御影葵の寂しい大学生活
突発短編です
御影葵は容姿端麗、文武両道、歩けば世の男性の目を奪ってしまうそんな人物。歩くフォームはさながらパリコレモデルのようで、彼女が歩けばただのアスファルト舗装の歩道がランウェイのように煌びやかな舞台に様変わりするのだ。
そんな彼女は現在神戸市内にある大学に通う大学生。この近辺の大学の中ではトップレベルと言えるだろう。
通う時に使う交通機関はバスのみ。しかも1本で乗り換えることなく、なおかつ30分もあれば自宅から通えるという好立地に住んでいる。
実家住みのおかげか、性に奔放な男子学生から直接狙われる事も少なく、非常に安全な生活を送れている。
そんな彼女だが、実は悩みがある。
勉学のことではない、当然容姿のことでもない。
ではその悩みとは一体何なのか。
彼女は絶望的に友達作りが下手くそなのである。
彼女とお近付きになりたいという人物は男女問わず多い。しかし、彼女自身の発するオーラに気圧されそもそも近付いてくる人が少ないのだ。加えて彼女自身はどちらかと言えば自ら話しかけるより、話しかけられたい派なのである。
そう、見事に彼女の個性と性格の部分が噛み合わなかった結果なのである。
おかげで彼女は大学生になってからこの2年間、ずっと孤独の大学生活を送っていた。
バス通学、窓の外を眺める彼女の横顔はアンニュイな表情で思わず見とれてしまう人も多い。しかしその実、彼女の思考は「また知り合いのいない一日が始まってしまう……帰りたい」に染っているのである。
想像以上のネガティブ思考。誰が想像できようか。
お昼はいつも愛情たっぷりの母親手作り弁当。しかしそれを共有することの出来る友人もおらず、いつも学内のベンチに1人座って黙々と食べている。
傍から見れば可憐な所作で一切の無駄なく食べるその姿は、ある種の美術品のようにも見えるだろう。しかし彼女の内心はいつも泣いているのだ。
そんな彼女は今日も大学に向かう。
今日も誰にも気が付かれず憂鬱そうな表情を浮かべて。
冬の様相を見せ始めた最近の気温ではコート無しで外に出ることが出来なくなってきた。バスの中が暖かいのもあってか、なおのこと外が寒く感じる。
白い息を吐いてはそれを目で追う。
白くモヤがかった空気がどんどんと姿を透明に変えていく。私もそんな風に消えていたい、そう思う彼女は二限の授業が行われる教室に向かうのだ。
中に入ると彼女よりも前に既に数名の学生がいる。しかし左端の前から3番目の座席だけは少し避けるようにみんな座っていた。
そう、そこが彼女の特等席なのだ。
初回の講義に座って以来、誰も近くに座らないし座ろうとする素振りすら見せない。彼女としては講義中に誰かと喋るという夢のイベントがあるのだが、それも叶えられそうにないのだ。
定刻になり淡々と始まる講義。少し遅れてやってくる学生はいそいそと後ろの方に向かい、間に合っていた学生は気にする素振りすら見せない。
ルーズリーフの上にシャーペンが走る音と、スピーカーで拡声された教授の声だけが教室内に響く。
この講義が面白いか面白くないかで言えば、十中八九面白くないという方に分類されるだろう。しかし必修ゆえに取らざるを得ないのだ。船を漕ぐ学生だって少なくない。風の噂では毎年必修にも関わらず落単する学生も少なくないと言う。
しかし彼女にしてみればこの講義だってなんてことのない、非常に簡単なものなのだ。レポート課題は学内の図書館で少し調べれば十分なレベルのものを完成させれるし、中間テストも講義に出席して講義内容をまとめたノートかルーズリーフさえ持っていればあとはそれを見ながら解ける。落単する方がむずかしいくらいだ。
しかし、それでもやはりつまらないというのは学生にとっては目に見えぬ脅威なのだろう。
90分の講義がやっとのことで終わり開放された学生達は各々羽を伸ばすようにして室内から出ていく。
しかし当の彼女はまだ教室の中に居残っていた。
理由は至ってシンプル。二限の後は昼休みが挟まる。その間はお昼の時間だが、今は外が寒くさすがにベンチでぼっち飯を食べるのはきついと判断したのだ。そしてこの教室は三限中に使用されることも無く、暖房だけが起動している非常に良質な空間なのである。
彼女は相棒のトートバッグからお弁当を取り出す。今日は彼女の好きなオムライスらしい。
プラスチック製のスプーンも取り出し彼女は1人黙々と食べ始めた。ケチャップの酸味がどこか胸に染みる。
「友達……欲しいな」
誰に言うでもなくポツリと呟いた。
大学に入る以前の彼女の生活、つまり高校生時代は賑やかなものでないにしろ、仲のいい友達は間違いなくいた。しかし、その友達は関東の大学に進学してしまい、今では連絡も疎遠となっている。インスタグラムのストーリーに上がる友達の生活はとても充実していて、なんだか惨めな気分になってしまうのだ。
沈む心に蓋をするように、食べ終わった弁当の蓋を閉じる。使ったスプーンは教室前方のゴミ箱に捨て、彼女は三限の行われる教室に移動した。
三限とて特別変わったことがあるわけではない。二限と変わるのは授業内容と教室、あとは受けるメンバーくらいなものだ。することもルーズリーフに内容をまとめるだけ。
惰性に近いコンディションでこの講義も乗り切る。
今日はこれにて大学生活終了だ。あとは帰って晩ご飯を食べて寝るまで暇つぶしをするだけ。
バイトは一応してはいる。「カフェ黒木」という喫茶店だ。マスターが1人と彼女の他に高校生のバイトである華山有理という子がいる。
華山も分類分けをするのであれば本来は御影のようなタイプに分類されるのだろう。しかし彼女の場合は友人に恵まれたらしく活発でないにしろ、非常に接しやすい良い子へと成長したのである。
先輩にあたる御影はそんな彼女が羨ましいと、そう思うことが多々あった。けれど、そんな事をあまり親しくもないバイト先の先輩に言われたって彼女も困るだろう。
グッと抑えて彼女はいつも仕事をこなす。
行きと同じアンニュイな横顔。彼女は流れる車窓の外の景色を眺めながら明日は何か良い事があればな、とそう静かに思うのだった。
お久しぶりです。待ってくれてましたか?
待ってませんか……ぴえん。
とまぁ、そんな感じで後書きが始まりました。今回も相も変わらず始まりも終わりも決めてない突発そのものの短編でした。えぇ、話はまとまってないし正直面白いかどうかは分かりません。しかし容姿端麗、文武両道のヒロイン兼主人公が本気のボッチという作品も中々珍しいのではないでしょうか。書いててなんだかこっちまで悲しくなってきましたが、別に作者はぼっちではありません。普通の大学生活を送れています。あ、ちなみに世界線は私の代表作と同じなのであの子の名前が出てきてましたね。
と、うだうだと内容の無い後書きはこれまでにしてまた次回お会いしましょう。いつになるのか、全く分からないけど……まぁ楽しみにしててね!