22 黎明館
翌日、岸本氏とともに列車とバスを乗り継いで、黎明館へ向かった。
東風には犯罪まがいの取材や危険を伴う行為をさせる訳にはいかないので、編集部の内勤をする事になった。
「取材の目的が廃墟探索に変わって行くみたいで不本意なんですが、付き合わせてしまって申し訳ないです」
黎明館へ向かう砂利道を歩きながら、岸本氏に頭を下げた。
「運賃も日当も出してくれるんだから、文句は無いさ。それに現場で立山の行動を追体験する事で、何か気づく事があるかも知れない」
岸本氏は額の汗を拭って言った。
ペットボトルの天然水で舌を湿らせ、足を進めた。奥に行くほど徐々に森の深さは増し、日は遮られ、肌寒い空気が流れて来る。
視界が開け、整地された広場に建つ黎明館が目に入る。二階建ての古風な洋館で、人の来訪を拒否するかのように、建物全体が密集した蔦に縛り付けられているように見えた。
「まずは建物周辺を見てみるか?」
ツアーガイドを岸本氏に任せ、スマートフォンのカメラで撮影係を担当する事にした。
正面玄関のポーチは、枯れた蔦が薄茶色い絨毯のように敷き詰められ、ドアは蔦が覆い、封印されたように閉ざされていた。
蔦がねじ切れた跡が無かったので、ドアは長い間開かれていないのだろう。
玄関から館の東側を回って歩く。壁際の通路は、腰まで伸びた雑草が行く手の邪魔をした。
岸本氏は草を手足で踏み倒しながら先へ進んで行く。少し離れて周囲を警戒しながら撮影を続けた。
少し歩くと、左手に雨ざらしで風化したウッドデッキが見えた。ひっそりと置かれたテーブル・チェアセットも蔦の浸食を免れず、薄気味悪い空気を演出していた。
デッキの中央の壁にはドアがあった。位置関係から推測すると、ダイニングルームの東側、『ある囚人の独白』では最後まで開かなかったドアだ。
【101】【103】の小さい窓が見える壁際を抜けると、煉瓦敷きのテラスに辿り着いた。広さはウッドデッキの倍ほどの奥行きがあり、思わず二階のベランダに目が行く。
東原由夏は両手足を縛られたまま、あの高さからここへ突き落とされた。変色した煉瓦の汚れが血だまりの染みに見え、スマートフォンを持つ手が僅かに震えた。
このテラスは、薪ストーブがあるリビングルームに面していた。鋼鉄製のシャッターが下ろされていて、中の様子はわからなかった。
裏手に回ると深い山林が広がっていて、建物の中央には物置ほどの小さな焼却炉があった。
見上げると、蔦だらけの壁の天辺に四角い煉瓦造りの煙突が見えた。
岸本氏の後を追って、無言で館の西側に進んで行く。
【105】【104】【102】、外壁を順に確認しながら雑草を掻き分けて行くと、目の前に錆びついた鉄の、小さな扉が見えた。
「立山が脱出した厨房へ続く扉だ。南京錠の留め金が外れてる。中に入れそうだな」
岸本氏が振り向き、確認するように言った。




