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「さあ、おでましだぞ、本番だ」
無線の声が云った。
「所定の位置につけ。施設班ならびに整備班、近隣にいる者は、じゅうぶん距離を置け。前だけじゃない、後ろには銃口があるんだ、大事なおケツに鉛弾食らうんじゃないぞ」
合成音声の女の声が継いだ。
「──ひきつづき出力上昇中、五千マイクロテスラ、セ氏七千度──」
霧雨に濡れたヘルメットの下で、誰かがごくりと喉を鳴らした。
横にならぶ隊員たちが次つぎに迷彩服の肩をあげ、路地の入り口に張り巡らされたバリケードの向こうを照準器でとらえ直す。
赤いレーザーがおどり、もつれ、一直線に結ばれる。
「──出力上昇、八千六百マイクロテスラ、一万二百度──」
地上三十一センチ七ミリ。
界隈の飲食店の支度中、昼過ぎに発見された青い光は、アスファルトの上で揺らめきながら少しずつ上にのび、いまやバリケードの鉄柵を越えていた。
妖しく美しい揺らめきの中心で、ときおりオレンジ色の火花が散り、それを機に青い光全体が揺れ、またふわりと夜にのび広がる。
「──出力上昇、一万マイクロテスラ、一万三千度──」
「おい、誰かそばにいないか」
照準をのぞいている隊員のひとりが、胸のマイクに向かってうめいた。
「おい、ネコ。ネコがいる、なんとかしてやってくれ」
レンズの中、路地の奥からのっそりあらわれたネコが、青い光を不思議そうに見やっていたかと思いきや、どっしりと腰をおろし、一杯飲み屋の看板のわきで、のんきに毛づくろいをはじめた。