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あの日食べた塩大福の味

作者: サクラブ

 4月

 ここが歴史研究同好会の部室。私は部室のドアをノックして入った。

「 失礼します。」

 ここは部室なのか?体育祭の旗や文化祭のアーチなど行事のものがたくさんあった。どう見ても物置部屋でしょ。長机のところにパイプ椅子に座った男子生徒がいた。

「 君は?」

 男子生徒は目線を本から私に向けた。男子生徒は眼鏡をかけ、きっちりとネクタイを結んでいた。

「 1年C組塩谷 光[しおのや ひかり]です。今日、歴史研究同好会に入部しました。」

 私は男子生徒に自己紹介をした。男子生徒はパイプ椅子から立ち上がり、私に近づいた。

「 新入部員か。僕は歴史研究同好会の会長と言っても一人しかいないけど。2年A組佐藤 門音[さとう かどね]。」

 佐藤先輩はにこりと笑わず、真顔で自己紹介した。

 それが私達の初めての出会いだった。


 2週間後

 歴史研究同好会の活動は基本的に、図書室の歴史の資料などを読み漁る。学んだことをノートに記録する。佐藤先輩は学校の図書室の歴史関係は全部読んだことがあり、図書館から借りているそうだ。

 私が佐藤先輩について知っていることはあまりにも少ない。いつも真顔。歴史の説明と同好会の連絡しか喋らない。それ以外は適当な相づち。身長は運動部の男子よりは低く、女子よりは高い。歴史、特に世界史が得意。

 良く言えば、ミステリアス。悪く言えば、コミュニケーション能力が低い。

「 塩谷さん。」

 佐藤先輩が声をかけてきた。部活中、私が分からないところを聞くときに佐藤先輩に声をかける。部活中に佐藤先輩から声をかけられることは今までなかった。

「 なんですか。」

 顔を長机の反対側でパイプ椅子に座る佐藤先輩に向けた。

「 今週の土曜日って空いてる?」

「 …。」

 今週の土曜日どころか、私のスケジュール帳に書かれている休日は全部空白だ。だが、休日予定無しの可哀想な女に見られたくないので考えるふりをした。本当に休日は何もない。悲しすぎる。

「 その日は空いてますよ。」

 まるで他は空いてないみたいな口ぶりで言った。

「 その日に学校の周辺を巡らない?学校周辺の街の歴史調査を目的とした活動。」

 佐藤先輩は表情を変えず、いつもどおりのクールな顔で言った。

 たしかに私は電車登校で学校周辺の街をよく知らない。いつもは資料を読むけどたまには外に出かけるのはいいな。

「 はい。行きます。」


 土曜日

 待ち合わせ時間は午前9時半と事前に決めてあった。私は9時15分に待ち合わせ場所についた。待ち合わせ場所には佐藤先輩が私よりも前にいた。

 佐藤先輩は学校のブレザーの制服ではなく私服で来ていた。事前に制服ではなく私服と決めてあったから当たり前ではある。心の中では佐藤先輩のださい姿を期待していたが、現実の先輩はおしゃれだった。大学生に見える。

「 佐藤先輩、遅れました。」

「 予定より早いな。」

 佐藤先輩は私に気づいて、読んでいた本を閉じた。

「 佐藤先輩だって早いじゃないですか。」

「 いや、図書館で本借りたかったから。塩谷さんに約束をすっぽかされたら、このまま古本屋巡りをしようと思ったんだけど。」

 冗談だよね。私が約束をすっぽかすと思っていたこと。古本屋巡りをしようとしていたこと。まさか本気じゃないよね。

 待てよ。私が部活に入部するまで一人だったってことは一人の方がいい。私が邪魔な存在だと…。

「 佐藤先輩って私のこともしかしてきら…っていない。」

 佐藤先輩は待ち合わせ場所から離れ、先に歩いていった。私は佐藤先輩の後を追いかけた。

 佐藤先輩といろんなところを通った。私の学校の周りのはずなのに、知らないところが多かった。大層なものではないが歴史の跡地もあった。

「 佐藤先輩。」

「 なんだ。」

「 お腹すきました。」

 発見があって楽しいがお腹は満たされない。もう12時半をすぎている。お昼ごはん食べないまま午後も歩くのはきつい。

「 そうだな。どこで食べる?」

「 そういえば、友達のもえちゃんが美味しくてかわいいイートインのケーキ屋さん紹介してくれたな。」

 見間違えだろうか。佐藤先輩の耳が一瞬ぴくってなった気がする。

「 塩谷さんはケーキのお店に興味があるんだな。」

 佐藤先輩は眼鏡をくいっと上げて、私に言った。興味?

