●水元悟の死『ある囚人の独白』⑥
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●水元悟の死
「誰か、救急車を!」
突然テーブルに突っ伏した水元を前に、参加者たちが立ち上がった。
私は向かいに座っていた岡林に頼み、水元を床に寝かせた。脈を確認すると、徐々に弱まっているようだ。
「ダメ! 圏外で繋がらないわ!」
女性の誰かが叫んでいた。
「外に出れば繋がるはずだ。誰か通報してくれ。それと警察もな!」
心臓マッサージを始めた岡林が、誰に言うでもなく叫んだ。水元は白目をむき、呼吸をしていなかった。
「ドアが開かないわ! どういう事?!」
ダイニングルームには四つのドアがあったが、いずれも外から施錠されていた。
私たちは連絡手段を絶たれ、窓一つ無い密室に閉じ込められたのである。
「一体どういう事なんだよ!」
背の低い八木が長身の中塚の胸倉をつかみ問い質した。中塚は落ち着いた表情で八木の手を下ろした。
「落ち着けよ。俺も水元に頼まれて進行役をやっているだけだ。訳が分からないのは同じだよ」
中塚の言葉を聞き、部屋全体に重苦しい空気が流れていた。
「ダメだな、服毒っぽいが」
岡林が大きく息を吐いて私を見つめた。
壁に掛けられていた振り子時計が午後一時半を指し、ボーンと鈍い鐘の音を鳴らした。
参加者たちは不意の時報に驚き、振り子時計に目を向けた。それを待ち構えていたかのように、時計の上に設置されたスピーカーから男の声が流れてきたのだ。
【こんにちは、皆さん。黎明館へようこそ。計画通りなら、幹事の水元悟はもう死んでいるのかな? 予定ではクラスメートが十人揃っているはず。集まっているかなぁ?】
能天気な口調で話す声とは対照的に、参加者たちは息を吞んで静かに耳を傾けていた。
【管理者の爺さんと日雇いの婆さんには、仕事が済んだら一週間はここに近づかないように言っておいたから、助けは来ないのであしからず。あとは僕の大親友がいろいろと復讐のイベントを企画しているみたいだ。死にたくなかったら、指示に従う事だね。それまではゆっくりと寛いでいてね。ではでは皆さんの健闘を祈って、カンパーイ!】
まだ何か流れてくるのではないかと参加者一同はしばらくじっとしていたが、東原由夏が口火を切った。
「今の声は一体誰? 復讐ってどういう事? 意味わかんない!」
放送の声は、恐らく砂場秀樹の録音だろう。若い頃の声色と印象は違うが、言葉の癖や抑揚の無さに聞き覚えがあった。参加者の面々を見渡すと、冷静に状況を分析している者もいれば、ただ怯えている者、ワインを飲み過ぎて寝ている者などまちまちだった。
とうとう砂場の大親友が動き始めた。愉悦するような、得体の知れない悪意を感じた。
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