02
無線の誰かが、息をつき、あきれたように云った。
「そんなん、ほっとけ」
別の誰かがこたえた。
「確認した、すぐ向かう」
「──出力上昇、一万三千マイクロテスラ、一万六千九百度──」
しっとり濡れた夜気に、オレンジ色の火花を映しながら、青い光が首をもたげていって、ゆらゆらとシャッターの前にそそり立つ。
魚が流れにさからうように、深夜の空気をかきわけて、ついには飲み屋の軒を越す。
「──出力上昇、一万六千マイクロテスラ、一万八千四百度──」
レンズの向こう、白い防護服を着こんだ隊員が、路地の奥にあらわれた。
スピーカーを通さず、そこから地の声が届いた。
「なんてこったよ、痛ててて……」
ネコをかかえて、慌てて照明灯の前をよぎる影に、隊員が銃身に頬を寄せたまま、ささやいた。
「ありがとう、愛護精神に感謝する」
「──出力上昇、一万九千マイクロテスラ、セ氏二万度──」
二階の窓に届こうとしている青い光が、生木を焼いたように、ぱちぱちと爆ぜはじめた。
とび散った火花が、その先々の宙に青い灯をつける。
小さな火種は、すぐに炎のようになって、そそり立つ光とのあいだに燃え広がる。
光がなにかをかたちづくろうとしていた。
なにかがそこに、浮かびあがろうとしていた。