「 いや、思い出しただけで。」

「 僕は1ミリもケーキに興味ないけど、昼ご飯を食べるなら美味しいところがいいからな。」

 佐藤先輩は早口で言った。

「 いや、おいしいお店なら口コミサイトとかで調べれば。」

「 口コミサイトは信用ならないからな。塩谷さんのご友人のお墨付きのお店に行ったほうがいいだろう。」

 佐藤先輩はまた早口で言った。珍しく結構喋るな。

「 お昼にケーキって。」

「 塩谷さんは空腹で倒れそうなのだろ。それならお店を選んでいる暇はない。」

 そんな大げさには言っていないが。というかうざったらしい。

「 いや、倒れないですから。それに佐藤先輩はケーキに1ミリも興味ないんですよね。」

「 ああ。女性は興味あるんだろうが、僕は興味ないね。」

「 佐藤先輩が私に気を使わなくてもいいですよ。先輩が食べたいところに行きましょう。私もケーキに興味ないですし。」

「 …。」

 私はファーストフード店を探そうと歩き始めた。そのとき私の右腕を掴まれた。振り返ると、佐藤先輩が私の右腕を掴んでいた。

「 嘘です。」

 佐藤先輩は顔を地面に向けていて、表情は見えない。

「 はい?」

「 メッチャクチャケーキに興味があります。」

 佐藤先輩は地面から私を向いて言った。今まで私は佐藤先輩のポーカーフェイスしか見たことがなかった。

 でも今の先輩の顔はキラキラした顔だった。

「 だから一緒にケーキ屋さんに行ってください。」

 私の腕は佐藤先輩に強く握りしめられた。


 ケーキ屋さん

 店内は女性客が多かった。

 「 お待たせしました。苺のショートケーキとチーズケーキです。」

 店員さんがケーキを運んでくれた。苺のショートケーキが佐藤先輩でチーズケーキが私。

「 おおー。かわいい。」

 運ばれてきたケーキはとてもかわいらしいものだった。

 私は目線をケーキから佐藤先輩に向けた。佐藤先輩はキラキラした目でケーキを見ていた。私の視線に気づくと佐藤先輩はいつものポーカーフェイスになった。佐藤先輩は眼鏡をくいっと上げて言った。

