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黎明館殺人事件  作者: シッポキャット


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●手掛かり『ある囚人の独白』⑧

――――――――――――

●手掛かり


 私は座っていた席に戻り、(かご)の荷物を確認した。外された腕時計やポケットの中の物は、背負って来た(かばん)の上に投げ出されるように置かれていた。携帯電話は見当たらなかった。鞄の中身を確かめると、物色された跡はあったものの他に奪われた物は無いようだ。

ドアの鍵が()いていたという事は、何らかの準備が(ととの)い、泳がされているのだろう。

()()()は、私に何をさせようとしているのだろうか。


 証拠隠滅(しょうこいんめつ)のためかテーブルの料理はすべて回収され、別のクロスが敷かれていた。ドアを確認すると、相変わらず中央以外のノブは回らなかった。


 私は()()()の監視を意識から外し、何をすべきか考え結論を出した。

他の参加者がいない今、手荷物に敵味方を判断するような手掛かりが隠されているかも知れない。

一人ずつ確認する事にした。

この状況下では犯罪も(くそ)もない。ただ、女性の持ち物を物色するのは多少後ろめたいものがあったので、岡林の荷物から始める事にした。


 高校時代の記憶を手繰(たぐ)り寄せると、岡林祐一(おかばやしゆういち)は俗に言うイケメンで、クラスでも人気のある生徒だった。砂場と(から)んでいる場面は記憶に無かったが、一方的な羨望(せんぼう)嫉妬(しっと)を買っているかも知れない。

荷物には着替えや貴重品の(たぐい)はあったが、他に目ぼしい物は無かった。


 次は八木芳和(やぎよしかず)だ。八木の記憶はあまりない。あの頃、同級生の中で一番幼く感じていたくらいだった。荷物を探ると、岡林と同じく目ぼしいものは無かった。

他人の私物を物色している自分に空恐(そらおそ)ろしいものを感じたが、周囲を警戒しながら次に進んだ。


 服部紹子(はっとりしょうこ)。彼女は少しだけ記憶に残っている。女子には珍しく徒党(ととう)を組まず孤高(ここう)を貫いていたのが印象的だった。先程の二人と違って、バッグ自体が小さい。中身は化粧品やハンカチなど、日用品だけだった。

先に来た三人は一度別の部屋に通され、他の荷物はそこにあるのかも知れない。他に目ぼしい物も無かったので、町田真衣(まちだまい)の鞄を開けた。


 彼女の記憶も曖昧(あいまい)だ。大人しく控えめな印象で、(はず)れた事をしないごく普通の人だった気がする。砂場の復讐を受けるような人物には思えなかったが。

 鞄の中身は他の面々と同じく着替えと一般的な物が入っていた。同じような鞄の中身に、意味の無さを感じ始めたが、次の中塚尚樹(なかつかなおき)の席へ進んだ。


 中塚ははっきり言って不真面目で、教師に反抗的な生徒だった。私は関わっても(ろく)な事は無いと思い避けていた。砂場もひょっとしたら当時、とばっちりを受けていたかも知れない。籠に荷物は無かった。水元や服部と同じく先に到着していたメンバーなので、別の場所に荷物を置いているのだろう。


 服部と中塚は警戒のレベルを上げておくべきだと思った。

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