彼女と観覧車
「やっぱりもう別れよう。私達」
それ観覧車に乗って言うことか。
確かにここは俺達二人きりで、誰にも邪魔されそうもないけど、誰も止めることもできないんだぞ、気づいているのか、向かい合うこの女は。
「一応聞いてやるけど何でだ?」
「この先ずっと一緒に生きていくビジョンが見えない」
「見えなくてもいいだろ、ずっとっていつまでだよ。八十年後か?もう死んでるだろ」
「生きてるかもしれない」
「何で先のことばっかり考えてんだよ。今それなりに上手くいってんだろ。別れる必要はない」
「泉は私といて楽しい?」
「楽しいだろ」
「いつも私の気持ちを疑ってるのに?」
「疑ってねぇよ」
「疑ってるよ。友達と出かけさせてくれないじゃない」
「俺は週末しかお前に会えねぇんだぞ。彼氏を優先しろ」
「泉と結婚したらもう一生友達と会えなくなりそう」
「別に会わなくていいだろ。いいか、就職したら学生時代の友達なんかそうそう会わないぞ。俺は一年に一度か二度くらいしか会ってねぇ」
「それは泉が友達少ないからでしょ」
「大学で毎日会ってるだろ、休みの日までまだ会いたいのかよ」
「買い物とか女の子と行った方が楽しい」
「別に行きゃいいだろ。止めねぇよ」
「いちいち泉に許可とるのもうしんどい」
「行先と帰る時間教えろってだけだろ」
「子供じゃあるまいし」
「子供だろうが大人だろうが女だったら心配だろうが、世の中変な奴ばっかなんだぞ」
「ねぇ、こんな会話ばっかり繰り返してて楽しい?」
「どこもこんな会話してんだろ。付き合ってる男女は」
「楽しくない」
「人間が二人いたらな楽しいだけで済むわけないだろ。俺んちの両親なんて一年中喧嘩してたぞ」
「じゃあ余計に私じゃよくないでしょ。私達きっと結婚したらずっと喧嘩してる。子供によくない」
「子供には綺麗なものだけ見せろってか。現実の厳しさを教えてやった方がいいだろ。大人になったら親の夫婦喧嘩よりずっと嫌な目にあい続けるんだぞ」
「だったら子供時代くらい楽しくなるようにしてやりたいでしょ」
「してやったらいいだろ。別に止めねぇよ」
「子育ては二人でするものでしょ」
「ああ」
「二人で大事に育てたい」
「ああ」
「できれば三人欲しいし」
「ああ」
「子供がしたいっていうことは何でもさせてあげたい」
「してやればいいだろ。南気づいてるか?」
「何?」
「気づいてないならいい」
「何?もう。言ってよ」
どうやらもう観覧車落下しろって願わずに済みそうだ。