ウザ川くんとキリ山さん
「ごめんウザ川くん、一回話を整理させて」
「オーケー。発端になった治承・寿永の乱から壇ノ浦までの流れを……」
「それじゃない。そこじゃない。その時代じゃない」
「キリ山さん、なんか怒ってる?」
「怒るわ。普通に怒るわ。怒らない方がどうかしてるわ。
なんなの、学校で告白予告してほのめかすようなことしといて、ドキドキしながら来てみれば平家だの源氏だの、ふざけすぎじゃない? なにこれ、ウソ告? 人のことバカにすんのも大概にしてよね!」
だんだん自分の声が大きくなっているのがわかるけど、もうこの怒りを抑えることは不可能だった。
ウザ川くんがびっくりした顔でこっちを見ている。
「ごめん。ふざけるつもりはなくて、源平の戦いは、その方が分かりやすいかなって思っただけで悪気はなくて」
「だってどうしてもそこから告白する方に話がつながんないじゃん! どうしてその流れで告白になるのか全然意味わかんないじゃん! ふざけてるふうにしか聞こえないじゃん!」
もうやだ。バカみたい。私一人で舞い上がっちゃってもうヤダ。
来るんじゃなかった。バカ弟に散歩代わってもらえばよかった。
なんか涙出てきた。信じらんない。バカみたい私。完全にウザ川のせいだ。やだもうウザ川大嫌い。もうヤダ死にたい。
「ごめん……。でも、本当に、きっかけは最初に言った通りなんだって。
キリ山さんがあの時言った一言でクラスの空気が変わったんだ。俺もさすがに平家……じゃなくて平野のことを、ちょっと露骨に追い詰めすぎで、若干原田に引いてたっていうか、でもクラスの空気が完全に平野で決定みたいな流れになったのに、それひっくり返す勇気、俺にはさすがになくてさ。
だから、キリ山さんがさらっとそれを言って、空気がキリって変わったの……ガチですげえって……ちょっと地味に感動したのね、俺……」
私は伏せていた顔を少しだけ上げた。
ヴィシュヌさまが心配そうに私のことをのぞき込んでいる。
宇佐川くんの顔は海の方を見つめている。
宇佐川くんの耳がいつもより赤く見えるのは、夕日のせい?
「そこから、結構キリ山さんのこと気になってて。でも俺、キャラ的にお調子者だし、結構がんばってアピールしてみたこともあったんだけど、キリ山さん全然響いてない感じだったし……」
「……ごめん。でも言い訳させてもらうと、宇佐川くんって割と誰にでもそういうことノリで言いそうなキャラだったから。
でもごめん……、ほかの女子たちと一緒になって、適当に流してたかも……」
「だからさ、海でキリ山さんに声かけてもらえた時、すげえ嬉しくて。でも夏休み終わったらもう二人きりで会えなくなるし、学校始まったらまた元に戻るのかって思ったら、それすげえ嫌だなって思って。
んですっげえ勇気振り絞って告白したのに、キリ山さん雷にはしゃいで全然俺の話聞いてくんないし……」
「あの時のって告白してたの!?」
「したよ。したした。めっちゃ本気でした。ガチ告した。なのにキリ山さんてばピカ山さんになってるし……」
「あれはなしだよ。音量的な問題も考えてよ。全然聞こえなかったってば。シチュエーション考えようよ」
「俺の激しくあふれる想いと天候が奇跡の融合を果たし、俺的にはあれはベストなタイミングだった。なのにキリ山さんはピカ山さんだった」
宇佐川くんが恨みがましい目でちらりと私を一瞥する。
「会話が成立しない時点でベストじゃないって。でもピカ山はごめん。もっと耳をすまして聞いてたら良かったです……雷にはしゃいでごめんなさい」
「俺の彼女になったら許してあげるって言ったら?」
「へ?」
「ごめん今自分で言っててキモくて超鳥肌たった! ほら! 女子が休み時間に読んでる漫画のイケメンのセリフ! 今一瞬頭に浮かんで言ってみたけどマジで二次元限定な! 普通の男が言ったって寒すぎる! うわー! 事故った! ちょっと今の一回忘れて!」
「……そうやってすぐふざけるから本気なのか分かんなくなるんだよウザ川くん。そろそろ私怒るよ?」
「あ……ごめん」
「…………」
「…………」
無言。
波の音だけが絶え間なく流れていく。
……なんか言ってよ。こっからどうつなげばいいのよ。
これが決着つかないと帰るに帰れないじゃない。
「あの……本当の本気で、キリ山さんが彼女になってくれたら、すごく嬉しいんだけど……ダメ?」
弱々な声と表情で、宇佐川くんが私の顔を上目遣いでうかがう。
横にいるヴィシュヌさまも同じような感じで私を見ている。
少女漫画みたいな世界とは全然比べ物にならないくらい、ふざけたことばっかりだし、変な人だけど――。
「……だめじゃない……」
好きになっちゃったもんは仕方ないよね。
夕日に照らされた金色の海。
風に乗って飛んでいく海鳥たちの声。
寄せては返す波の音。
隣には大好きな我が家の愛犬ヴィシュヌさまと、ちょっと変だけど憎めない彼氏。
「……ふふっ」
ついニヤけてしまった私に、宇佐川くんがいたずらっぽく聞いてきた。
「あれあれ? キリ山さんなんだか嬉しそうですね? 何かいいことでもあったんですか? もしかして素敵な彼氏ができたとか?」
自分で言うなウザ川め。
さては調子に乗ってるな。
「えー、海がきれいだなって思っただけー」
そう言った私に宇佐川くんはすごく優しい笑みを浮かべた。
心臓がつぶれそうになるくらいの苦しさに、思わずめまいを感じた。
「桐山さんの方がきれいだよ」
予感を感じて私は目を閉じた。
違う。予感じゃない。
海で最初に会ったときに、もう予告はされていたんだ。
そう思うと、なんだかとっても不思議な縁のような、もともとそうなる運命だったのか、いろんなことが頭をめぐる。
ゆっくり近づいてくる宇佐川くんの気配を、私は目を閉じながら感じていた。
もしかしたらきまぐれで続きが出ることもあるかもしれませんが、とりあえずこれで完結です。
お読みいただきありがとうございました。




