8 宝探し
岸本氏のご相伴にあずかり、朝から愛車のアルトラパンで、立山紘一の住所に向かっていた。
岸本氏の調べによると、立山の死亡後、家は取り壊され駐車場になっているとの事。名義は奥さんに相続されていた。
拘留中に一度だけ面会したと手紙に記されてあったが、自宅の処遇も打ち合わせていたのだろうか。
「地面をアスファルトで舗装されていたら絶望的じゃないですか?」
ハンドルを握る岸本氏に問いかけると、窓の外に煙を吐いた後、赤信号になって停車した。
「逆に探しやすいんじゃないのか? アスファルト以外の所しか掘れないからな」
岸本氏はニヤリと笑った。
スマートフォンのナビを頼りに登録した住所に向かうと、こぢんまりとしたコインパーキングに到着した。最寄りの駅からは、かなり離れていて利便性は良くない。それを証明するかのように、六台分の駐車スペースには一台も駐車されていなかった。
駐車場の周りは道を挟んだ住宅地だったが、人通りは少なく、作業をするには好都合だった。
「見たところ、見事にアスファルトとコンクリートしか無いな」
岸本氏は周囲に目をやり、苦笑いを浮かべた。
「車止めの機械の設置とか、強度の面で仕方がないんでしょうね」
コンクリートとアスファルトの境目などから多少の雑草が生えていたが、もちろん掘れるような場所は見当たらなかった。
「奥さんは姿を消したとはいえ、旦那の意向を無下にするとは思えないんだがなぁ」
岸本氏は顎に手をやり眉間に皺を寄せた。
「ま、やるだけの事はやってみましょう。ここに嘗て立山夫婦の家があった訳ですから、何か記念碑的な場所があるかも知れませんよ」
車を駐車場に止め、敷地内の側溝や車止め周辺、料金精算機周りを一通り這いつくばるようにして確認していったが、隠し扉や掘り起こせそうな場所は見つからなかった。
「八方塞がりだな」
汗だくになった顔をタオルで拭きながら、岸本氏は言った。
「コインパーキングは宝探しに向いてませんね。宝を隠す前に隠し場所を作る必要がある。そうすると、すぐにバレますよね」
ごく当たり前の事を言うと、岸本氏は考え込んだ。
「この場所に埋めるのを諦めて、別の場所に隠した可能性もあるという事か。だとすれば、そのヒントがこの場所のどこかに隠されているはずだが」
ふと閃いて、岸本氏に言った。
「岸本さん、車を何番に止めましたか?」
「3番だが? 次の追加料金まで、まだ十分ほど余裕があるぞ」
3番のボタンを押し、四百円と料金が表示された。硬貨を入れると、車止めのバーが下がり、続いて領収証のランプが光った。
「来場者に確実にヒントを伝える方法がありますよ」
領収証のボタンを押すと、利用証明書と記されたレシートがゆっくりと出てきた。
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■■タテヤマ*パーキング■■
【利用証明書】
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入庫日時 R5年5月20日9時07分
精算日時 R5年5月20日9時53分
駐車料金 ¥400
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またのご利用お待ちしております。
*落とし物、忘れ物、お探しの物は
料金精算機上の拾得物入れに保管
してあります。
心当たりの方はお探しください。
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精算機の上を見ると、スーパーの買い物カゴが無造作に置いてあり、【忘れ物】と張り紙が張られていた。
「岸本さん、中に何か有りそうですよ」
はやる気持ちを抑えて、買い物カゴを下ろした。




