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黎明館殺人事件  作者: シッポキャット


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31/45

●罠『ある囚人の独白』⑮

――――――――――――

 ●罠


 冷凍庫のドアを閉め、背を向けて(もた)()かった。私以外、全ての参加者が命を失った。

この同窓会に終わりは来るのか? 私はどうすればいい?

自問自答を繰り返しながら(あた)りを(うかが)った。

手頃な大きさの包丁を見つけ、武器になりそうな調理器具を鞄に放り込んだ。


 目を移すと、巨大なオーブンの陰に隠れて、金属製の扉が見えた。

鍵は掛かっていなかった。扉を開くと生温(なまあたたか)い夜風が吹き込んだ。

 ようやく密室から開放された。位置関係から推測すると、館の西側に出たようだ。地面は雑草が蔓延(はびこ)り、気を許すと足を取られる。周辺は鬱蒼とした森に囲まれ、不気味な虫の声が聞こえた。


 薄暗い外灯の光を頼りに、正面玄関へ足を進める。()()()の殺意を警戒し、前方に意識を集中させた。

 その直後、強い衝撃とともに私は意識を失ったのだ。


 気がつくと、ベッドに横たわっていた。

小さな窓から光が差していて、夜が明けている事がわかった。

 右手は包丁を握ったままだ。よく見ると、()の部分に赤黒い()みが付いていて、刃には血を拭きとったような跡があった。服に乱れは無く、昨日のままだった。

 上半身を上げ、周囲を観察した。間取りに見覚えがあり、廊下の客室だと思った。

鞄は床に投げ出されていた。


 立ち上がると、思わず息を止めたくなるような(にぶ)い痛みが後頭部に走る。昨夜、後ろから殴られ気を失い、ここに寝かされたという事だろうか?

 警戒しながら洗面所へ向かい、顔を洗った。疲労は限界に達しているようだ。昨日から何も食べていなかった。


 鞄を斜め掛けし、包丁を片手にそっと部屋を出た。

ドアを確認すると、【103】と表示されていた。

漠然(ばくぜん)と嫌な予感がした。()()()に生かされた理由を、朧気(おぼろげ)ながら気づき始めていた。


 ダイニングルームに向かい、水元(みずもと)の死体を確かめようとしたが、目にした瞬間に顔を(そむ)けた。

服毒(ふくどく)で死んだ水元の遺体が、仰向(あおむ)けのまま体をメッタ刺しにされ、床が血の海になっている。ナフキンは(はず)され、苦悶(くもん)の表情がむき出しになっていた。

 足に付いた血で滑りそうになりながら引き返し、【101】の浴室に向かった。

洲崎倫子(すざきりんこ)が背中を同様にメッタ刺しにされ、血で一杯になった浴槽に浮かんでいた。


 鞄の中に、見覚えのないアイスピックが入っていた。針の根本には血がべっとりと付いていた。【102】の服部紹子(はっとりしょうこ)は見るまでもなかった。

重い足取りで【104】のドアを開けた。


八木芳和(やぎよしかず)町田真衣(まちだまい)の二人は、化粧梁に吊るされたまま、全身を刃物で切り(きざ)まれていた。


 次々と目にする凄惨(せいさん)な光景に、精神が打ちのめされていく。

まるで、気を失っている間に、私が手を下したような錯覚に(おちい)っていた。


 私は残りの確認を放棄(ほうき)し、再びダイニングルームへ足を運んだ。

振り子時計は、午前六時十五分を指していた。

 設置されていたはずのスピーカーは消えていて、その下のドアを見ると、サムターン錠が付いていた。以前のドアノブは新しかったので、元の鍵に戻したのだろう。他の鍵も同様に、以前とは逆向き、つまり外から閉じ込めるドアでは無くなった事を意味していた。


 遠くからサイレンの音が聞こえ始め、徐々に音が大きくなり、そして止まった。

数台の車のドアが閉まる音が聞こえ、外でガヤガヤと騒いでいた。

 誰かがドンドンと乱暴にドアを叩き、そして叫んだ。

「武器を捨てて出てこい! 周りは包囲した」

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