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平家くんと源氏くん


 海に……到着してしまった……。


 海を見ながら座り込む後ろ姿。

 紛れもなく見間違えるはずもなく、もちろん宇佐川くんだ。


 どうやって声をかけようか悩む隙すらないままに、ヴィシュヌさまが宇佐川くんに向かって鳴いた。


「お。B ! 相変わらず元気だなお前は。あれ? キリ山さん、まだ制服?」


「ま、まあね、ちょっと家が忙しくて。と、と、となり、座ろっかなあ~」


 だめだ。緊張して声が裏返る。

 どうしよう、もっとちゃんといつも通りな感じで話さなくっちゃ!


「いいけど。あれだね、これ風が吹いたらスカートめくれてワンチャンパンツ見えちゃうやつだね」


「普通にスパッツ履ーいーてまーすー! ワンチャンはあーりーまーせーんー!」


 私は乱暴にその場に座りこんだ。


 おかしくない? 今から告白するんじゃないの? なにその雰囲気ぶち壊し発言。サイテー。

 それじゃあコワシ川くんだよ、コワシ川。漢字で書いたら小鷲川くんね。なんか本当にそんな名字の人いそうだけど。


 ねえコワシ川くん、本気で私に告白する気あるの? このままの流れで告白とかしてきたらさすがに引くんだけど。


「あのさ、俺、キリ山さんにずっと言おうと思ってたことがあって……」


 まじか。この流れで本当に来た。


 ちょっと待ってよ小鷲川くん。

 別にさ、私そこまで少女漫画みたいな展開を夢見てるわけじゃないけどさ、もうちょっとさ、雰囲気的なものをさ、大事にしてよ。


「前にキリ山さんが、『平家の話も聞いてあげようよ』って言ったことあったじゃん?」


「言ってませんけど」


 かぶせ気味に即答してしまった。

 いったい何の話だろう。全く記憶がない上に展開が読めない。もしかして人違いではなかろうか。


「言ってた言ってた。頼朝がガンガン攻めて、もう少しで清盛が討ち死にしそうなタイミングですかさずキリ山さんが出した救いの一言で形勢が逆転したじゃん」


「待って。私その時代まだ生きてないんですけど」


「5月の話だって。体育祭の競技決めの時。清盛が頼朝に無理やり『恥ずか死仮装・エグネタ借り物・鬼畜障害レース』に出場させられそうになってた時の話」


 そのフレーズで記憶のピースがつながった。

 わが校体育祭伝統の、なぜか廃止にならない伝説の出場人気ワースト1の障害物借り物競争。

 その最後の出場枠を争う辞退合戦の時の話だ。


「……それ清盛じゃなくて平野くんでしょ」


「だから平家じゃん」


「……てことは頼朝って……?」


「原田」


「サンズイがない!」


「その辺はまあ、気持ちで足す感じで」


「……わかったよ、そこは妥協してあげるよ。無理やりその時のことを源平の戦いにしたい気分だってことね」


「実は(いくさ)は水面下で今も続いてて」


「え? まだ合戦中なの?」


 あの戦いから3か月たった今も禍根(かこん)を残すなんて……。

 やはりわが校の悪しき伝説の噂は本当だったのね。


「あの一件からうちのクラスの男子はだいたい源氏と平家に別れてて、ちょっとした冷戦下の緊張感が漂ってたりするわけだ。あとは藤原氏のような中立的な立場のやつが少数」


「……藤原氏って、もしかして武藤くん?」


「お、いいね。キリ山さんわかってきたね。まあそんなで派閥っぽい感じでめんどくさいんだよね、うちのクラス」


「男子も男子でそういうのあるんだね。宇佐川くんはどっちグループなの?」

 

 休み時間の光景を思い出すと、宇佐川くんは誰とでも仲がいいイメージがあった。

 中立グループなのかもしれない。


「俺はどっちかっていうと源氏寄り。だからあんまり表立って平家とつるむといろいろめんどくさいんだけど、平家にも貸しがあるから平家サイドにも顔が利くっていうか。ま、二重スパイ的な感じ?」


 二重スパイという響きがなんかかっこいい。スパ川くん……語呂が悪いな……。


「へー、貸し……。もしかして仲裁に入ったとか? もう(いくさ)はやめよう的な」


「キリ山さん、もしかして覚えてない? あの鬼畜借り物障害の最後のひと枠、出たの俺だったじゃん。それが貸し」


「あ」


 そうだった。宇佐川くんが出たんだった。

 ちょっと前に流行った男性アーティストのホットなリミット通報ギリギリの衣装で『高校に入ってから付き合いだした熱々カップル』をお借りして爆走してたんだった。


「そうだった! 走ってたよね! Yo! Say!」


 思わずホットなリミットのフレーズが口をつくと、宇佐川くんもノリノリで「Yo! Say!」と言いながらポーズを決める。


 思い出したら楽しくなってきた。


 決めるまでは地獄だけど、やってしまえば楽しくなってしまう不思議な我が校の伝説だ。

 しかし、強引に出場者を決めてしまうと根深い憎しみの連鎖が卒業まで続くという悪しき呪いの伝説もある。そんな諸刃の剣のような競技なのだ。


「……というわけでキリ山さん。こっから本題なんだけど。

 そういうわけで、俺とほんものの恋をしませーんかー?」


「…………ん?」


 今なんかさらっと何かを言われたぞ?

 Yo! Say! の流れでさらっとなんか言われたぞ?

 


 ……え? ちょっと待って。今までの話の流れで全部ざざざーって通り過ぎてっちゃったよ。


 目の前の波みたいに、跡形もなく引いて行っちゃったよ。


 もしかして、さっきまでの話が、全部前ふり?


 どこまで冗談? どこから本気?


 え? 何? 告白ってこんな流れでさらっと終わっちゃう感じなの?


 正直、突然すぎてなんて言われたかもちゃんと聞けてなかったんですけどー!


 あ、ダメだ。

 なんか腹たってきた。


 ウザいにも程があるだろウザ川。


 ここに来るまでの私のドキドキを返さんかい。


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