014:冒険者の声
ジャックザリッパーの騒動の後、キメラシティはちょっとざわついていた。
「七つ星冒険者のアイシクルローズのニーアが、ある男に落とされたらしいぞ」
「え? 嘘だろ」
「本当だよ、仲良く買い物している所を何度も目撃されているらしい」
「相手はどんな奴だ?」
「見た目は普通のおっさんだってよ」
「えぇ、羨ましいな、普通のおっさんがニーアさんみたいな逆玉と、くそう」
振り向けば一輪の花のように可憐な相貌を見せる街のスーパーアイドルのニーア。
彼女が俺みたいなおっさんと肩を並べていることが冒険者の間で持ち切りだ。
ニーアの富、名声、美貌はキメラシティでも群を抜いていて。
彼女とグレイシアを連れて冒険者ギルドの建物を訪れると、何事かをささやかれる。事実無根の噂話もままあって、このまま過熱すれば俺はキメラシティにいられなくなるかもしれない危機感を覚える。
そんな中、兄弟子の写真が出ているギルド掲示板の報道記事に目が行った。
『ゴザ将軍、歴史的な大敗を期して将軍の椅子が近々空席に!?』
そう言えばこの間、大きな戦闘があったようだ。
兄弟子が総指揮を執っていたらしいが、カサンドラ王国が負けたのか。
相手はたしか王都から遥か西方にある標高千メートルの空島国だったかな?
隣にいたニーアは同じ記事を見て、安堵したようすだった。
「本来なら私も参加していたかも、行かなくてよかった」
キメラシティは三国共同出資の混成都市で、独立を望まれ、ささやかれている。
だからこの街で冒険者をやっていれば食いはぐれることはないと思う。
報道記事に将来を考えていると、ギルドの受付嬢が俺たちを呼ぶ。
「ラウルさん、ニーアさん、グレイシアさんはいらっしゃいますか?」
「いますよ」
「三番窓口までお越しください」
三番窓口は冒険者ギルドの受付の中でも一番大口になる。
ここは主に達成した依頼の報告をする所で。
今回は中級クエストのオルトロス討伐を達成して帰って来たばかりだ。
「オルトロスの討伐任務、ご苦労様でした」
「ありがとうございます」
「ラウルさんも五つ星のスターエンブレムが様になってきましたね」
「そ、そうですか?」
ニーアが受付嬢のおだてを訂正していた。
「この人は七つ星以上の実力を秘めていますから」
「頼もしい、是非ともキメラシティから史上初の八つ星冒険者を輩出させましょう」
俺だとて出世欲がない訳じゃない。
神童と呼ばれていた頃の自分に、二十年後の未来は楽しいぞと伝えてやりたいし。
恩師を失くして失意にふしていた自分に、頑張れとエールを送りたい所だ。
「では、こちらが討伐したオルトロスの毛皮になります」
「ありがとうございます、オルトロスの毛皮は丈夫で暖房性も高くて柔らかい上質な毛皮、私も一度でいいからこの素材で作られた高級コートを着てみたいところです」
「はは、だったら思い切って購入してみるのもありじゃないかと」
「それって、ラウルさんがプレゼントしてくれるって意味ですか?」
「それとは話がまた別です」
受付嬢と他愛ない会話を交わし、依頼達成報告をして、報酬の金貨三十枚を貰う。倉庫管理職やっていた俺の年収が金貨十枚なことを考えれば、冒険者家業はそうやすやすと引退できないな。
グレイシアが俺の頬を急につねる。
「ここでは笑わないようにって言ってたのはおじさんだよ?」
「わ、笑ってないから」
ここは冒険者という荒々しい連中が集う場所で、不用意に笑っていると舐められる。
俺がグレイシアにそう教えてから二か月は経っていた。
受付嬢はくすくすと笑った後、思い出したかのように口を開いた。
「あ、そうだ、そう言えばラウルさんに伝言を預かっております」
「誰からです?」
「特定の人物からではなく、しいて言えばキメラシティの全冒険者からですね」
は、はぁ? キメラシティの全冒険者からの伝言って、何?
「ラウルさん、もしよろしければパーティーメンバーをもう三人増やしませんか?」
「三人もですか?」
「ええ、そうすればニーアさんとグレイシアさんを合わせて六人になります」
「えっと、つまり俺にクランを創設しろと?」
受付嬢はうんうんと大きく二度頷き、俺にクラン創設の話を強くプッシュした。
「キメラシティの間でも知名度うなぎ上りのラウルさんなら、メンバー招集を掛けた瞬間希望者がこぞって押しかけると思いますし、中には優秀な冒険者も多数相談しに来ること間違いなしです」
クランを創設すると、メンバーに依頼を振れるし、何より冒険者ギルドと交渉の場を持つことができる。その分、クランには他の冒険者の模範となるような強さ、賢さ、品行の良さなどを求められるとは聞く。
しかし急に三人も新しいメンバー迎えて、上手くやっていけるか?
「今すぐご返答差し上げなくてもいいんですよね?」
「無論です、少しだけでも考慮頂ければと思います」
オルトロス討伐の依頼を満了し、家に帰って二人と話し合うことにした。
「どうする?」
家の食卓である五つある丸テーブルの中央にある一つを囲み、二人の顔色をうかがう。俺と同じ新米冒険者のグレイシアはいいと思う、と今回の話に前向きな姿勢を見せていた。
「私は自分のクランを持つことが理想だった」
「そうだったのか」
「大家族の中で育って来たから」
俺はいまだにグレイシアは不思議ちゃんという印象を持っている。
グレイシアは完全な内弁慶だ、外面もよくないが、身内になると顔幅利かせる。
よくよく見ればグレイシアの顔立ちは調度品のように整っている。
将来的にはニーアに負けず劣らずの美人になる可能性があった。
「ニーアはどう思う?」
グレイシアの逆隣にいた彼女に視線をやると、ある条件を出された。
「少なくとも下心のある人は遠慮したい」
「でも相手は冒険者だし、欲のない奴なんかいないんじゃないか?」
「じゃあ一応希望者を募って、私とラウルで判断すればいい」
「賛成だ、そうすれば建前は冒険者ギルドの打診を受けたことになるしな」
仮に、有能でいい感じの冒険者がいれば、メンバーに加えてもいいし。
であれば希望者を募る方向でギルドには返答しておこう。




