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1.どうやら林くんと私は不仲らしい。



ドサッと前の席に荷物が大きな音で置かれた。

黒いバッグを持つ手の持ち主を見ると、そこには予想していた人物がいた。


「…何コッチ見てんの?」


黒髪のつんっとした短めの髪の毛、同じ色の切れ長な瞳。私を見る目はぎろりと音がなりそう。


「いや。別になにも。」

「ふーん…。あっそ。」


椅子を引いて座る。わざわざそこに座らなくてもいいんじゃない?とも思うけど。私は今一番後ろの端っこに座ってて…本当は彼が先に座りたくて、でも私に取られてしまったから前の席に座ってるのか。なるほど、納得。とはいえこの席を譲る気はないけど。


彼を見た周囲の人がどんどん挨拶をしに来た。男女問わず何人か集まり、すぐにそこそこな集団になっている。その中心で笑うのが彼、林くん。

さっきまで鋭かった表情はもうない。まるで正反対の爽やかな笑顔で皆と盛り上がっている。私はいつもそれを見て「器用だなぁ、このひと。」と思うばかり。



私はなぜか爽やか人気イケメンこと林くんに嫌われているらしい。



出会いは小学生。

5年生に転校した私は幼き林くんと同じクラスだった。林くんはすでにクラスの人気者で、この頃からカーストのトップぶっちぎりだったのだ。

そんな彼は私を見て、なんと言ったか。


「おまえってかわいくない。」


ぽかーん。急に言われた私は思わず口を開けてしまった。というかお前is誰。いくら学年で人気者といっても転校生だったのだ。知らん、この子。


集団生活で恐ろしいのは影響力。すぐに周囲は私を遠巻きにして過ごした。幸いなのはいじめられなかったことか。ただよくある『お前誰が気になってんの?』という話題では必ず「只野はねーよな!」と言われ続けた。


「只野ちゃんはかわいいのにねー?」

「うーん。平均的だと思う。」


とにもかくにも波乱に満ちた小学生生活を終え、中学校。同じ区内に在住しているため、仕方ないが当然のように同じ学校だった。そこから始まるのは、人気者林くんと仲良くなりたい人たちからのだる絡み。


「ねぇ林くんって只野さんが嫌いらしいよー?」

「えーカワイソー」


くすくす笑う女子に揶揄いに来る男子。当の本人はいつも爽やかに笑うくせに、私を見ると舌打ちをする。クラスが離れて安心していても、林くんは友達が多いのでよく遊びにくる。その度に目が合うと舌打ち。3年目からはもはや恒例行事とされた。


「只野、林くんのこと怖くないの?」

「怖……?いや特には。」

「どんなメンタルよ」


そして高校生。校門をくぐり、教室に向かうと林くんがいた。思わず目を擦ったが見間違いではなかった。幻覚かと思いました。まぁいつも通りあんまり関わらないか、と考えながら生活がスタート。

目があったら舌打ち、私たちの間で生まれない会話。クラスメイトならぬ校内生徒に衝撃が走った。この2人、仲悪いらしい。あんなに爽やかな笑顔のアイツが眉を寄せて睨んでる。これは過去に何かがあったに違いない。そして深まる不仲説。


「本当にアンタなにしたらこうなんの?」

「こうとは?」

「……えっ?」



満を辞しての大学。かねてから行きたかった大学に受験し、上京。新入生代表の挨拶にて、壇上に上がったのは。


「新入生代表、林涼太。」


林くんだったらしい。らしいとは何か。私はその時、引っ越し準備が終わらずに前日からオールだったせいか最悪のコンディションだったのだ。つまり、爆睡。林くんがいたのは、大学に入って1週間後。前の席から回ってきたプリントの持ち主が林くんだった時に気付いたのだ。これにはびっくりした。


話しかけようとしたが、無視されるのはわかっていたので早々に諦めていた。それにしても林くんは県内の大学に受験すると、噂で聞いていた気がする。私みたいに直近で変更したのかもしれない。



