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骨は隣に埋めてくれ  作者: 黒月水羽
第三章 満月の日
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5 落ち着かない匂い

 番の話をされてから初めての満月は緊張した。何かが起こるのではないかと前日から落ち着かず、カリムに「存在がうるさい」と罵られて追加でイラつくという最悪な一日を過ごした。

 ところがやってきた満月はいつもと全く変わらない。十二歳になったからといっていきなりやってくるものではないという話を思い出し、ひとまず安心したものの、ではいつやってくるのか。今度はそんな不安が浮かび上がった。


 一回目が無事に終わり、二回目も無事に終わり、三回目も何事もない。十三歳、十四歳になってから来る者もいると聞くし、自分はそのタイプなのかもしれない。そうであってほしいという気持ちも湧き上がってきた。

 問題の先送り。それは分かっていたが、考える時間は多い方がいい。


 同級生のワーウルフはどうなのかも気になったが、プライベートな話だと思うと聞きにくい。もし満月の日の影響を受け始めていたとしても、番がいる同級生たちは自分とは状況が違う。参考にはならないかもしれないと思うと余計に聞く気にはなれなかった。


 そうこうしているうちに四回目の満月の日はやってきた。

 今回も何事もなく終わってほしい。そう思いながら教室に入ったラルスは、鼻を通り抜けた匂いにムッとした。


 カリムと鉢合わせしないようにギリギリの時間に入った教室には、いつも通りのクラスメイトがそろっている。青嵐を挟んでセツナとナルセが並んでいるし、ヴィオはクレアにくっついて幸せそうだし、リノはセリーヌと和やかに会話している。

 カリムが教室の隅で読書しているのはいつもの事。他のクラスメイトがそれに構わないのもいつもの事。いつもと同じ光景。それなのに知らない匂いが鼻を刺激して落ち着かない。


 匂いの原因を探ろうとぐるりと教室内を見渡すが、一目でわかる変化はない。となれば誰か香水でもつけているのかと、一番可能性がある猫又二人を見る。しかし、いくら流行り物とお洒落が好きでもワーウルフと同じ獣種。匂いには猫又だって敏感なはずだと考えなおした。

 では、なぜ誰も匂いに言及しないのだろうか? こんなに気になる匂いなのに。

 

 ラルスは不思議に思いながら、朝の挨拶をすべくヴィオとクレアに近づいた。

 ラルスに気づいたクレアはにこりと笑みをうかべる。ヴィオに向けるものに比べるとひかえめだが、十分に癒される笑顔だ。クレアにピッタリとくっついているヴィオも、いつも通り「おはよ」と片手をあげて挨拶する。


「……誰かさ、香水でもつけてんの?」

 小声でヴィオとクレアに聞くと、二人は不思議そうな顔をした。


「ヴィオ、何か匂いますか?」

「クレアの匂いしかしない」

「あっ、うん。ごめんな。邪魔して」


 真顔で答えたヴィオを見ていられなくなり、ラルスはそそくさと二人から離れた。ヴィオが何かを言おうとしたところで先生が入ってきて、一日が始まる。

 すっかり定位置になった出入り口に一番近い席。そこからもう一度教室を見渡した。確認のために匂いを嗅ぐと、むせかえるような匂いに思わず鼻を押さえる。吸い込んだ匂いはけして嫌なものではない。むしろ良い匂いだと感じるのに、落ち着かない。嗅げば嗅ぐほど頭がクラクラする。


 何だこの匂い。そう思うのに、ラルス以外は誰も匂いを気にした様子がない。同じくらい鼻がいいはずのワーウルフも、猫又も何事もなく授業を受けている。それが余計にラルスを混乱させた。


「先生、ラルスの調子が悪いようです」


 鼻を押さえて微動だにしないラルスに気づいたのか、声をあげたのはヴィオだった。クラスメイトが振り返る気配がする。視線も感じる。けれどラルスは動くことができなかった。


「私とヴィオで保健室につれていきます」


 続いてクレアが声を上げ、立ち上がる気配がした。先生がそれに何か返事をしているようだが、その声が遠い。匂いだけでなく音もいつもより大きく聞こえて、頭がガンガンする。


「ラルス、立てるか?」


 ヴィオがラルスの顔を覗き込む。背中にはクレアのものだろう手の温かさを感じて、少しだけホッとした。二人の匂いが間近にあるおかげで、少しだけ他の匂いが和らいだ気がする。


 ゆっくりと頷いて、何とか体に力を入れようとするが体の動きが鈍い。どうやって体を動かしていたのか分からなくなる。それでも何とか倒れずに済んでいるのは、教室の中にカリムがいるからだ。アイツの前で無様に倒れるのだけはごめんだと、意地と気力で何とか持ちこたえる。


「ラルス、文句は後で聞く」

「緊急事態ですからね!」

「えっ……は!?」


 ヴィオが何かをいうなり体が浮き上がる。状況についていけずに顔を上げれば、ヴィオの顔が間近にあった。そして自分の体がヴィオに抱き上げられていることに遅れて気付く。同い年の同性の男に軽々と持ち上げられたという事実に顔が熱くなる。


「歩ける! 歩けるって!」

「俺が抱えていった方が早い」

「そうですよ。ヴィオのお姫様抱っこの安定感はすごいですよ!」

「それはクレアちゃん専用だろ!」

「今だけ貸します!」

「遠慮します!!」

「騒いでると舌かむぞ」


 抵抗空しくラルスは教室から拉致された。同じくらいの体格の男を抱えて、普通に走るヴィオの力強さには感服するが、それ以上に恥ずかしい。こんなことになるなら、意地なんて張らずに気絶しとけばよかった。

 そう思った所で急に意識が遠のいた。緊張の糸が切れたのか。それとも気絶したいという願いを創造神様が叶えてくれたのか。叶えるならもっと早めにと思ったのを最後に意識は遠のいていった。


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