第98話 悪役令嬢、王女殿下の身代わりをやる(!?)
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
第一王女に変身した悪役令嬢は、その第一王女の頼みで、身代わりをすることになってしまいます(!?)
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「ご覧くださいませっ。
メリユ姉様っ、わたしたち、どう見ても双子の姉妹ですわよね?」
「そ、そうですね……」
ハードリーちゃんのお部屋にある鏡の前に立つ、メグウィン殿下とわたし。
うん、着ているドレスこそ違えど、身体は一卵性双生児並みに同じな訳で、金髪美少女の双子が仲良く並んでいるようにしか見えない。
はあ、何て尊い光景!
いや、もうねっ、その片方が今のわたしだとか、うっ、お姉さん、鼻血出そうだわ。
AIが表情をフォローしてくれていなかったら、メグウィン殿下の顔でヤバい表情をやりかねないところよね。
AIさん、マジサンクス!
「うぅ……」
おおう、(なんか残念そうな)ハードリーちゃんも『お揃い』で、メグウィン殿下に変身したかったのかなー?
いや、できるんだけれどね。
わたし、管理者権限持ちだからさあ、ハードリーちゃんのアクターデータとしてメグウィン殿下のVRMxファイル適用するだけだし、三人ともメグウィン殿下ってやれなくはない。
タダ、それやっちゃうと、さすがにまずいかなーって気がして、うん、今回ばかりはごめん。
「そうですわ!
メリユ様、今お兄様に少し呼ばれておりまして、もしよろしければ、お兄様を驚かせてあげてくださいませんか?」
「カーレ第一王子殿下、いえ、カーレ様をですか?」
「はい、晩餐前ですし、大した用ではないかと思いますし、それにお兄様には人を見る目を養っていただかねばなりませんし」
うわー、結構辛辣なことおっしゃる。
まあ、プレイ二日目、色々疑われまくったのは事実なんだけれど、元々こちら悪役令嬢なんで仕方ないんじゃないって思うけれどね。
「なるほど、では、承りました」
「ふふ、では、ハナンやルジア、アリッサ、セメラたちも驚かせてみましょうか?」
「メグウィン様」
ははは、メグウィン殿下って、少し悪戯娘な気があるよね。
まあ、十一歳なら、こんなものかもしれない?
小学生ってまだまだ悪戯盛りだしね。
で、扉を少し開けて、外にかけられるメグウィン殿下。
「ハナン、皆も入ってきて頂戴」
「「「はっ」」」
真面目なご表情で入ってこられた皆さん。
わたしを見て、ギョッとして固まられる。
王族なら影武者っていうのもいるかもしれないけれど、ハナンさんたちなら、もしいたとしても把握しているだろうし、突然メグウィン殿下が増殖したら、そりゃびっくりするわよね?
「そ、そちらは……?」
「えへん、メリユ様が神の思し召しにより、わたしのお姿にご変身なさいまして」
「「……っ!?」」
「えええっ!?」
ハナンさん、ルジアさんは比較的まだ冷静だったけれど、アリッサさん驚き過ぎ。
セメラさんはまた目を輝かしていらっしゃるなあ。
「神の思し召しで殿下にご変身でございますか?
本当に瓜二つと言いましょうか、いえ、神のお力ですから、本当に髪の毛の長さからホクロの数まで完璧にご一緒のお身体なのでございましょうね!」
「もう、セメラったら、そんな風に言われたら、少し恥ずかしいじゃないの!」
赤面されるメグウィン殿下。
いや、そんな意識させるようなこと言われたら、お姉さん、ううっ、マジオタ人格を抑えきれそうにないんだが!
「しかし、神の思し召しとなりますと、やはり何かしらのご事情があるのでは?」
「そ、それは……そうかもしれないわね。
まあ、晩餐前ですし、詳しいことは後ほど協議しましょう?」
「はあ」
珍しく誤魔化されたなー、メグウィン殿下。
カーレ殿下を試したくてたまらない、みたいな感じ?
