24 別の入り口
ひっそりと静まり返った廊下は、一歩踏み込むだけで砂埃が舞い、低い天井が圧迫感を増幅させていた。
「岸本さん、全ての部屋を確認しないとダメですかね?」
息が詰まりそうになりながら弱音を吐くと、振り返る素振りも見せず、岸本氏は言った。
「確認する事にあまり意味は無いな。わしは部屋がどんな様子だったのか、見たいだけさ」
岸本氏は【101】のドアを開けた。電灯をつけると、立山の記述通り小さなテーブルとシングルベッドがあった。挽き板の床は埃が積もっていて、岸本氏の歩いた後に靴の痕が残った。
「風呂はこっちだな」
洗面所へ向かうと、中折れの浴室ドアは既に開いていた。もちろん死体は無く、クリーニングされた面白味の無い、空の浴槽があるだけだった。
岸本氏はシャワーのハンドルを捻った。勢いよく水が噴き出したが、しばらく水は濁っていた。
ハンドルを戻したあと、岸本氏は煙草に火を着けて言った。
「嫌な予感がする。気を引き締めて行こう」
続いて向かいの【102】へ。抵抗なくドアが開き、電灯をつけて中に入った。
間取りは【101】とほぼ同じ。服部紹子がベッドでメッタ刺しにされていた部屋だ。
岸本氏は、立山の行動を再現するように、ベッドに近づき、掛け布団をめくった。
「三度目、だな」
そう呟き、掛け布団を捲り上げると、割烹着を着た白骨死体が横たわっていた。
「まさか? 日雇いの婆さん?」
驚きを通り越して、頭が混乱していた。
「一先ず写真だけ撮って、先を急ごう。何か胸騒ぎがする」
岸本氏は廊下の部屋を通り過ぎて、リビングへ繫がる奥のドアへ向かった。
十センチ四方のドアガラスは、部屋の向こうが暗闇である事を示していた。
岸本氏がドアノブに手を掛けたが、施錠されていて回らなかった。
「行き止まりですね。無理やり抉じ開けますか?」
鞄からドライバーを取り出すと、岸本氏はニヤリと笑って言った。
「さっき別の入り口を見つけた。誰が潜んでいるかわからないが、何か手掛かりが見つかるかも知れない」
岸本氏は足早に廊下を引き返し、ダイニングルームへ戻った。左手のドアノブを回し、体重を乗せた。
「ドアに蔦が絡まって開かない。手伝ってくれ」
岸本氏と一緒に、勢いをつけて何度か踏み込んで押すと、徐々にドアに隙間が空き、絡まった蔦が散り散りに千切れた。外に出ると、足元にウッドデッキが敷かれていた。板が所々腐っていて、体重を掛けないように素早く下りた。
岸本氏は年齢を感じさせない足取りでテラスを通り過ぎ、建物の裏に回った。目の前には焼却炉があり、扉の掛け金が外されていた。
扉を開けると、消し炭の向こうにリビングルームの床が見えた。焼却炉は、薪ストーブと煙突を共有していたのだ。




