずつけておこう。


「お待たせ」


 グレイシアの下に戻ると、彼女はじーっと俺を見詰めていた。


「何?」

「格好いい」

「ありがとうな」


 黒真珠のような彼女の瞳に映り込んだ自分の姿を見て、英気がみなぎる。


 ◇ ◇ ◇


 地元の特徴は豊かな自然模様が有名だった。

 春は王国の国花である白い花をつけるワルキューレと呼ばれる木々が咲き誇り。

 夏はにわか雨を降らせる入道雲の光景が著名な絵となって残されている。


 つまり田舎という訳なのだが、地元のあぜ道を歩いて冒険者ギルドへと向かう。


 観音開きの扉を開けると、中にいた職員が俺たち二人を見てあわただしくしている。

 えっと、冒険者登録の窓口は右手にある奴でよかったのかな?


 グレイシアを連れてスタスタと右手の小さな窓口に向かうと。

 女性職員が表情を引きつらせていた。


「こちらは冒険者登録の窓口になりますが、よろしかったでしょうか?」

「はい、二名お願いします」

「……それでは担当をお呼びして参りますので、少々お待ちください」


 担当?

 女性職員と交代するようにやって来たのは俺と同じ年頃の男性職員だ。


「お初目に掛かりますラウル様、どうぞ、お掛けになってください」

「俺のこと知ってるんですね」


「ええまぁ、さて、お二人の冒険者登録についてですが、とっておきの試験をご用意させて頂きました」


 試験? それもとっておきの?

 冒険者登録自体は登録用紙に個人情報と細々とした条件の可否を書くだけのはず。


 男性職員の胸にあるプレートを見ると、所長と書かれていた。


 どう考えても怪しいが、話だけでも聞いてみるか。


「お二人のために用意された試験は、ビッグティガーの討伐になります」


 ありえない、ビッグティガーと言えば七つある冒険者等級の中級位以上が数人掛で挑むレベルのモンスターだ。冒険者を始めようとする素人同然の俺たちのために用意された試験内容としては、無茶苦茶だ。


 所長は意地の悪そうな表情を浮かべて、俺やグレイシアに聞く。


「やるのですか、それともやらない? この試験を拒否すれば冒険者になる意思がないとみなされ、当方としては未来永劫的にお二人の冒険者登録を拒否させていただくことになりますよ」


 恐らく、こいつにも兄弟子の息が掛かっている。

 隣にいたグレイシアを巻き込んでしまったことに呵責の念を覚えていると。


「やる」


 グレイシアはきっぱりと試験を受けると答えた。

 所長は額に青筋を浮かべ、ほえ面かかせてあげますよと豪語していた。


 ◇ ◇ ◇


 件のビッグティガーが出現する場所は冒険者ギルドから徒歩三時間圏内の近場だった。ビッグティガー、つまり四足歩行の大きな白虎のモンスターは人里に出向いては血肉を貪って巣に帰るということを繰り返しているらしい。


 俺と行動を共にするグレイシアは視力がすごくよかったようで。


「出たよ」


 彼女の視線の先を見ても、それらしいモンスターはいない。


「どこ? ビッグティガーか?」

「あそこ、ここから三キロほど先にオレンジボアがいる」


 亜空間倉庫から望遠レンズを取り出して見るとオレンジ色の猪モンスターがいた。

 グレイシアは俺が与えた弓を構え、力強い矢を放つ。


「仕留めた、あれの死体を餌にしてビッグティガーをおびき寄せよう」

「君って天才って言われたことある?」

「……おじさんほどじゃない」


 グレイシアは千里眼の如き視力と、神業の如き弓術を十六歳で身に付けていた。

 末は名のある狙撃手にでもなるだろう。


 彼女が仕留めたオレンジボアの下に向かっている中、そいつは突然現れた。


 グレイシアがそいつの無言の殺気を感じてふとした拍子に右を向く。


「伏せて!」


 言われるがまま頭を両手で守って伏せた。

 俺の頭上を大きな影がすぎさっていく。


 グレイシアが俺の前に躍り出て、弓を引くもそいつは視界から消えたんだ。


「消えた……」


 そいつの名前はビッグティガー、白い四足歩行の虎にして。

 またの名を不可視の人食い虎(インビジブルタイガー)という。


 視界にとらえたはずのビッグティガーが消えて、グレイシアは緊張を走らせている。


「ビッグティガーの魔法を見たのは初めて?」

「おじさんは見たことあるの?」

「あるよ、八歳の頃に」

「八歳の時はどうやって対処したの?」

「ビッグティガーが使う魔法は太古から研究されていて」


 八歳の俺は実家に眠っていた蔵書を読んでその魔法と、対処法を知っていた。

 さらに言えば魔法には二つの種類がある。


 存在は確認されているものの、解明されていない魔法と。

 ビッグティガーの使う不可視の魔法のように研究され、解明された魔法の二つだ。


「この場合は水と風の流体魔法を融合させた感知魔法を発動させるのが易しい方法だ」


 恩師の短剣を使い、体内の中で魔力を増幅させ広範囲の感知魔法を放った。

 感のいいグレイシアは俺の感知魔法でビッグティガーを発見して、弓を引く。


 ビッグティガーはグレイシアの動作で攻撃予測を立て、後ろに飛び退く。


 俺は奴が着地する場所に火炎の地雷魔法を設置させ――ッ、ッッッ!

 爆炎と共に屠った。


「……おじさんって、すごいと言うよりも、もはや卑怯だね」


 その後はグレイシアと協力して冒険者ギルドにビッグティガーの亡骸を届ける。

 ギルドの所長は歯ぎしりをしながら、俺たちの冒険者登録を認めていた。



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