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4 次の目的地は……

 黎明館(れいめいかん)の取材許可を取るべく砂場邸へ向かったところ、砂場重三(すなばじゅうぞう)の死体現場に出くわしてしまった。

惨劇の舞台となった館はもちろん事故物件である。常識的に考えて、余程のもの好きでなければ住む事は考えないだろう。事件から二十年以上たった現在、館はどうなっているのか。更地になっていてもおかしくはない。


 駅前の安ホテルでモーニングを食べた後、JR福知山線に乗り、篠山口(ささやまぐち)駅へ向かった。当時、黎明館の所有者は砂場重三だったはず。『ある囚人の独白』に書かれていた同窓会に会場を提供した事は、この事件に関与している証拠である。果たして深い関与か、浅い関与か。本人が死亡した今、事実を知るためには外回りの情報を固めていくしかない。


 黎明館の現在の所有者を改めて確認するため、最寄りの法務局を調べ問い合わせると、同じ路線で三十分ほど先の柏原(かいばら)駅近くに、神戸地方法務局柏原支局があった。不動産登記簿謄本(とうきぼとうほん)の予約を入れ、早速現地に向かった。


 法務局を出て、落ち着ける喫茶店を探した。街並みは整然としていて清潔感があったが、線路を挟んだ西側は、駅前とは一転して広々とした畑が広がっていた。町としては未だ発展途上といった雰囲気が漂っていた。

こぢんまりとした新しいがレトロ調の喫茶店を見つけ、コーヒーとハムサンドを注文した。人の良さそうなマスターを見送った後、早速登記簿謄本に目を通した。


【表題部】に黎明館の所在や土地の現況、地積が記載され、視線を下ろすと【権利部】に所有者の移転が記載されていた。

――――――――――――

 2 所有権移転 平成12年1月18日第719号

   原因 平成12年1月17日 売買

   所有者 兵庫県篠山市〇〇町〇〇〇〇

   (なか) 達夫(たつお) 

――――――――――――

 平成12年は西暦2000年。砂場秀樹(すなばひでき)が自殺する五か月前に、砂場重三から仲達夫という人物に所有者が変わっていた。

 住所はほぼ黎明館に隣接していて、恐らく仲達夫という人物は黎明館の管理者だった男ではないだろうか。『ある囚人の独白』では、管理者の男はすでに老人と記されていたが、現在も健在なのだろうか?


 ハムサンドにかぶりつき思考を巡らせた。黎明館を現地調査するためには、仲達夫との接触は避けられない。そうなると、もう後戻りはできない。黎明館事件の真犯人が今も健在だとすれば、寝た子を起こす厄介者の存在に気付くはずである。当然命の危険に(さら)されるかも知れない。それだけの覚悟が自分にあるだろうか。咀嚼(そしゃく)したハムサンドをコーヒーで流し込み、自問自答した。


「ごちそうさま」

足は自然と駅へと向かっていた。行先はもちろん黎明館である。

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