第97話 悪役令嬢、多嶋さんの真意を探っていて、またやらかす(!?)
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
出迎えの後、ハラウェイン伯爵令嬢の部屋で休んでいた悪役令嬢は多嶋さんの真意を探っていて、またやらかしてしまいます(!?)
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多嶋さんのアドバイス通りに動いていたら、新たな信仰が生まれたでござる。
いや、何を言っているか分からねーと思うが、数時間前に起こったことを話すと、回復能力のあるらしい水をハードリーちゃんのお母さんにぶっかけると、ハードリーちゃんのお母さんどころかお父さんにまで神の眷属として崇拝されちまったのさ。
はあ、もう頭がどうにかなっちまいそうだったぜ……。
なんて、ミームじみたことを思ってしまうほど、メリユスピンオフは更なるとんでも展開を迎えていた。
多嶋さんに連絡取ったら、『いやー、さすがファウレーナさん、すごいね』なんて適当な返事が返ってきやがったんだが、これ、本気でシナリオライターさんのベースシナリオ通りに進んでるの?
もしそうなら、(いくら何でもそろそろ)わたしでも、多嶋さんとシナリオライターさんにからかわれているんじゃないかなーって思う。
何かで見たような気がするけれど、シナリオライター見習いは、とんでも展開が設定された状況でも、そこそこなシナリオを書けなきゃいけないとか何とか、そんなのがあったような気がするんだよね?
これって、まさか、それ?
いやいやいや、わたし別にシナリオライターやりたいとか思っちゃいないんだけれど。
多少の興味はあるっちゃあるけれど、そこまでやりたいってほどじゃないのよね?
うん、勘違いしないでって言いたい!
「はあ」
まあ、メグウィン殿下、ハードリーちゃんと一緒のベッドで寝たり、腕組まれたり、女子間イベじゃ、本編超える神展開続いているから、続けちゃいるけれど、さすがにちょっと心配になってくるぜよ?
で、今もわたし、ハードリーちゃんのベッドでお休みしているんだが。
(リアルは自分のベッドだけれどさ)
いくらゲーム内設定と言ってもドキドキする訳よ。
HМDをしている限りは、ハードリーちゃんのベッドで横になって周囲を眺めているような感じだからさ。
「はあー、次は何が起こるのー、多嶋さーん」
わたしはマイクオフのまま、(聞こえるはずのない)多嶋さんに訴えかけてしまう。
正直、ここまで先の読めない、込み入ったベースシナリオありゲームがタダのVRデモ環境のテストだとか信じられないわよ!
リアルタイムでNPCとのコミュニケーションが必須だとしても、これはこれですごく売れそうな気がするんだよね。
ま、廃人出そうなのが、マジでヤバそうだけれど。
「まあ、わたし自身楽しんでいるし、お仕事だし、バイト代も出るから、そりゃ続けますけどさー」
あ、そういえば、一つやり忘れていたことがあったのだわ!
そう、多嶋さんからもらったあの管理権限アバター用のデータの確認。
クラウド経由でもらったんだけれど、明らかにメリユ用じゃないデータも混ざっていたんだが、まだ整理できていなかったんだよね。
「“Show console”」
わたしは、コンソールを表示されて、管理者アバター用クラウドスペースに置かれたVRМxファイルの名前を表示させていく。
本来ならメリユアクター用と思われる、容量的に作りかけっぽいファイルだとか、色々あるけれど、これって……。
えっ、ウソ、マジ?
“Megwin_ver1.vrmx”
驚いたことにメグウィン殿下のデータがあった。
"ver1"ってことは、メリユと同じく十一歳の、今のメグウィン殿下のものってことでいいのよね?
このデータがあるってことは、多嶋さんのことだから、何かしら意図あって紛れ込ませたわね?
マルカちゃんのことだってそう、あの絶妙なタイミングでのアドバイス。
どう考えても、『マルカちゃん助けとけよ』ってことだったじゃん!
ハードリーちゃんのお母さんのことだって、アドバイス通りにして、まあ多分(信仰の対象になってるっぽいこと以外は)正解だったと思うしなー。
で、ここに、メグウィン殿下のデータがあるってことは、メグウィン殿下のアクター用VRМxデータを管理者権限アバター=メリユに適用しなきゃいけなくなるときが来るってことよね?
「ふぅ、念のため、今の内に適用できるか試しておくか……」
わたしはベッドから起き上がると、周囲を念のため確認する。
領城は、今銀髪聖女サラマちゃんやカーレ殿下のご到着でかなり混乱していて、ハナンさんたちも離れている。
もちろん、ルジアさんたちがお部屋の外で見張ってはくれているはずだけれど、メイドさんは今いないのよねー。
んじゃ、やっちゃいますか!
えっと、まず今の自分のマッパーデータを完全バックアップして元に戻せるようにしておくと。
(何せ、一度ハードリーちゃんのネグリジェのデータ吹っ飛ばしたからねー)
ああ、これも音声コマンド対応しておかないといけないなー。
まあ、時間次第作ろう。
ってことで!
「“Execute batch for update-avatar-of-meliyu with file-named Megwin_ver1.vrmx”」
いやー、メリユの変身には慣れてきたんだけれど、メグウィン殿下に変身するとか、うん、普通にドキドキする。
同級生の知り合い、友達への変身って、変身魔法少女もの少女漫画の定番だもの。
メリユの声は、結構わたしの声に近いからよかったんだけれど、うーん、メグウィン殿下になるなら、ボイスチェンジャー機能欲しいなあ。
そんな馬鹿なことを考えながら、わたしは有機ELパネルが最大輝度で輝くのを感じて目を閉じる。
さーて、どうなったかな?