「 ここのケーキの味に興味があるのであって、ケーキが好きってことではないからな。はむ。う〜ん。」

 佐藤先輩は苺のショートケーキを一口食べた。とてもかわいらしい声を出していた。

「 ケーキが好きなこと隠しきれていませんよ。」

「 うっ。」

 どうして隠せていると思ったのだろう。

「 なんでケーキが好きなこと隠すんですか。」

「 僕はショートケーキが1番好きだ。男性がケーキが好きっておかしいだろ。」

 佐藤先輩は目をそらして言った。

「 男女差別です。全世界の人に謝って下さい。」

「 全世界!酷い。今までこういうスイーツ店は一人で入ったことないんだ。」

「 佐藤先輩は世間体を気にする小さい人なんですね。」

「 ちょくちょく思うが先輩に対して言葉が酷いよ。」

 佐藤先輩は私に突っ込んだ。

「 じゃあ、これからは休日活動するときスイーツ店で食べましょ。」


 私達は休日に歴史の跡地とスイーツ店を巡るようになった。

「 クレープ屋行きませんか?」

「 僕は興味ないけど、君がどうしてもというなら。」

「 じゃあ他のところにしますか。」

「 すいません。僕が悪かったです。」

 私が提案をする。佐藤先輩がいろいろ言う。私が変えようとすると佐藤先輩が折れる。こんなやり取りを毎回やった。


3月 春休み

 私は部室で部活動を記録したノートを見ていた。懐かしい。休日活動の記録がノートの大半を占めている。もうすぐ進級する。私が2年で佐藤先輩が3年になる。

「 やぁ、塩谷さん。」

 20分前に部室を出た佐藤先輩がバックを持って、戻ってきた。

「 佐藤先輩。どこ行ってたんですか。」

「 お腹空いてきたんじゃないか。」

 時計を見るとおやつの3時になっていた。午前9時からずっと部室で資料を読んでいたから気づかなかった。

「 はい。」

「 塩大福食べないか?」

 佐藤先輩はバックから塩大福4個入りのパックを取り出した。

「 塩大福。佐藤先輩が選ぶなんて意外です。」

「 どういう意味だ。」

「 佐藤先輩はかわいらしいお菓子が好きだから、塩大福のような地味なものは食べないかと。」

 今まで、佐藤先輩とはかわいいスイーツを食べていった。和菓子を食べるとしても、見た目がかわいいものかと思っていた。

「 僕は塩大福も好きだよ。塩が入っているからちょうどいい甘さだから。それと…。」

 佐藤先輩は黙った。

「 それと?」

「 塩大福って塩谷さんに似ている気がするから。」

「 どこがですか。名前から連想したでしょ。」

 塩が名前に入っているからでしょ。

「 怒らないで。塩大福美味しいでしょ?」

 私は塩大福を口に入れた。

「 たしかに美味しい。」

「 でしょ!」

 佐藤先輩は私の味の感想に満面の笑みを向けた。私は一瞬何かがドキッとした。私はときどき塩大福を食べるようになった。


 4月

 私は2年生になった。歴史研究同好会に新入部員は来なかった。残念なはずなのになぜか嬉しかった。

 私は部室を向かおうとすると、話し声が聞こえた。声の主は佐藤先輩とゆるふわウェーブの髪の女子生徒だった。

「 佐藤さんって、スイーツ好きなんですか。」

「 うん。変か?」

 ゆるふわウェーブの髪の女子生徒は「ふふふっ。」と微笑んだ。

「 いいえ。スイーツの中で何が1番好きなんですか。」

「 苺のショートケーキ。白鳥さんは?」

「 私も苺のショートケーキです。見た目や味もそうですけど名前にいちごが入っているので。気が合いますね。」

「 そうだな。」

 私以外の人にはポーカーフェイスの佐藤先輩が笑っていた。スイーツ好きもショートケーキが1番好きなのも、私だけが知ってたのに。

「 部活だからじゃあ。」 

「 はい。」

 二人は別れた。佐藤先輩が私に気づいた。

「 塩谷さんいたのか。」

「 佐藤先輩、さっき喋っていた人は誰ですか?」

「 白鳥 いちご[しらとり いちご]さん。今年の4月からこの学校に転入してきたんだ。」

「 転入してきた割には仲が良さげに見えましたよ。」

「 クラスメイトだから校内を案内していたんだけど。なぜか気が合うんだよね。」

 白鳥先輩の話をする佐藤先輩はスイーツを食べるときのキラキラとした顔をしていた。私はそんな佐藤先輩にムカッとした。


 10月

「 今日で3年生は部活引退ですね。佐藤先輩がいなくなるってことは私は部室を広く占拠できますね。」

「 …。」

 佐藤先輩は私の言葉に相づちすら打たず黙っていた。

「 引退のお祝いとしてケーキ食べません?先輩?」

「 …。」

 佐藤先輩は本を読んでおらず、ぼっーとしてる。

「 佐藤先輩。佐藤先輩。」

 私は佐藤先輩の肩を揺らした。

「 うわ〜。いきなりどうしたんだい。塩谷さん。」

