016:クラン『レイヴンズチルドレン』
新規メンバー募集によって仲間が増えた。
元々いた三人と合わせると八名のメンバーだ。
中でも一番の収穫、というか。
回収できてよかったと思える奴がいる。
幼少の頃の俺が作り上げた機械人間のマキナティアだ。
俺に代わって戦場で無類の強さを誇っていたと聞かされている。
しかし、マキナティアは俺が魔法を使えなくなったタイミングで急に機能を停止した。かつては機神とまで呼ばれていた彼も、ガラクタと蔑まれ、王国の倉庫に埋蔵されていたはずだった。
数日後、新規メンバーと一緒にギルド総合館にある冒険者ギルドの窓口へと向かった。先日クラン創設を打診して来た受付嬢は自分の営業成果とも呼べる光景に喜んでいる。
「お疲れ様ですラウルさん、そうそうたるメンバーですね」
「とりあえず彼らが新しいメンバーになります、全員で五人」
受付嬢はにこにこ顔で颯爽とクラン創設の準備を進める。
「クラン名とシンボルマークはお決まりですか?」
「クラン名は『渡り鴉の子達』というのは登録可能ですか?」
シンボルマークは満開の花弁を背景に両羽を広げる鴉といったイメージ。
レイヴンは俺の恩師の名前で、俺をリーダーとする彼の一門という意味合いだ。
受付嬢にクラン名とシンボルマークを伝えると、ささっと手記を走らせる。
「ではレイヴンズチルドレンの皆様の構成をお知らせ願えますか」
「俺が総団長で、ニーアが団長、残りの六人は副団長になります」
「副団長の皆様のフルネームを頂いてもよろしかったですか?」
先ずはグレイシア、出会った頃は新米の薬草師を自称していたけど。
彼女の超人的な視力によって繰り出される矢は神業の領域だ。
神童だった頃の俺の相貌をしたマキナティアは魔力吸収機構を持っている。
それが故にマキナティアには『カウンターマジックの機神』という二つ名がある。
十四歳の双子の魔法使いのグリムとアンデルセンは兄グリムを中核とした魔法使いだ。世が世なら二人は俺のように王立魔法研究所にてその才能を開花させ、俺につぐ神童と呼ばれていたかもしれない。
巨人族と人間のハーフであるキーツは自身に小人化の魔法を掛けないとギルド総合館に入れないほどの巨体を誇示している。背負っている大剣を巨人族の膂力によって傍若無人に振り回す姿は暴君とうたわれるほど狂暴だ。
最後の一人はジェーン、彼女の冒険者等級は三つ星と他のメンバーより控えめではあるが、大乱闘の時に配った魔法の札が目の前に落ちてきたので奪取して長所である足の速さからいち早くその場を離れたシーカー職の女の子だ。判断力の高さに加え、彼女は面接で唯一手土産を持参した気配り上手な子だった。
「という感じですかね」
「素晴らしいですね、レイヴンズチルドレンのこれからのご活躍に期待してます」
これで俺のクランの登録は済んだ。
後は俺の家でレイヴンズチルドレンの創設記念のパーティーでも開くとしよう。
◇ ◇ ◇
「それじゃあ、みんなのお手をご拝借、レイヴンズチルドレンの創設に協力してくれて本当にありがとう」
昼下がり、アスターから貰ったキメラシティの家にて。
俺たちはクランの創設を祝うため、天井にそれぞれの杯を掲げていた。
「時に、みんなに俺の昔話をしてもよかったか」
総団長を務める俺が音頭を取り、クラン創設メンバーに恩師からの言葉を掛ける。
「俺は八歳の頃、ビッグティガーを討伐したのを皮切りに、恩師レイヴンの師事の下で着々と魔法の勉強を重ねて、周囲から神童なんていう風にささやかれるほど、少しは自信が持てるようになった。将来は賢者といった肩書を持つ偉大な魔法使いになるものと信じて頑張っていたけど、途中で諦めてしまったんだ。それからの俺の人生は実に詰まらないものだった」
