13 打ち合わせ
懐風書店で店員をしていた少女は、旅行鞄と大きく膨らんだレジ袋を下げてやって来た。
「おじさんが店番してくれないから、しばらく休業する事になったんですよ。まぁ新しいバイトが決まったから良かったんだけどさ」
少女は並べたトランプの上にレジ袋を置き、中からスナック菓子や缶コーヒーを取り出した。
呆気にとられ岸本氏を見ると、難儀な表情で言った。
「智子ちゃん。好奇心もほどほどにしないと、身を滅ぼすぞ。あんたの身に何かあったら、親御さんに顔向けできんからな」
「わたしは大丈夫です。ゼミの先生にも一週間は研修扱いで公欠を貰ってますので。それに元刑事のおじさんの側に居れば安心でしょ?」
少女は旅行鞄をコンコンと叩いて言った。
「ご両親の許可は取っているんだろうな?」
岸本氏は観念した表情でため息をついた。
少女の名前は東風智子。地元の大学の3年生で、懐風書店は祖父の道楽で営業しているとの事。儲ける意識が薄く、珍しい本の収集の場と化しているそうだ。
以前渡した編集部の名刺を見て、編集長に取材への参加を直談判していた。
「編集長が何を考えて採用したのかわからないけど、カバーの中の手紙を見つけた観察眼に期待してる。よろしく」
貰った缶コーヒーをコツンと合わせた。
東風の個人的空間を整えたあと、岸本氏を間に挟んでこたつ机を囲んだ。三人は付箋を貼ったトランプを眺めながら、改めて情報の共有を図った。
黎明館事件と三島孝史殺害事件の繋がりや砂場重三の死、仲達夫宅で見つかった白骨死体、福本郁実のトランプの発見など、パズルのピースは少しずつはまっていく。
しかし当時を知る関係者は、岸本氏を除けば身近な所で元担任の荒川ただ一人。果たして全体像を把握できるだけの情報を揃える事が出来るのか。
東風は得られた情報を測量野帳に小さな文字で記入していた。岸本氏は黒レザーの手帳を顔に当て、考え込んでいた。
「とにかく取材を前に進ませるには、元担任の荒川先生と接触する必要がありますね」
沈黙を破るように発言すると、東風がメモ書きの手を止めてこちらを見た。
「雑誌の取材、しかも触れられたくない過去を穿られるのに協力するかな?」
「門前払いは避けたい。岸本さんの言うように、反応を窺うだけでも収穫がありそうだから」
そう答えた後、思いついた案を二人に話した。
東風の学生の立場を利用し、研究テーマの一環として取材に協力してもらう。ある程度警戒心を取り払った上で、核心に迫る。その反応を窺う、といった手順だ。あわよくば荒川が協力的に、当時の事件について話してくれるかも知れない。
「君は編集部に就業体験している設定で。僕は取材の指導者として同行する」




