●砂場の報復『ある囚人の独白』⑩
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●砂場の報復
大きく深呼吸をして、沸き立つ鼓動が鎮まるのを待った。もう一度背後を確認したあと、廊下の左右に並んだ部屋を、一つずつ確認する事にした。
まずは向かって右のドアから。目線の位置には【101】と表示されている。ドアレバーを下げると、抵抗なく開いた。半身になり右手にナイフを持って、ゆっくりとドアを開く。
部屋はワンルームで、室内を一望できた。雨戸が閉まっているのか、ガラス窓の向こうには茶褐色の板が張られている。電灯のスイッチを入れ、警戒しながら壁づたいに室内に入った。
部屋は挽き板の床に、小さなテーブルとシングルベッドが設置されていた。人が寝ている気配は無かったが、念のため掛け布団をめくった。嫌な予感は外れ、ため息を漏らす。
呼吸を整え、洗面所へと摺り足で進んだ。洗面台の向かいには、中折れ式の浴室ドアがあった。
半透明の樹脂パネルの向こうに、ぼんやりと人影が映っていた。息を呑んで数秒待ったが、人影はぴくりとも動かない。私は意を決して浴室のドアを開けた。
目一杯水が溜められた浴槽に、立膝をついて頭を沈めている人物がいた。後ろ手はビニールテープで雁字搦めに縛られている。長い髪は水面に広がり、ドアを開けた時の振動で、不気味に揺らめいていた。
現実離れした目の前の光景に、一瞬意識を失いそうになった。人が現実に殺されているのだ。あまりのショックに、ついさっき死んだ水元悟の事を忘れていたほどだ。
大きく息を吐き、冷静さと警戒を取り戻す。体形や服装から、死体は洲崎倫子と判断した。下手にいじると、私に容疑が掛かる恐れもある。手を合わせて足早に部屋を出た。
続いて向かいの【102】のドアレバーに手を掛けた。またもや抵抗なくドアが開く。
砂場の大親友は、報復の結果を私に確認させていくつもりなのだろうか? 一体何のために? それが砂場秀樹の遺言なのだろうか。
理由はどうあれ、加害者は人を殺める事に躊躇いが無い事を理解した。
息を潜めて部屋に入った。先程の部屋と同じ間取りだが、ガラス窓から月明かりが差している。窓の外には鉄の格子が嵌め込まれていた。
ベッドには女性ものと思われるパジャマが几帳面にたたまれていて、掛け布団には人が横たわっているような膨らみがあった。
部屋の状況から、先乗りした服部紹子に宛がわれた部屋だと思った。ボストンバッグの中を見ると、着替えや頭痛薬などがあったが、人物を特定する物は何も無い。
恐る恐る掛け布団をめくった。
目隠しと猿轡をされた女性が横たわっていて、口元から酒の臭いが漂って来る。さらに布団をめくると、先程と同じように後ろ手に縛られていて、胸から腹にかけて無数に刺された痕があった。アイスピックのような鋭いもので刺されたのか、血はじわじわと広がり、服や布団をゆっくりと、赤く染め続けていた。
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