「只野オハヨ〜。」

「あ!只野!お前昨日先に帰ったろ!」

「おはよ。ごめんごめん、家帰りたくてさ。」


隣に座ったユーコとタロー。2人とは趣味も同じで話す機会も多く、よく一緒に講義も受けている。昨日もタローの家で3人仲良く過ごしていた。

話しているうちに教授も現れ、そのまま授業が始まる。前に座る林くんの周りの人たちも、それぞれ近い席に座った。




***




「なんで只野はあんなに目の敵にされてんの?」


タローからの問いに首を傾げる。すると、「えっ、自覚ない?!」と驚かれた。何を。


「林だって!目が合うと睨まれるし舌打ちされてるでしょ。」

「……ああ、まぁたしかに。」

「小学生の時からなんでしょ?」


麺を啜り終えたユーコがこちらを見た。「えっ小学生?幼馴染ってやつ?!」とタローが驚くが、「一応中高も一緒だけど幼馴染ではない。」と訂正しておく。誤解、よくない。


「…すげーな。その仲の悪さでこんなに進路が一緒なのも奇跡だわ。」

「たまたまでしょ。」

「……いやーわかんないよ?」

「おっどうしたユーコ。」

「なんでもなーい。」


わかんないとは何か。私とタローが首を傾げるが、ユーコはそのままラーメンを食べだしたので結局そのまま分からずじまいだった。こちらを見ている視線に、ユーコ以外気づかずに。


そのまま講義が終わりバイトもお終い。飲みの誘いを断って久しぶりに直帰をした。最近はタローの家に入り浸っていたから、家事が溜まっている。

アパートまで帰ると、家の前で立っている人影を見つけた。


「おせぇ。」

「……林くん、玄関先で待つのはやめてってば。」

「じゃあ鍵ちょうだい。」

「駄目。」


不服そうにこちらを睨みつけてくるのを背後で感じながら、扉を開けると体を滑り込ませてくる。もはや慣れた様子で荷物を置いて洗面所に向かう彼、林くん。

ソファの横には、今日の朝荒々しく置かれた黒いバックが置かれていた。


「手洗いソープ切れてたから補充しといた。」

「ありがとー。」


補充してもらったソープで手を洗い、そのままシャワーへ直行する。一回座ったら動けなくなるから、こういうのはすぐに済ませたほうがいいって学んだから。さっぱりして部屋へ向かうと、林くんはソファの上でスマホを触っていた。


「ようやく上がったか……はぁ。また髪の毛そのままにしてる。」

「だって長いから面倒くさい…。」

「こっち。」


ソファに座っている林くんの手にはドライヤーとブラシ。もはや定位置となってきた彼の足の間に座り、そのまま髪を乾かしてもらう。林くんの手は大きく、ぶっきらぼうな態度からは想像できないくらい優しい手つきについ眠気が生まれる。危ない危ない、まだ寝るわけにはいかない。瞼を擦ると、「こら。赤くなるぞ。」と咎められる。


ドライヤーを終えて片付ける林くんにお礼をいうと、「ん」と頷く。この人、手洗いソープのストックといいドライヤーといい、完全に我が家を把握している。


「……なぁ。」

「うん。」

「昨日って何してたの。」


昨日?普通に大学行ってバイトだけど……。

林くんは眉間に皺を寄せて、ますます不機嫌そうになる。


「ちげぇ。……今日、大学で話してたろ。小泉と。」

「タロー?……ああ、昨日の夜か。」


小泉はタローの苗字である。本名、小泉琥太郎。だからタロー。


「バイト終わりにそのままタローの家に行って、ゲームしてたんだよ。途中で寝ちゃったから、今日は家帰ってきてから支度して大学行った。」

「……はぁ?」


有り得ねえ、と顔を寄せられて思わず身を引く。だって近い。この人、パーソナルスペースどうなってるんだろう。林くんはそれが気に食わなかったようでさらに距離を詰めてくるから困った。


「…お前と小泉は男女だろ。一晩一緒にいるのは危ねぇ。もうこれからはやめろ。」

「いやユーコも一緒だったし……。それに林くんだっていつもここに入り浸るじゃん。」

「俺はいいの。とにかく、アイツがいても駄目。」


ギュッと抱きしめられて動けなくなる。林くんはわかった?と言うが、頷く訳にはいかないのだ。


「タローの家、ゲームいっぱいだから。」

「チッッ。」


もはや聞き慣れた舌打ちを聞きながら、腕の中から逃げ出して机の上のチョコレートに手を伸ばす。いまだにブツブツ言ってる林くんは、私に覆い被さるように抱き直した。ちなみにこのチョコレートは、林くんからのお土産。マカダミア入りで私好み。



不仲説の相手である林くんは2人だとよく喋るし抱きしめてくるし、我が家の物の場所を把握している。





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