 強く揺らしてやっと佐藤先輩は気づいた。

「 それは佐藤先輩の方です。さっきから佐藤先輩に話しかけているのにぼっーとしてましたよ。どうしました?」

 佐藤先輩は眼鏡をくいっと上げた。

「 なんでもない。大丈夫だ。」

 佐藤先輩の顔は初めて会ったときのポーカーフェイスではなく、あきらかに大丈夫ではなさそうだった。

「 もしかして、例の白鳥先輩ですか?」

「 ゴホゴホ。なぜそう思った。」

 うん。あからさますぎる。というか声も感情的になってるし。

「 信頼して下さい。私達は一緒にいろんなところを巡った仲でしょ。佐藤先輩の引退ということで相談のりますよ。」

「 じゃあ。お願いする。」

 チョロ。この人チョロすぎる。まんまと私の言葉に騙されて。

「 白鳥さんが僕の知らない男子生徒と話していると、もやもやするんだ。」

「 嫉妬でしょ。」

「 嫉妬?なぜ嫉妬しなければいけないんだ?」

 佐藤先輩は目を丸くして私に問いかけた。

 嘘でしょ。もしかしてこの人は白鳥先輩への恋を自覚してない。もう半年以上経ってるよ。

「 佐藤先輩。はっきり言います。あなたは白鳥先輩に恋してるんです。」

「 ……。」

 佐藤先輩は一分間黙った。その後、佐藤先輩は眼鏡をくいっと上げて、パイプ椅子から立ち上がった。

「 そそそそそんなわけないだろ。何言ってるんだ。君は。」

「 めっちゃ動揺してますけど。」

 佐藤先輩は私に指摘され、パイプ椅子に座った。佐藤先輩はさっきの慌てぶりと打って変わって落ち着いた表情を見せた。

「 僕は白鳥さんは人間的に素晴らしいと思う。でも恋愛感情は抱いていなくてね。」

 あいかわらずめんどくさいお人だ。

「 あの今まで言わなかったですけど、嘘を言うとき必ず眼鏡をくいっと上げますよね。佐藤先輩。」

「 僕を動揺させるために嘘は「 嘘じゃない。」

「 えっ。」

 私は先輩の言葉を遮った。

「 佐藤先輩とともにした時間は短いかもしれないけど、私は佐藤先輩については誰よりも理解しているつもりです。」

 私の嘘偽りない本心だった。私の言葉に佐藤先輩は驚いた表情を見せた。

「 でも白鳥さんのことを考えてしまうだけで。」

「 ずっとでしょ。いい加減認めて下さい。」

 私は佐藤先輩にはっきり言った。

「 僕は白鳥さんに恋愛感情を抱いている。」

 佐藤先輩はみるみると顔が赤くなっていった。佐藤先輩は顔を手で覆った。

「 僕の顔見ないでくれる!」

「 分かりました。」

 佐藤先輩は声が裏返って言った。佐藤先輩の顔は今まで見たことないぐらい顔が真っ赤だった。顔から耳まで赤くなっていた。とてもかわいらしい顔だった。

 私は笑いが抑えきれず、笑った。

「 っぷ。ハハハ。」

「 笑うな!」

 佐藤先輩の顔は下を向いて、両腕で隠されてしまった。

「 塩谷さん。僕はどうしたらいいんだ。」

 佐藤先輩は顔を下に向けながら、聞いてきた。

「 佐藤先輩は白鳥先輩とどういう関係になりたいんですか。」

「 僕は今まで通りの関係で。」

 この期に及んでヘタレ発言してる。

「 卒業したら離れ離れですけど。」

「 うっ。」

 私は両手で先輩の顔を私に向かせるように上げた。

「 今から告白して付きあちゃったらいいんですよ。」 

「 今!今は受験勉強だろ。もっと後ででも。」

「 そう言ってたら他の人に取られますよ。歴史の偉人だって時には思い切った行動をしてますよ。」

 佐藤先輩は目をそらした。

「 でも振られたら。」

「 今から振られることを考えないで下さい。振られたら、私が慰めてあげますよ。」

「 慰めるって。」

 佐藤先輩を無理やり部室から出して、佐藤先輩の教室に連れていった。教室には白鳥先輩しかいなかった。

「 ほら白鳥先輩しかいません。チャンスですよ。」

「 え、本当に今から告白するの!心の準備が。」

 佐藤先輩は驚いた声を出した。

「 ごちゃごちゃ言ってないで告白して下さい。善は急げです。私は部室に戻りますよ。」

 私は佐藤先輩を置いて、部室へ戻った。

 15分後

 私のスマホに電話がかかってきた。相手は佐藤先輩だった。

「 もしもし塩谷です。」

「 …。」

 反応が来ない。

「 もしかしてまだ告白してないんですか。はぁあのですね。」

「 OKだってさ。」

 佐藤先輩は短い言葉のあとに息を吸って言った。

「 塩谷さんのおかげで付き合うことになった。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。」

「 大げさですよ。」

「 君には感謝しかない。君が相談してくれなかったら。君が背中を押してくれなかったら。僕はずっとこのあぶれる幸福感を知らなかった。思えばずっと君が支えてくれた。本当にありがとう。」

