018:名声とその恩恵
帝国の防衛戦線から離れ、キメラシティにあるクランハウスに帰った。
帰還するなりジェーンから提案があると相談を受ける。
「総団長、今回は散々でした、私だけが死にそうな目に遭いました」
これは横暴です、陰謀ですと、察するにジェーンは疑心暗鬼状態だ。
俺は彼女の肩に手を置いて、大丈夫と言い渡す。
「大丈夫、あと三段階は余地がある」
「ありませんよそんなもの!」
そうか? まぁ自分だけの物差しで考えては駄目なことはたしかだ。
ここは総団長に次ぐ権限を持ち、なおかつ彼女と同性であるニーアに一任しよう。
「ニーア、ジェーンの話を聞いてやってくれ、女性にしかわからないこともあるだろうし」
「いいけど、その分ラウルの時間を私にくれない?」
ええ? 俺とデートでもしたいってこと?
こ、困っちゃうなぁ、そういう職権乱用みたいな真似は。
ジェーンは俺たちのやり取りに顔を紅潮させて怒っていた。
「こっちは生き死に懸かってるんだ! 惚気るな!」
ニーアが彼女の言葉にすぐさま謝って、別室へと向かって行った。
すぐそばで見ていたグレイシアはぼそっとつぶやく。
「総団長失格」
「何がいけなかったと思う?」
「おじさんの無自覚な無双っぷりなところ? それよりもアンネさんの様子見に行こう」
心配には及ばない、アンネさんの定期依頼であれば他の冒険者に頼んである。
しかしグレイシアはそれでも行こうと背中を押して来た。
キーツもキメラシティに用事があると言うので、三人で赤い屋根の家に向かった。
アンネさんは庭に咲く赤青黄の花を持った魔法植物に水をやっていて。
グレイシアが淡々とした様子で「私がやる」と代わっていた。
「誰かと思えばあんたたちか、今までどこに行ってたんだい?」
「メイガス帝国に出張してました」
「まぁまぁ、それは遠征だったね、ご苦労さま」
「今回の出張は遠足みたいなものです」
「ラウルくんは人生楽しそうでいいわねぇ」
メイガス帝国の防衛では俺たちのクランが主役だったしな。
皇帝を相手取って報酬交渉をさせてもらい、内容も満足だった。
この先一年はクランメンバーへの支払ができそうだし。
その上、俺個人だと帝国庫の秘蔵酒や、美味しい海産物が年中支給される。
「あらあらまぁまぁ、一人だけ美味しい思いしちゃって」
「アンネさんにもおすそ分けしますよ」
「ふふ、ありがとう」
彼女は恩師がお世話になった、恩人の恩人みたいな人だ。
「貴方を見ていると、若い頃のレイヴンを思い出すわね」
「光栄ですね、師匠は天才の中の天才でしたから、光栄とおり越して恐縮です」
「謙遜もお上手ね。グレイシア、水やりはその辺で大丈夫よ」
グレイシアは手にしていたホースを地面に置き、蛇口を回して水を止める。
彼女はアンネさんの「今日の依頼は終わった」といい、俺を見ていた。
「なんだよ、まさかまた洋服の買い物に付き合わせるつもりか?」
「おじさんがいないと持ちきれなくなるから」
「持ちきれなくなるほどの洋服なんて必要ないだろ?」
亜空間倉庫があるから、彼女は荷物持ちとして俺を連れまわすつもりだ。
キーツも馴染みの武器屋にいって得物である大剣を整備したいというし。
日が暮れる前に二人の用事をすませるため。
アンネさんの今日の依頼は終わりにしてもらった。
二人を連れてキメラシティの繁華街に向かう。
ここはフリーマーケットを始めとした露天商から、通りの両脇に並んでいる建物に看板を構えている武器防具のお店だったり、または飲食店や植木屋といったありとあらゆる生活に役立つ品物が売買されている。
いつも活気にあふれていて、目が覚める。
そんな風に感心していると、露天商の店主が俺たちを呼ぶんだ。
「ラウルさん、メイガス帝国でのご活躍は聞いておりますよ、たった数人で万の軍勢を一蹴する姿は悪鬼羅刹のようだったって。そんなに強いのでしたらどうして言ってくださらない」
見たところ、露天商で売っている品は骨董品各種といったところだな。
魔道具もいくつか置いてあるし、マキナティアがいたら飛びつきそうだな。
露天商は両手を揉むと、闊達な笑顔で口を開いた。
「お安くしておきますよ、ラウルさんであればその後の活躍も間違いなしだ」
「へぇ、いくらまけてくれるんです?」
「へい、例えばこちらの魔道具なんてどうでしょう」
寄こされたのは珍しい魔道具で、拳銃の形をしたものだった。
これは使用する魔法によって弾丸の種類を変える七色の拳銃とのこと。
マキナティアにお土産として買って帰ってもいいかもしれないな。
「本来なら金貨二十枚の所を、十枚で売ってあげますよ」
「金貨五枚なら買うよ」
「金貨五枚は安すぎる、金貨九枚ならどうです」
「金貨十枚で二丁貰える?」
「くぅ、金貨十二枚で銃の魔道具二丁でどうです! これ以上はまかりませんよ」
じゃあそれで。
マキナティアのお土産として魔道具の拳銃を二丁安く仕入れられた。
やっぱり名声というのは持っているぶん得。
この調子でクランの知名度、人気度をどんどん高めていきたいな。