パネルが暗くなってきたところでゆっくりと瞼を上げていく。
うん、同じ十一歳、視点の高さはまあ変わらないんだけど。
すっと視点を下に落としてみて、わたしはドキッとするのだ。
「あー、これ初日のメグウィン殿下のドレスだわ」
はい?
今音声が二重に聞こえたような?
あー、これAIベースのボイスチェンジャー機能オンになってる!?
いや、まあ普通にそんなの市販されている時代だから、びっくりするようなものじゃないかもだけれど、自分の声がメグウィン殿下のになってるのはすごいって思う!
「メリユ様♪」
うん、すごくメグウィン殿下っぽい。
演じていて楽しいわ。
どうせなら被って聞こえる自分の声をミュートしたいくらい。
「か、鏡、鏡は……」
わたしが鏡を探そうとした次の瞬間、何と、ハードリーちゃんのお部屋の扉がノックされてしまったのだ。
はっ、へっ!?
ちょ、ちょい待って、さすがにこの状態はヤバい。
激ヤバですわ。
とは言っても今更マッパーデータ戻しても、付随エフェクト発生しちまうしなー、どうするべ!?
「メリユ様、お休みのところ失礼いたします」
「メリユ様、起きていらっしゃいますか?」
よりにもよってメグウィン殿下とハードリーちゃんかよ!?
あかん、完全にまたやらかした!
ダメー、入っちゃイヤーっ!
って、今更無理よねー……あああ。
「「………」」
あちゃー……。
お部屋に入ってこられたメグウィン殿下とハードリーちゃんがフリーズしてる。
これ、魔法少女ものなら、マジペナルティ発生イベでしょ?
確か、変身が解けなくなったりするのよねー、って現実逃避してる場合か!?
「………も、もしかして……メ、メリユ様、でいらっしゃいますか?」
「はい、お疲れ様でございます」
メグウィン殿下アバターにどう反映されているかは分からんけど、取り合えず、微笑みながらそう返してみる。
「ほ、本当でございますか!?
ええっ、どうして、わたしに………メリユ様がわたしに!?」
あれー、メグウィン殿下、急に顔を紅潮させて、すごくうれしそうでいらっしゃるんだが。
ひぇっ、またメグウィン殿下が発射された弾丸のようにこっちに迫ってくるぅーっ!?
危なっ!
「キャッ」
もう少しで飛びつかれると思い、リアルでベッドに尻もちついてしまうわたし。
ついでに、思わずメグウィン殿下のお声で悲鳴上げちまったぜ。
「どう見させていただいても……わたし、でございますね(ゴクリ)」
メグウィン殿下は、下から上までじっくりとわたしをお見詰めになられて、わたしがメグウィン殿下に変身したのを確認されていらっしゃるよう。
「はい、あの日、メグウィン殿下に初めてお会いいたしました日のお姿でございますね」
「あの、もしかして……それも神の思し召しでございますか?」
あー、多嶋さんが何かの意図をもって紛れ込ませたものだろうから、神の思し召しって言っちゃっていいよね?
シナリオライターさんの更に上司に当たる多嶋さんって実質この世界の人にとっちゃ神みたいなもんだし。
「はい、そうでございます」
「なるほど、そういうことでございますか……」
え、何!?
お二人して何頷き合ってるの!?
お姉さん、まるで分からないんだが?
「分かりましたわ。
神はメリユ様を『人の身』に引き留めるのであれば、身近なわたしの身体が良いとご判断されたのでしょう」
「はい、そういうことなので、ございましょうね。
メリユ様、どうか暫く『使徒様』のお姿へのご変身はお控えくださいまし!」
???
メグウィン殿下とハードリーちゃんがすごく通じ合ってるのは分かるんだけれど、何がいいって判断されたって?
「それにしましても……メリユ様が、わたしの身体になられるとは。
これは、もしかして……メリユ様は、正真正銘、血の繋がったわたしのお姉さまになられたということになるのでしょうか?」
「……?
そうなるのでは、ないでしょうか?」
ええっと、お姉さん、付いていけていないんだが。
お二人は、いや、メグウィン殿下、めちゃくちゃうれしそうでない!?
「なるほど……では、これで、メリユ様とわたしは実質双子の姉妹になれたということでよろしいですよね?」
「はい……?」
メグウィン殿下に真正面から見詰められて、よく分からないまま頷くと、メグウィン殿下が(ついに)飛び付いてこられる!?
「キャアッ、やりましたわー!
メリユ様、今夜も……いいえ、今夜は姉妹でご一緒に寝させていただいてもよろしいですわよね?」
「は、はい……」
あわわわ、こんなの拒否れる訳ないでしょ!?
わたしは目を白黒させながら、メグウィン殿下の抱擁をタダ受け入れることしかできないのだった。
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はい、今回は以前多嶋さんから受け取ったデータを確認していて、メグウィン殿下のアクター用データを見付けてしまい、試しに適用したところでご本人たちに見つかってしまいます。
少女漫画でヒロインが変身するお話は結構ありますが、やはり身近な人に変身したりするところはドキドキしますね。
って、悪役令嬢ものじゃないんかいって突っ込まれそうですが、さすがファウレーナさん、多嶋さんもびっくりの展開を齎してくれましたね、、、
メグウィン殿下にとっては、(一時的とはいえ)血の繋がった姉が本当にできて喜んでいるようなので、結果オーライでしょうか?




