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2.2人で過ごす時の林くんはいつもと違う。



時は少し過去に遡り、例の転校初日。

クラスみんなの前で「おまえかわいくない。」宣言をした彼、林くんは学校帰りに私の後ろをついてきた。


どうしたらいいか少し迷ったが、害はなさそうなので放置して新しい家に向かう。無言で一定の距離を保ちながら着いてくる林くん。この子休憩時間に野球して友達と爆笑してなかった?と思うくらい、活発で気さくそうなイメージだったはず。今後ろにいる彼は、笑顔のえの字もないくらいに無表情だった。


無事に新しい家に到着する。さて、後ろの子はどうしようかと思った時。


「…ふーん。ここね、覚えた。」


じゃ、と言って来た道を戻っていく林くん。やっぱりこっちの道じゃなかったんだな、じゃあなんで着いてきたんだろ〜と考えたけど面倒くさくなってやめた。

お母さんに「新しい学校はどうだった?」と聞かれ、「まぁまぁ。」と返しておやつを頬張った。



林くんは何故かそこから、時々帰り道に着いてくるようになった。そして私の両親に笑顔で挨拶して私の部屋で過ごす。時々というのは林くんが野球チームの練習がなかったり、お互いに予定が無いとき。つまり、私たちの周りに人がいない時に彼はやってくるのだ。


学校では私のことを睨みつけてくるし話しかけても無視されるけど、部屋だとベッタリくっついてくるし何かと話しかけてくる。

あまりの変わりように少し困惑した私だったけど、質問しても答えてくれないので諦めた。まあ猫チャンみたいなものか。見た目は黒い大型犬みたいだけど。


そしてそのまま成長し、今に至る。

相変わらず誰か近くにいると鋭い眼力・舌打ちのオンパレードだが2人だと抱きついてくるし。

「まぁ2人とも仲良いわねぇ〜。」と言ってウフフアハハと笑う両親は、私たちの学校での姿を知らないのだろう。最早私は面倒くさくて放置していた。



「(まさか大学まで同じだと思わなかったけど。)」


カフェテラスの一室で盛り上がる集団の中心には林くんが当たり前のようにいる。本日も爽やかな笑顔に、周囲の女子はチラチラ盗み見ている。


相変わらず人気だなぁと思いながらお弁当をつついていると、向かいにいたタローが「今日弁当なんだなー。」と手元を覗き込む。


「すっごい美味そ〜!これ自分で作ったんか?!」

「たまに只野はお弁当の日あるよね〜。」

「あー……まぁね。」


嘘。あの爽やかくんが作りました。

と言っても信じてもらえそうにないので、適当に頷く。林くんは家に来た時、何品か料理を置いていくのだ。今回も日持ちするような作り置きメニューが家の冷蔵庫で眠っている。そのついでか、泊まった日の朝は必ずお弁当も用意してくれていた。


私が一人暮らしをしてから始まったこの習慣は謎だけど、ご飯代が浮くしなにより味も美味しい。特に文句はないので甘えている。ただ作り置きメニューを完食するまでは、外泊せずに家でご飯を食べないといけないのでそこは少し困っていた。贅沢な悩みだが、だいぶ量があるのだ。


「あっ。ねぇねぇ。ひとつ相談なんだけどさ。」


ユーコがパッと顔をあげる。今日はパスタを選んだようで、両手にはスプーンとフォークが握られていた。


「今年の夏休み、短期バイトしない?」

「なにそれ。」

「私の従姉妹がさ、海の家を運営してるんだけど夏休みがかなり混むのに、最近従業員が辞めちゃって人手が足りないんだって。だから3人でやらない?1ヶ月泊まり込みだけど」

「超楽しそうじゃん!俺やるやる!」

「よしタローゲット〜。只野はどう?」


うーん。1ヶ月、ということは8月いっぱいか。

まぁいっか。最近今のバイト先も人が増えてきたし、お休みを貰えるだろう。海はあんまり好きではないけど、せっかくだし……。


「うん、やる。」

「やった!じゃあ後で詳細送るわ〜。」

「宿とかあんの?」

「あるある!近くに従姉妹のお姉ちゃんちがあるから、そこに泊まりかな。元々宿やってたとこをリノベしてるから、かなり広いよ。風呂も叔母さんが近くの銭湯を運営してるから使っていいって!」

「最高じゃん!」


大学生みてぇ、と笑うタローとユーコにつられて笑いが溢れた。なんだか私もワクワクしてきたな。「花火したい。」と伝えると「絶対やろ!」とノリがいい2人。さすがです。珍しく浮かれている私を見る視線に気づかず、卵焼きを頬張った。






「絶対駄目。」

「ええ…。」


目の前にはスコーンと表情が抜け落ちた林くん。随分と低い声で言われ、思わず戸惑いの声をあげた。

ここは私の家、ではなくどこかの学科の空き教室。スマホで場所だけ指定されて、空きコマで特に授業もなかったので珍しいなーと思いながら向かった。

ノコノコきた私を待ち受けたいたのは、かなり機嫌の悪い林くん。あれ、何かしたっけ?と過去の己を振り返るが生憎と思い当たる点はない。


大人しく林くんの話を聞くと、お昼に話していた海の家のバイトについてだった。あんなに周りが騒がしかったはずなのに、よく聞こえてたなぁと思う。いつから、とかどこで、とか、なんでそうなったの、と次々とくる質問に答えると、どんどん眉を顰めて先ほどの言葉が舞い落ちた。


「今のバイト先も、人が増えてシフトに入りにくかったから、ちょうどいいんだよ。」

「でも駄目。海の家ってだけでも危ないのに、1ヶ月泊まり込みなんて論外。」

「林くん保護者みたい……。」


むしろ私の両親よりも厳しい。そう伝えると、さらに眼光が増した。すみません。

はぁ、とため息をついて腕を組む林くん。それを私があくびをしながら待っていると、頭を抱えていた彼がこちらを見た。


「……場所は江ノ島なんだろ?」

「うん。」

「わかった。一旦この話は保留な。」


保留とは?とも思うが、林くんの中ではなにやら完結したようだった。まぁいっか。ところで林くんの腕の中が暖かくて眠気がすごい。

お昼ご飯も食べてウトウトしていた私は、まだ次の授業まで時間があるしなぁ、と思い、そのまま眠気に身を委ねることにした。

背もたれにしてる林くんのブツブツ話す声をBGMにしながら。



「…寝てるし。ほんっとうにこいつは人の気持ちも知らないで……。」


だから林くんがそう呟いて私の頭に唇を落としたことも知らなかった。




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