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【後編】只野にはお見通しだった。



海の家でのバイトが終わり、日常が戻った。

夏休みは変わらずに…いや、高頻度で只野の家で過ごし、バイト帰りや外出時に迎えに行くようになった。近くで不審者情報があった、という言い訳をしながらもしつこいくらいに連絡して勝手に迎えに行ってた。ついには予定共有アプリを只野と俺のスマホに入れたけど、優しい只野は「まぁいいけど。」と許容してくれた。…いや、これは連絡で聞かれまくるのが面倒なだけだな?


只野の生活に干渉しまくった夏休みがあと少しで終わる。後少しで始まる大学。そこで俺はまた、只野にあの態度を取るのか?…否。もう只野に甘えちゃいけない。只野を取られたくないんだろ、俺。ならもっと必死になれ。


そう思うくらい、只野はモテた。

例えば海の家のバイト。目を離すとすぐに連絡先を聞かれる。この後どう、なんて誘われてる。カフェでのバイトでも、何やら後輩からの支持率は高いと働いてる子達に聞いた。後は只野を見るために通う奴もいるとか。

新田からは「そろそろ改めろよ。じゃないと只野さんに彼氏ができるぞ。」と言われたし、ユーコやタローからは「この状況が続くなら、友達を只野に紹介する。」とまで忠告された。…日頃の俺を知っていたらそう言われても仕方ない。


なので変わります、俺。


大学ではそれはもう騒がれた。

只野は目をまん丸にしてたし、周囲からは質問攻めされた。それには素直に「只野が好きで、でも素直になれなくてあの態度をしてしまった。ずるずると続けてしまった。」と答えた。

友人たちは頭を抱えてたし、俺に注意をしてくれた人もいた。はい…反省します…。

俺の気持ちを知って、グループから抜ける女の子もいたのは知ってたけど特に何も言わなかった。だって変に同情しても、その思いには応えられないから。新田やユーコ、タローからはしっかり反省しろ、謝罪の言葉は只野にちゃんと伝えろ、と釘を刺さしてもらった。


只野に「今までごめん。」と外での態度に関して謝罪すると、「大きい猫みたいで面白かったからいいよ。夜ご飯奢ってくれたら許す。」と言ってもらえた。この子の心は寛大すぎる、女神の生まれ変わりだろうか?とはいえ、許されないことをしたのは忘れないでしっかりと尽くします。夜ご飯は只野のリクエストで焼肉に行った。タンを延々とお代わりしていた只野は可愛かった。




***




雨の日、告白されている只野を見つけた。たまたま俺も早上がりの日だったから、迎えに行ったら知らない男と話していた。告白を耳にして、思わず足が止まってしまった。そう、只野は可愛いしモテる。告白されてもおかしくない。そして只野がアイツを選んでもおかしくない。


だって俺にはあれを止める資格や立場がない。あんなにも新田達から忠告されていたのに、いざその状況になると目の前が真っ暗になった。今すぐ乱入して、只野の手を取って邪魔したい。只野の方を引き寄せて、俺のだって言いたい。だけど俺にはそれができる立場が、ない。選ばれるかどうかも、わからない。只野は只野のものであって、俺のものじゃないから。


どうしよう、告白受け入れるのか?傘を持つ手が震え出した。息が浅くなり、思考がぐるぐるしながらも耳から音は拾えていた。きっと只野の言葉を拾いたくて集中していたんだと思う。


「ごめんなさい。私好きな人いるんです。」


好きな人、いるのか。頭がぐらりとした。そりゃそうだよな。只野にだってそんな存在ができても不思議じゃないだろ。もう一人の俺が呆れたような顔をして言う。そんな、そうか。じゃあ只野は俺のになってくれない……?


ふと現れた只野は、俺を見てくすりと笑った。ただいま、と言って。帰ろうと言って、俺の手を取って歩き出した。






***





「私さ、もう林くんに人生めちゃくちゃにされてるんだよ。だからさ、責任ちゃんと取ってよね。」


夢だろうか。これは自分が見ている都合の良い夢で、起きたら今まで通りなんじゃないか?そう疑うくらい、幸せだった。

俺の気持ち悪い自分勝手な行動や気持ちを知ってたらしく、でもそのままにしておいてくれてた彼女。もう絶対大切にする。こんなに可愛くて優しくて心が広い只野は間違いなく女神の生まれ変わりだ。来世ではまた女神になるかもしれない。でも女神になったらもう一緒に居られなくなるから戻らせないけど。俺は神になれるほど心が広くないので。


美和、と初めて口にした言葉は甘かったと思う。ずっと呼びたかった。なぁに、涼太。と笑う美和にたまらなく幸福な気持ちになった。思わずぎゅうっと抱きしめる。美和には俺が大型犬に見えるらしい。男としてはかっこいい、と思われたいが美和に「可愛いよ。」と言われるとそれでもいいか、と思えた。


美和、美和。大事にする。本当にごめん、今まであんな態度をとって。でもようやく俺のものになってくれた。俺のものだ。心が歓喜で震えた。


美和は知っている、と言ったけど。

きっとまだ知らないこともあるだろうな、と思う。例えば俺の家には隠し撮りしたり、美和の両親に頼んで焼き増ししてもらった美和の写真がたくさんあることとか、スマホの中も美和の写真や動画でいっぱいなこととか。美和のスマホに隠れてGPSアプリを入れたこととか。美和に将来不自由させないように始めた俺の貯金残高がとんでもないことになってるとか。




ああ、俺は只野美和を手に入れられなかったらどうなっていたんだろう。きっともっともっと狂っていたんだろうなぁ。本当によかった。


美和、俺を受け入れてくれてありがとう。

ずっと大切にするよ。




美和は言ってます。全部知ってるよって。文字通りの意味です。


これにて本編はお終い。ぼちぼち後日談を投稿するかもしれません。

拙い文章を読んでくださりありがとうございました!

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