 佐藤先輩は私に感謝の言葉をずっと言ってくれた。

「 佐藤先輩、白鳥先輩と一緒にいるんですか。」

「 ああ。」

「 なら一緒に帰ったらどうです。今は外が暗いですからね。彼女を家まで送ってあげて下さい。」

「 …。そうだな。わかった。」

 そろそろ電話切らないと。彼女の白鳥先輩を待たせてしまう。

「 そろそろ電話切りますよ。」

「 あ、待って。本当に今までありがとう。」

「 分かりましたから。じゃあ。」

 私は電話を切った。私は部室を見回した。初めてきたときと変わっていない。

「 明日から一人か。」

 でも部室がいつもより寂しく感じた。

 私は和菓子屋の塩大福を帰りに買った。私は自室で塩大福を食べた。

「 しょっぱい。しょっぱすぎる。」

 塩大福の味がしょっぱいと思った。

「 なにこの塩大福。あれっ。」

 しょっぱかったのは塩大福の味ではなかった。私の涙の味だった。涙はボロボロと塩大福に落ちていった。

「 どうして止まんないの?」

 涙は止まるどころかどんどんあふれていく。私は涙の理由を考えた。ある答えにいきついた。

「 そっか。私、好きだったんだ。佐藤先輩のこと。」 

 今さらすぎる。私の方が鈍感だ。なんで自分の想い気づかなかったんだろう。もっと早く気づいていれば。

 いや、気づかないままのほうが良かった。なんで気づいちゃったんだろう。

 なんで佐藤先輩の恋を応援しちゃったんだろう。

 私が気づけなかった 佐藤先輩への想い

 私が言えなかった 佐藤先輩への愛

 私が呼べなかった 佐藤先輩の名前

 私が誘えなかった 佐藤先輩とのデート

 私が繋げなかった 佐藤先輩の手

 白鳥先輩は私ができなかったことを佐藤先輩とこれからやっていくのだろう。

 白鳥先輩、私よりかわいかったな。私が塩大福で白鳥先輩はショートケーキ。私も白鳥先輩のようにかわいかったら。

 分かっている。佐藤先輩は白鳥先輩の見た目じゃなくて中身が好きになったんだと。

 私も白鳥先輩みたいに素直だったら。

 分かっている。白鳥先輩のせいでも佐藤先輩のせいでもない。私のせいだ。

「 うわぁーーー。」

 私は大粒の涙を流しながら、しょっぱくなった塩大福を食べた。


 3月 卒業式

 今日は先輩達の卒業式だ。空は快晴だ。卒業生や在校生が校庭や校門前にたくさんいる。

「 塩谷さん。」

 後ろから声をかけられた。振り向くと佐藤先輩がいた。

「 佐藤先輩、ご卒業おめでとうございます。」

「 うん。いちご、こちらが僕の後輩。」

 佐藤先輩は明るい声で誰かを呼んだ。佐藤先輩に「いちご」と呼ばれた人物は佐藤先輩の後ろからひょっこりと出てきた。ゆるふわウェーブの髪にスタイルがいい。白鳥先輩だった。

「 この子がいつも話してるカドネの後輩?」

「 ああ。僕らの恋のキューピット。」

 うん?いつも話してる?恋のキューピット?どんな話をしたんですか。佐藤先輩!

「 初めまして。白鳥 いちごです。」

 白鳥先輩は優しい声で挨拶してくれた。

「 初めまして。初めましてって卒業式で言うセリフじゃない気がするけど。塩谷 光です。」

 白鳥先輩は私の挨拶に「ふふふっ。」と笑った。やっぱり佐藤先輩と白鳥先輩はお似合いのカップルだ。

「 あ、佐藤先輩ちょっとあっち行ってて下さい。」

「 卒業する先輩に言うセリフか。」

 佐藤先輩は私の言葉に突っ込んだ。

「 白鳥先輩に話があるので。男の先輩に用はないので。」

「 男女差別だ。」

 佐藤先輩はそう言って、先輩の同級生と写真を撮りにいった。私は白鳥先輩の耳元でこう囁いた。

「 佐藤先輩を悲しませないで下さいね。」

 私が白鳥先輩の耳元から離れると、白鳥先輩は一瞬驚いた顔をした。でも白鳥先輩は私の言葉を理解して微笑んで言った。

「 ええ。もちろん。」

「 いちご。何言われてたんだ。」

 佐藤先輩は戻ってきて白鳥先輩に聞いた。

「 乙女だけの秘密よ。ねっ。」

 白鳥先輩は私に向けてウィンクをした。

「 はい。」

 私は笑って大きな声で言った。

読んでくれてありがとうございます。投稿2作目です。

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