7 次の一手
時刻は午後十時を回ったところだ。岸本氏から頼まれていた並盛の牛丼を平らげた後、しばしの雑談を挟んで向かい合っていた。
「率直に聞きますが、岸本さんは現時点で真犯人の目星はついていますか?」
『ある囚人の独白』を机の上に置き、煙草をふかし始めた元刑事に尋ねた。
「この本に書かれている話が真実だとすると、かなり絞られるな」
岸本氏は缶コーヒーで喉を潤したあと、ゆっくりとした口調で言った。
「砂場秀樹と強い結びつきがあり、殺された全ての人間と近い人物と言えば……」
岸本氏と目を合わせると、ゆっくりと頷いた。
「とにかく全てが全て仮定の話だから始末が悪い。『ある囚人の独白』では、砂場の親子関係は破綻しているように描かれているが、親子が共謀して、仲が悪い演技をしていたとしたら。更に担任の荒川は、転勤してからも砂場の家庭訪問を続けていたという。もし砂場秀樹と強固な結びつきがあったとしたら、荒川が大親友という線もあり得るわけだ」
岸本氏は渋い顔で煙を吐き、話を続けた。
「状況的には担任の荒川が有力だが、動機が不明。我が子の復讐を、と考えれば砂場夫妻も外せない」
「担任の荒川先生は、今はどうしているんでしょう?」
尋ねると、岸本氏は老眼鏡をかけ、黒レザーの手帳をパラパラとめくった。
「事件当時は四十一歳。二十三年経った現在は六十四歳だ。定年後も時間講師として県内の高校で教鞭を取っている」
「砂場の母親は黎明館の事件後に蒸発したと聞きましたが、岸本さんに情報はありませんかね?」
「さすがに無いな。雲をつかむような話だ」
岸本氏は白い煙を上に向かって吐いた。
「あと、この事件に関りがあるのは立山紘一の奥さんですが、この方も行方不明なんですよねぇ?」
ため息をついて腕を組むと、岸本氏はもう一度煙を上向きに吐いた後、煙草を揉み消した。
「危険を冒すかも知れないが、行ってみるか? 立山の住所に」
「勇気がありますね。でもどこに何があるかわからないのに探しに行くんですか?」
岸本氏の提案をある程度予想はしていたが、闇雲に探すのもどうかと思った。
「立山は手紙の中で、奥さんの生死にも言及している。亡くなった場合の事もきっと考慮しているはずだ。現場に行けば何か手掛かりになるような目印があるかも知れない」
岸本氏は残りの缶コーヒーを一気に飲み干した。