ちょっとおかしくなって、ふふっ、笑いそうになってしまう。
「それで、ハナンたちには、メリユ様をわたしとしてお兄様のところまで警護していただきたいの。
どうせ晩餐前ですし、大したお話もないでしょうし」
「はあ、よろしいのですか?
後で怒られますよ?」
「いいのよ。
もし見破れなかったとしたら、わたしが逆にお兄様をお叱りしなければならないところだわ」
ハナンさんとルジアさんは少々呆れ顔。
あははっ、まあ、お気持ちはよく分かりますわー。
「はあ、承知いたしました。
それで、メリユ様は本当によろしいのでございますか?」
「はい」
「そういうことでしたら、仕方がございませんね。
あ、メリユ様にご報告が、専属侍女のミューラ様ですが、晩餐が終わり次第、聖女専属侍女頭として身の回りのお世話に戻られるとのことでございます」
おおっ、メイドのミューラちゃん、戻って来るんだ。
王都に置いてきぼりになっていたから、どうなったかと思っていたけれど……えっと、何、聖女専属侍女頭?
あれ、なんか偉くなってね?
もしかして、下に部下の侍女付けられたって感じかな?
あー、なんか普通にミューラが困ってる顔が想像付くんだが。
「ご報告、誠にありがとう存じます。
もし可能でございましたら、楽しみに待っているとお伝えくださいませ。
「はっ」
もしミューラが泣き付いてきたら、かわいがってあげよう、ふふふ。
「さて、ではそろそろまいりましょうか?
カーレ第一王子殿下もお待ちになられていることでございますし」
「「「はい」」」
「では、メリユ様、兄を何卒よろしくお願い申し上げます」
「はい」
そんな感じで、わたしはカーレ殿下のところへと向かうことになったのだった。
移動は当然だけれど、AI自動歩行モードが発動した。
(いや、この狭い防音室兼わたしの部屋でどう歩けってのよって感じだもんね)
さて、VR酔いを防ぐこつは、頭の揺れに合わせて、リアルでも頭を揺らしてあげることかな?
でも、メリユの身体に慣れていたから、メグウィン殿下の身体で歩行移動するのって、やっぱり新鮮味があって、ドキドキするわね。
近傍警護の皆さんは、警護対象がメグウィン殿下でもわたしでも、警護レベルがそう変わる訳ではないんだろうけれど、少々戸惑い気味ではあるみたい。
うん、でも、貴賓室の方には初めて向かうから、ハラウェイン伯爵領城内の景色もまた楽しいなあ。
王城やゴーテ辺境伯領城に比べたら、そりゃあ、廊下もそんなに長くはないのだけれど、窓の向こうには、中庭で警備に当たっている衛兵や近衛騎士の皆さんが松明の灯りに照らし出されているのが見えてすごくリアル。
各NPCもAIが行動パターン生成しているんだろうけれど、ちょっとした窓の向こうの景色まで、ここまで作り込まれているなんてすごいわよね。
「あっ、ハナン様、ルジア様!」
おや、向こうからやって来るのはエルちゃんではないかな?
何かを報せに来たのか、タダ合流するためだけに来たのか、どっちだろ?
「で、殿下っ、これは大変失礼いたしました。
カーレ第一王子殿下より言付けがございまして、セラム聖国のアディグラト枢機卿様のお部屋までお越しいただきたいとのことでございます」
むふふ、エルちゃんにはバレてない!
『殿下』だって!
なんかメグウィン殿下スピンオフやっているみたいで、これはこれで興奮するなあ。
「エル、どうもありがとう。
分かりましたわ」
「アディグラト枢機卿猊下のお部屋だと?
領城の応接室ではなくてか?」
んん、ルジアさんが怪訝そうなお顔でそう訊き返されている?
