●罠『ある囚人の独白』⑮
――――――――――――
●罠
冷凍庫のドアを閉め、背を向けて凭れ掛かった。私以外、全ての参加者が命を失った。
この同窓会に終わりは来るのか? 私はどうすればいい?
自問自答を繰り返しながら辺りを窺った。
手頃な大きさの包丁を見つけ、武器になりそうな調理器具を鞄に放り込んだ。
目を移すと、巨大なオーブンの陰に隠れて、金属製の扉が見えた。
鍵は掛かっていなかった。扉を開くと生温い夜風が吹き込んだ。
ようやく密室から開放された。位置関係から推測すると、館の西側に出たようだ。地面は雑草が蔓延り、気を許すと足を取られる。周辺は鬱蒼とした森に囲まれ、不気味な虫の声が聞こえた。
薄暗い外灯の光を頼りに、正面玄関へ足を進める。大親友の殺意を警戒し、前方に意識を集中させた。
その直後、強い衝撃とともに私は意識を失ったのだ。
気がつくと、ベッドに横たわっていた。
小さな窓から光が差していて、夜が明けている事がわかった。
右手は包丁を握ったままだ。よく見ると、柄の部分に赤黒い染みが付いていて、刃には血を拭きとったような跡があった。服に乱れは無く、昨日のままだった。
上半身を上げ、周囲を観察した。間取りに見覚えがあり、廊下の客室だと思った。
鞄は床に投げ出されていた。
立ち上がると、思わず息を止めたくなるような鈍い痛みが後頭部に走る。昨夜、後ろから殴られ気を失い、ここに寝かされたという事だろうか?
警戒しながら洗面所へ向かい、顔を洗った。疲労は限界に達しているようだ。昨日から何も食べていなかった。
鞄を斜め掛けし、包丁を片手にそっと部屋を出た。
ドアを確認すると、【103】と表示されていた。
漠然と嫌な予感がした。大親友に生かされた理由を、朧気ながら気づき始めていた。
ダイニングルームに向かい、水元の死体を確かめようとしたが、目にした瞬間に顔を背けた。
服毒で死んだ水元の遺体が、仰向けのまま体をメッタ刺しにされ、床が血の海になっている。ナフキンは外され、苦悶の表情がむき出しになっていた。
足に付いた血で滑りそうになりながら引き返し、【101】の浴室に向かった。
洲崎倫子が背中を同様にメッタ刺しにされ、血で一杯になった浴槽に浮かんでいた。
鞄の中に、見覚えのないアイスピックが入っていた。針の根本には血がべっとりと付いていた。【102】の服部紹子は見るまでもなかった。
重い足取りで【104】のドアを開けた。
八木芳和と町田真衣の二人は、化粧梁に吊るされたまま、全身を刃物で切り刻まれていた。
次々と目にする凄惨な光景に、精神が打ちのめされていく。
まるで、気を失っている間に、私が手を下したような錯覚に陥っていた。
私は残りの確認を放棄し、再びダイニングルームへ足を運んだ。
振り子時計は、午前六時十五分を指していた。
設置されていたはずのスピーカーは消えていて、その下のドアを見ると、サムターン錠が付いていた。以前のドアノブは新しかったので、元の鍵に戻したのだろう。他の鍵も同様に、以前とは逆向き、つまり外から閉じ込めるドアでは無くなった事を意味していた。
遠くからサイレンの音が聞こえ始め、徐々に音が大きくなり、そして止まった。
数台の車のドアが閉まる音が聞こえ、外でガヤガヤと騒いでいた。
誰かがドンドンと乱暴にドアを叩き、そして叫んだ。
「武器を捨てて出てこい! 周りは包囲した」
――――――――――――




