●手掛かり『ある囚人の独白』⑨
――――――――――――
残るは三人。東原由夏は気の強い性格で、男子と事あるごとに口喧嘩をしていた。その程度の記憶しか無い。鞄の中には着替えや日用品の他に目ぼしい物は無かった。
続いて福本郁実。彼女は学年一の秀才で有名だった。あの頃は興味のない事には非協力的で、冷たい印象だった。なぜこの同窓会に参加したのか気になるところだ。
鞄の中には着替えと日用品の他、ワインの染み込んだタオルが入っていた。飲んだ振りをしたのだろうか?
その他には、トランプや携帯用のオセロゲームが入っていた。
普段なら構わず見過ごしていたかも知れない。だが何か違和感のようなものを感じ、オセロゲームを広げた。駒に磁石が付いた何の変哲も無いものだった。
拍子抜けし、トランプをパッケージから取り出した。紙製のクラシックなものだ。両手でトランプを広げると、何枚かにネームペンで走り書きが書かれていた。
私は確認を後回しにし、トランプを箱に仕舞って服の内ポケットに入れた。
気持ちを落ち着かせ、洲崎倫子の鞄に取りかかる。出掛ける前に、卒業アルバムで顔と記憶を照らし合わせたが、何も思い浮かばなかった。影が薄かったのか、私の関心が無かったのか。
鞄の中身は着替えと日用品で、目ぼしい物は何も無かった。
全員の手荷物の確認が終わり、無理を承知で振り子時計下のドアノブに手を掛けた。待合室を経て、玄関に通じるドアだ。しかし希望は叶わず回らなかった。通常とは逆に、外側から解錠する仕様になっている。
まるで閉じ込めるために作られた監獄のように……。
監視されている可能性はあるが、忍び足で開けっ放しの中央ドアに向かった。鞄は動きやすいように斜め掛けにして、護身用のナイフをいつでも取り出せるようにした。
廊下は人がすれ違うぎりぎりの幅で、左右に三つずつ、六つのドアが並んでいた。一番奥の右側のドアは開けっ放しにしておいた、私が閉じ込められていた部屋だ。
突き当りにもドアがあり、小さなドアガラスから光が漏れていて、廊下を薄暗く照らしていた。
不気味な静寂が廊下を包み込んでいた。同窓会の参加者たちは無事なのだろうか。
意識があれば、大声で助けを求める者もいるはず。まだ眠っているのか、猿轡をされているのか、あるいは……。嫌な妄想が頭を過った。
私は次にどう動くか迷っていた。頭の中で、砂場の遺影が嘲笑うかのように歪んだ。
――――――――――――