「はい、広間での晩餐会前に、少々お話があるとのことで」
「カーレ第一王子殿下は、既に向かわれていらっしゃるのだな?」
「はい」
「はあ、そういうことであれば、そちらに向かうことにしよう。
メ……殿下も、ハナン様もそれでよろしいですね?」
「「はい」」
アディグラト枢機卿……ね?
確か、お迎えしたときにはご体調がお悪くて、直接貴賓室に向かわれて休養を取られたとか何とか聞いていたような気が。
だから、まだ顔を合わせてもいないのよね?
「……うん、なんか嫌な予感がするな?」
わたしは、メグウィン殿下のアクターデータが適用されている、この管理者権限アバターを物理無効の設定に切り替える。
コリジョンディテクション(衝突判定)は有効だけれど、相手からすれば、絶対に動かないコンクリートの柱を攻撃するような感じになるから、何があったって平気っしょ!
ゴーテ辺境伯領で実証済みだしねー。
「エル、あちらがアディグラト枢機卿猊下のお部屋ね?」
「はい」
廊下の角を曲がった先に、聖国の騎士さんが数人扉前で警護しているらしいお部屋がある。
うん、どう見ても、そこっぽいわね?
「これはこれは、メグウィン第一王女殿下、よくぞお越しくださいました。
セラム聖国中央教会で修道騎士を務めております、ダロル・モナフォカヴリロ・ゴンダールと申します」
何だろう、少し感じが悪いな?
そもそも、『エターナルカーム』の世界だといきなりファーストネーム呼びは失礼に当たるのではなかったっけ?
まっ、向こうからそりゃ小国の王女様かもしれないけれど、(いくら大国とはいえ)騎士さんがそういう態度取るのはまずいんじゃないの?
ほら、ルジアさんもハナンさんもムスッとした感じじゃん!
「ああ、ここから、猊下専属の修道騎士が護衛いたしますので、ご入室いただくのは、ルジア・メイゾ・ドーファ殿と近傍警護のお二人だけでお願いいたしたく。
何分部屋も狭いものでございますので」
くっ!
それって、ルジアさんと、アリッサさん、セメラさんの三人ってこと?
下調べよくされてるなとは思うけれど、ハナンさんを外すのは少し解せない。
「「殿下」」
「殿下、本当によろしいのでしょうか?」
「構いません」
まあ、仕方ないだろうさね。
「さっ、殿下、どうぞお入りくださいませ」
「メグウィン・レガー・ミスラク第一王女殿下、ご入来!」
他の騎士さんたちは、まあまだ常識的と言えるのかしら?
まあ、中にカーレ殿下もいらっしゃるし、それ以上おかしな態度は取れないわよね?
さってと、入りますか。
ハラウェイン伯爵領城の貴賓室ね。
うん、確かに……ハードリーちゃんのお部屋よりはそりゃ豪華。
中には、カーレ殿下とアメラさん、数人の護衛?
あとは、偉そうな白髪交じりのおっさんと騎士さん……修道騎士だっけ(?)が十人ほど?
あー、アメラさんがいるから、ハナンさんはいらないって意味だったのかな?
「おおっ、これはこれは、メグウィン・レガー・ミスラク第一王女殿下、お忙しいところお足をお運びくださいまして感謝申し上げます。
聖国中央教会の枢機卿を務めさせていただいております、ムグラット・カーディナロ・アディグラトでございます」
ふーん、この五十過ぎくらいの顔色悪そうなおっさんがアディグラト枢機卿?
うん、もうこの辺とか、本編に絶対に関わってこなさそうなメンツよね?
AIの自動生成かもしんないけれど、よくこんなキャラまで手の込んだモデリングしたなー。
まあ、状況じゃ状況だけに、わたしがメグウィン殿下の代わりにしなきゃいけないんで、失礼なことはできないけれど、なんかムカつく!
