6 二度目の通報
仲達夫の自宅で発見した白骨死体は一体誰なのか。順当に考えると仲達夫本人なのだろうが、思い込みは禁物である。警察へ通報する前に、まずは元刑事の岸本氏に連絡を入れた。
「そうか。またもや第一発見者になっちまったな」
岸本氏はため息をついて言った。
「二度目となると、警察にも詳しい事情を聞かれますかね?」
「仕方がないな。警察には『ある囚人の独白』の事を伏せておいて、わしの話が出発点で取材を始めた事にするか?」
岸本氏は警察の揉み消しの恐れを感じているのだろう。三島の事件は未解決だが、黎明館の事件は既に解決済みだ。真犯人が見つかれば警察の信頼の失墜につながる。
「その方向で編集長と話を進めます。警察に通報する前に何かすべき事はありますかね?」
時計を見ると、正午を回っていた。
「ま、下手に現場をいじらないほうがいいな。今は便利な時代になったから、撮れるだけ写真は撮っておいたほうがいい。クラウドに保存してから消す事だな。後でスマホを警察に確認されるかも知れない」
前回は砂場重三の死体に動揺して、冷静さを失っていた。記録と情報は多いほうがいい。惑わされないように精査する必要はあるが。
岸本氏の助言を受け、複数の写真を撮った後、編集長に連絡を入れた。
「ますます動きにくくなりそうだが、そちらに応援を出す余裕はない。これからどうするつもりだ?」
編集長は電話越しに慌ただしい口調で言った。
「岸本氏と情報を共有しようかと。元刑事ですから、話せる範囲は限られているでしょうが、被害者やその周辺の情報を詳しく知っていると思います。それで構いませんか?」
編集長の了承を得た後、警察に通報した。混乱を招かないよう、砂場重三の死体現場を担当した刑事に連絡し、『ある囚人の独白』の存在を伏せて事情を説明した。
担当刑事は岸本氏の話を聞いて、余計な事をしてくれたもんだと言いたげな態度だった。
現場検証が終わり、場所を変えて事情聴取が終わると、日が暮れかけていた。
黎明館事件に近い二人の人物の死体が立て続けに発見された。間違いなく取材を始めた結果、発見が早まったと考えてよいだろう。二人の死因が病死か他殺かわからないが、再び緩やかに事件は動き出した。その歯車の一つに自分は組み込まれている。もはや後戻りはできないのだ。
不思議と暑さや疲労は感じなかった。二人分の夜食を買い込んだ後、岸本氏の住む市営団地へ向かった。