魔法を使えなくなった当時の俺は挫折し、自信を喪失し、膝から崩れ落ちるように諦めてしまった。
「そんな俺に、記憶の中にあった恩師は言った。お前はこのまま諦めるのかって、諦め匙を投げることが魔法なのではない、諦めず立ち上がることこそが魔法なのだと。俺は恩師のその言葉に救われ、今こうしてここに立てているんだ。もし、みんなが重大な局面に出くわした時は、この言葉を思い出して頑張って欲しい」
クランの総団長である俺からの言葉は以上。
「と言うことで、クランレイヴンズチルドレンの創設を祝いまして、乾杯! 今日は無礼講でいこう」
みんなは杯を天井に掲げ、口々に乾杯といってクラン創設を祝った。
俺に次いでじょう舌だったマキナティアがみんなに向けて一声発する。
「主の言葉を侮辱しようものならわしが相手してやるのじゃ」
「意味不明だろマキナティア、お前はどうして何事にも喧嘩腰なんだ」
「許してくれ主よ、わしはどちらかと言えば兵器だからな」
昔のマキナティアはもっと話の分かる奴だったと思う。
長年に渡り兵器として扱われてきた経歴がマキナティアを歪めてしまった。
場の空気を配慮したのか、ジェーンが颯爽とマキナの隣に行き。
「マキナさんはラウルさんが作った機人なんですよね? すごいなー」
「主のすごさを理解したかの」
「もちろんですよ、ラウルさんが打ち立てた偉業の数々は神にしか成せない御業です」
「話のわかる奴がいたか、わしが見聞きした主の偉業をじっくり説明してやろう」
マキナティアはまるで若いツバメに言い寄るおっさんみたいになったな。
世俗について学習しているとでもいうのだろうか。
ニーアは巨人族のハーフであるキーツと話しているし。
双子の魔法使いはグレイシアと何ごとか会話している。
想定以上に会話が盛り上がっている、その様子を見て俺はキッチンに向かった。
すると家の玄関を静かに開け、俺の視界に入るなり微笑むイケメンが来た。
俺を兄さんと言って慕うアスターだ、キッチンで料理している俺の隣に来て。
「クラン創設おめでとう兄さん」
「何しに来たんだアスター」
「そんな言い方はないじゃないか」
「言葉のあやだよ、それで、何しに来たんだ?」
アスターは勝手にグラスを取って、ニーアから貰ったニホン酒を手酌する。
白く濁った美酒はアスターも飲んだ例がなかったようだ。
「レイヴンズチルドレンに初依頼を打診しに来たんだけど、このまま聞いてくれるかな」
「構わないけど、あまり無茶な内容はよこすなよ?」
「兄さんも知っての通り、キメラシティは多数の敵勢から狙われていてね」
アスターの話によると、近々また大きな侵攻があるみたいだ。それも今度は二方向による同時の進軍で、場合によってはスポンサーの一つであるメイガス帝国が挟撃されるかもしれなかった。
そのため、アスターは小悪魔のような微笑みでレイヴンズチルドレンに依頼した。
「兄さんたちにはメイガス帝国に出向してもらい、先方を守ってもらいたい」
「無茶言うなよ」
「無理難題おしつけたつもりはないよ、兄さんたちなら可能な依頼だしね」
あからさまなため息を吐くと、アスターはしたたかな物腰で言うんだ。
「このお酒、美味しいね。実はこれ、メイガス帝国が輸入しているみたいなんだ」
「へぇー」
「メイガス帝国は三国の中で唯一海に面しているからね、兄さんが好んで食べる美味しい海産物だってメイガス帝国の産出品だよ?」
いやいや。
「誰も断るなんて言ってないだろ?」
しぶしぶ引き受ける返答をすると、アスターは一際目尻を下げていた。
「今回もよろしく頼むね」