「ムグラット・カーディナロ・アディグラト枢機卿猊下、お初にお目もじ仕ります、ミスラク王国第一王女のメグウィン・レガー・ミスラクでございます。
どうぞメグウィンとお呼びくださいませ」
わたしはメグウィン殿下のドレスでカーテシーしながら、メグウィン殿下の声で、メグウィン殿下として自己紹介をする。
うわー、なんか、こういうのって倒錯的っていうか……鳥肌立ちそう。
メリユの方はいつの間にか慣れちゃっていたんだけれど、メグウィン殿下のはさすがに落ち着かないわね?
「メグウィン第一王女殿下、ありがたいお言葉、感謝申し上げます」
「お兄様もお待たせいたしました」
「いや、別に構わない。
そもそも、メリユ嬢のお部屋に行っていたのだろう」
「はい」
「ほほう、そう言えば、新たな聖女猊下はお部屋でお休みされているとのことでございましたな?
ご体調はいかがなご様子で」
何、嫌味?
アディグラト枢機卿、あんたの方が汗だらだらじゃん。
もう晩餐会出ないで寝ていらっしゃった方がいいんじゃないの?
って言ってやりたい!
「はい、まだお食事は病人食ではございますが、明日より少しずつパンや肉もお取りになられるとのことでございます」
「ほう、それは何よりでございますな」
「はい」
わたしはメグウィン殿下らしくにこやかにそう答えておく。
はあ、疲れるぜ……。
「それで、アディグラト枢機卿猊下、一体どのようなご用件で?」
わたしの自己紹介が済んだところで、カーレ殿下がアディグラト枢機卿に尋ねられる。
何だろう?
アディグラト枢機卿の様子が更におかしくなったような?
目尻がピクピクしているし、もしかして、本気で何か企んでいる?
「ょ、ょ、よし、ゃ、やれ!」
……は?
って、これはあかんヤツやろ!
「“Acceralate”」
わたしが呟いた途端、ワールドタイムインスタンスの時間刻み幅に対して瞬時に介入がなされ、世界の音が低く沈む。
そして、全てのNPCの動きが二十倍減速される。
逆に、わたしは二十倍超加速状態を手に入れる。
「はあ、やってくれんなー、もうっ」
わたしが振り返ると、わたしの周囲にいた五人の修道騎士がわたしに切りかかろうと抜剣していたんだ。
それに対して、ルジアさん、アリッサさん、セメラさんはフルアーマーですらないのに、自分の身体を盾にしてわたしを守ろうとしながら、(遅れて)剣を引き抜こうとしているところだった。
今はものすごく遅いスローモーション状態だけれど、このままいくと、ルジアさん、アリッサさん、セメラさんたちは抜剣が間に合わず、うん、切られてしまうわね……。
「何て気分の悪い!」
今はまだわたしが助けることができる。
でも、もしここでわたしがメグウィン殿下の身代わりをやっていなければ、ルジアさん、アリッサさん、セメラさんの三人はここで命を落としていたってことじゃないの!!
最悪過ぎるわよ、シナリオライターさん、ここでこんなお試しをやる?
本当に持ち上げて突き落とすのがお上手ね?
わたしはかなりの怒りが込み上げてくるのを感じながら、世界の時間を完全に止めることを決意するのだった。
※休日ストック分の平日更新です。
今回も『いいね』、ご投票いただきました皆様方、アンフィトリテは感謝の気持ちでいっぱいでございます!
新規でブックマークいただきました皆様方も誠にありがとうございます!
今回はマルカちゃんのお話に続き、メインキャラたちに危機が迫ってきてしましたね、、、
よくもまあ、このタイミングで悪役令嬢メリユ=ファウレーナさんが身代わりをやっていたものです、、、
まあ、まだ危機は回避できていないので、メリユには何としても頑張ってもらわなければなりませんね!
※今週は土曜出勤もあるので、次は日曜更新予定でございます。




