7.林くんは私のことが大好きらしい。
「じゃあ只野さんは林の異常行動の意味を知ってたってこと?」
「まぁ…。さすがにそこまで鈍くないんで。」
「うわぁ、全然気が付かなかったなぁ。」
「だよな?!俺も俺も!」
新田くんが驚いたのを気配で感じながら、手元のラテを飲む。うん、美味しい。タローが新田くんに同意しているのを、ユーコが「ちょっと声、大きい。」と軽く咎めた。
雨の日から早いもので1週間。
私と林くんはお付き合いすることになった。恋人同士、いわゆるカップル。林くんは相当嬉しかったのかずっと私の隣か後ろか前にいるし、家もほぼ半同棲という形で私の部屋に住み着いている。後はいつのまにか私の親にもお付き合い報告をしていた。相変わらず外堀を埋めたがっている。
ちなみに今日は久しぶりに4人で集まれた為、報告も兼ねて中庭のテラスで近況報告をしていた。
「別に好きで林くんの気持ちに気づかないフリしてたわけじゃないよ。」
「じゃあなんでだよ?」
私の言葉にタローは身を乗り出した。彼は彼なりに、私たちのことを心配してくれていたらしい。
「だって外ではあの態度とはいえ、家では彼氏みたいな顔するのに、私に向かって好きの一言もちゃんと言わないのは違うでしょ。」
だから、決めてたの。
「林くんが私のことを好きって言うまでは、意地でも彼女になってやんないって。」
口角を上げてにやりと笑う私に、皆ポカンとする。そう、決めてたんだよ、ずっと。
とはいえ。
あんなに私にはツンケンした態度なのに、実は必死になって私のことを追ってくる林くんを見るのも面白かった、というのもあるけど。
「…なんだよ〜心配して損した!」
「ははっ!でも2人が納得してるならいっか!」
「そうだね。それにあの林と付き合っていくなら、それくらいじゃないと!」
「ふふ、でも3人が気にてくれてたのも嬉しかったよ。ありがとう。」
「何話してんの?」
声の方向を見ると、教授のところに行っていた林くんが帰ってきた。突然秋めいてきた気候に備えて、最近購入したデニムジャケットを羽織っている。奥には林くんの友達グループが背中を向けて去っているので、一緒に行っていたのだろう。
「おかえり〜。林、お前の話だよ。」
「え、俺?」
「そうそう、お前が只野のこと好きすぎるって話!俺、バイト終わるまでお前に睨み続けられてるの超怖かったんだからな!」
「悪い!タローの家に泊まってるって聞いて思わず警戒してた!」
にかっと笑って潔く謝る林くんに、タローは「まぁ良いけどよ〜。」と頬を膨らましている。良いんかい。ちなみに林くんがタローの事を警戒しているのも知ってたけど、放っておいてた。だってまだ好きって言われてなかったので。少し申し訳ないので、タローには後で何か奢ろう。
「美和、お待たせ。行けそう?」
「うん。」
「この後どこ行くの〜?」
「水族館。夕方からナイトタイムが始まるの。」
ユーコが「あれか〜。」と頷く。先日、ユーコに話していたのを覚えていたらしい。今は午後だから、ゆっくり向かえばちょうど良いくらいの時間だろう。飲んでいた飲み物のコップを捨てようとすると、林くんがすでにゴミ箱へ持っていってくれていた。相変わらず世話焼きスキルも高い。
「それじゃあね。」
「いってらっしゃ〜い。」
3人に手を振り、林くんと手を繋ぐ。私たちの姿に周囲が騒ついたのが分かった。林くんは人気者なので、女子からの支持率ももちろん高い。「やっぱり…。」「ショック〜!」などの言葉が聞こえた。
本人は聞いていないのか聞こえていないのか、笑顔はないものの何処となくご機嫌で歩いている。
「ン、どうしたの。」
私の視線に気がついたのか、こちらを見る。黒い瞳には光はあるものの、まだどろりと澱んだものが見える。独占欲、執着心、そういったものを煮詰めたようなもの。
彼はいまだに外用と私用で顔を分けるし、スマホの予定共有アプリや私の人間関係を把握したがる癖もそのままだけれど、それでいい。それで彼が安心するなら止めないし、なにより私を繋ぎ止めることに必死な姿も可愛い。そんなことを思う私もとっくに手遅れなのだと思う。
「…涼太、水族館楽しみだね。」
「…そうだな。」
まだ照れ臭くて数回しか呼べてない名前に、林くんの頬は少し赤くなる。きっとこれから一番呼ぶことになる名前なんだろうなぁと思いながら、その姿が可愛くて思わず笑いが溢れた。




