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黎明館殺人事件  作者: シッポキャット


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23/45

●砂場の報復『ある囚人の独白』⑫

――――――――――――

 動悸(どうき)(おさ)まらず浅い呼吸が続く。胸を押さえながら部屋をあとにした。

廊下の部屋は【103】を除いて全て確認した。開かない部屋を気に留めても仕方が無いので、突き当りのドアを開ける以外に選択肢は無かった。


 十センチ四方の小さなドアガラスから、暖色系の光が漏れていた。ドアに耳を当て気配を(さぐ)ったが、人がいる気配は無い。万一を考え、ナイフを手にしてドアノブを回した。カチリと静かな音が響き、ノブを手前に引いた。


 ドアを()けた瞬間、熱気が全身を(おお)った。部屋の奥にある(まき)ストーブが煌々(こうこう)と燃えていた。

 片目を(つむ)り周囲を警戒しながら近づいて行くと、後ろ手に縛られた男性が、薪ストーブに頭を()べていた。私は急いで(そば)にあった消化砂(しょうかすな)を浴びせた。

火は瞬く間に収まったが、熱気は(いま)(くすぶ)り続けていた。

 殺され方に大小は無いが、(むご)い殺しが続いた。加害者は報復を通り越して、殺しを楽しんでいるように思えた。


 被害者は恐らく岡林祐一(おかばやしゆういち)端正(たんせい)なマスクも、今となっては見る影も無かった。

 部屋は十畳ほどのリビングルームで、薪ストーブを囲むように布地のソファーが並んでいた。

本来なら来客者が(つど)って楽しい会話を交わす場所だが、()()()にその考えは無かったようだ。

 リビングルームは館の中央にあり、ダイニングと同様に窓が一つも無かったが、薪ストーブの煙は煙突を通って安全に排気されるようだ。

周囲を見渡すと、他にドアは見当たらなかった。しかし部屋の左隅に、隠れるように二階へと続く階段があった。


 この悪夢のような同窓会の幕を下ろすには、()()()目論見(もくろみ)に立ち向かうしか無いのだろうか? 諦めに似た感情を抱きながら、私は暗い階段に足を踏み出した。

 ミシリ、ミシリと(きし)む音が小さく響く。

階段は天井に吊るされた弱い白熱灯(はくねつとう)に照らされ、恐怖映画さながらの雰囲気をまとっていた。前のめりに重心をかけ、一段一段視界の先に集中しながら上った。


 階段を上りきると、二畳ほどの踊り場があり、左手にあるドアを()ける以外に進路は無い。

真鍮(しんちゅう)製のドアノブに手を掛けると、音も無くドアが()いた。ナイフを持つ手に力が入る。息を殺してゆっくりとドアを押すと、耳障(みみざわ)りな軋み音が小さく続いた。

 壁の燭台(しょくだい)に火が(とも)されていて、室内は薄暗い明かりが、ゆらゆらと揺らめいていた。

――――――――――――

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