05
無線の誰かのため息に、別の誰かがこたえた。
「なに云ってんだ、おぞましいショーの本番はこれからだぞ。おい、初めての者、よく見ておけ。これから起こることは、映画でもマンガでもゲームでもない、現実だ。まぎれもなく、われわれのこの現実世界に起きていることだ。画面の中の絵空事のようにやりたい放題ってわけじゃない、それを忘れるなよ」
「──二十五、にじゅ──、二十三、に──」
遠くから地鳴りのような音が近づいてきたかと思うと、どんと車をぶつけたような衝撃があたりのガラスやシャッターを震わせ、青い光が一瞬爆発したように吹きあがった。
濡れた夜のビル街に、獣の咆哮がこだました。
青い光のうねりから、とがった顔をつきだすと、細かい牙をちらつかせながら、退化した眼の代わりに、真っ赤な舌を蛇のようにうねうねとくねらせて、湿った夜気をまさぐる。
節くれ立った指を握りしめ、肘で光のうねりを押しのける。
もう片方の前脚を地につき、鉤爪をアスファルトに突き立てる。
尻尾までつづく後頭部のひれから、粘った黄色い汁をとび散らせながら、光のうねりを抜けだそうと、怪物が死に物狂いでもがいている。
路地をおおう電線が縄跳びのように揺れ、正面にずらりとならぶ銃口がはずむ。
飲食店のガラスやシャッターが鳴って、軒からほこりが舞い落ちる。
ノイズだらけの無線が、噛んでふくめるように、ゆっくりくり返す。
「正面十二時の方向、出現中の敵一、単射、指名を待て……。正面十二時の方向、出現中の敵一、単射、指名を待て……」
遠くから、合成音声の裏返った声が、とぎれとぎれに聞こえてくる。
「──十三──じゅう──二──じゅ──」
ドラム缶のようにたっぷり肥えた腹につづいて、膝頭を後ろにつけたとげとげしい後ろ脚があらわれ、濡れた路地を這いずりだしてきた。