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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第95話 王子殿下、キャンベーク川の現場を視察する

(第一王子視点)

第一王子は、セラム聖国の聖騎士団と共にハラウェイン伯爵領に向かい、まずキャンベーク川の現場を視察します。

 ハラウェイン伯爵領およびゴーテ辺境伯領への先遣の準備にあたっていたところに(早馬にて)急報が入ったのは、二日前のことだった。

 ちょうど、サラマ聖女と共に、王城内でバリアの発生後の調査を行うとしていて、メリユ嬢が聖水を撒かれた辺りの草が夏草のように茂っていたのには驚かされたのだが、それ以上にメリユ嬢がハラウェイン伯爵領でなしたという奇跡には、わたしも思わず言葉を失った。

 そして、聖なる力を使い果たしたメリユ嬢が昏睡状態に陥り、状態によっては王都へ運ぶことになるかもしれないという続きの報告に、国王陛下を含め王国の重鎮が肝を冷やしたのも、記憶に新しい。


 先遣に王城専属医師を更に二名加え、早朝に出立しようとしたとき、メリユ嬢が目覚めたとの報告が入り、先遣および聖騎士団の面々は胸を撫で下ろしたのだ。


 そして、昼を過ぎ、ハラウェイン伯爵領近くまで馬車を進めていたとき、直轄領内の砦での休憩の際、サラマ聖女から先にキャンベーク川の現場を視察したいとの要請があった。


「それが……聖騎士団に加わっていただいているアディグラト枢機卿が今回の奇跡に疑念を抱かれていまして」


 確かに、あのバリアや使徒への変身を直接目にしていない者にとっては、メリユ嬢の聖なる力を信じられなくても無理はないことだろう。

 教皇派のアディグラト枢機卿でさえ、疑っているということであれば、(わたしもこの目で確かめたいということもあり)その視察を受け入れることにしたのだった。






 そして、ハスカルで領城に視察を優先する旨を伝え、日が暮れる直前にキャンベーク川の現場に直行したわたしたちは、とんでもないものを見てしまったのだった。

 急報にあったように、確かにワイン樽を横倒しにしたような形で峡谷を抉り取ったとは聞いてはいたが……まさか、その形で、本当に王城を二つ上下左右に積んだような範囲を抉り取ってしまうとは。

 その上、周囲の木々は、抉られた空間へと向かって倒れ、そこへと吸い込まれて行ったような形跡があったのだ。


 あまりの光景に、近衛騎士たちや聖騎士団の修道騎士たちも、騎乗のまま、タダ茫然とその場で口を半開きにして眺め続けるしかできなかった。


「な、何なのだ、これは……」


 近衛騎士団第一中隊を天界に召したあのバリアですら、驚愕せずにはいられないものだったが、こちらはそれを遥かに超えてきている。

 本当にこれが人の身で起こせるものだと言うのか?

 メリユ嬢、わたしの婚約者は、これほどまでの力を持っていたというのか?


「カーレ殿下」


「ああ、サラマ聖女殿」


 すっかり親しく話ができるまでになったサラマ聖女と合流するが、彼女もまた顔を青褪めさせており、セラム聖国中央教会側としてもまるで想定できていなかった力をメリユ嬢が行使したのだと分かる。

 お付きの修道士、おそらくは修道騎士なのであろう、カロンゴ殿、エリヤス殿も本当にこの世のものとは思えないものを見たという表情をされていた。


「殿下はこの光景をご覧になられて、メリユ聖女猊下が引き起こされたものだとお信じになられますか?」


「現状……こんなことができるとすれば、メリユ嬢以外にあり得ないとは思うが、まだ自分の目が信じられない思いではある」


 そう、それが今の自分の素直な気持ちだった。

 神がこれほどの力をメリユ嬢にお渡しになられていたとは。

 これを見せ付けられれば、メリユ嬢が王国防衛に立ち上がったのも、当然のことだと思ってしまえる。

 神に認められし聖女である彼女は、直接的に人の命を奪うことは禁じられているだろうが、もしそうでなければ……彼女は、オドウェイン帝国の大軍すら一瞬で消滅させてしまうだろう。


 まさしく恐るべき力だ。


 いや、しかし、彼女はこの力の行使によって、倒れたというのか?

 災厄の大元を断ち、ハラウェイン伯爵領の民を救うために、自分の命を削ってまでして、この奇跡を起こしたと。


 ……はあ、そうだな。


 わたしは、もっと彼女を信じるべきなのかもしれない。

 自身が傷付こうが、構わずに聖なる力を振るう彼女を信じなくて、何が婚約者だ。


「わたくしたちは往路でこの峡谷を一度拝見しておりますから、どれだけの変化が生じているかは分かります。

 本当に神に等しいお力を振る舞われたのは間違ないことでしょう」


「神に等しい力か……」


 本当にいつも微笑みを絶やさない彼女は、これほどの力を手にして、自分が怖ろしくはないのだろうか?

 よく自分自身を律していられるものだ。

 本当に尊敬に値すると思う。


「人の手で、これほどのことをなそうとすれば、セラム聖国どころか、オドウェイン帝国

進んだ土木技術を用いても何十年かかるか分かりません。

 ですが、メリユ聖女猊下は、一瞬でそれをなされてしまったと。

 もはや、神話の域に達していると言えるでしょう」


 サラマ聖女の言葉には頷くことしかできない。

 わたしたちは、今神話として残るような、メリユ嬢の聖女としての偉業を見ているということになるのか?


「確かに神や使徒様などその眷属が引き起こされたとされる大きな事象の記録はございます。

 ですが……お名前が判明している特定の使徒様が引き起こされた事象で、経典や残る伝承で記憶しております範囲でこれほど大規模ものは過去にございません」


「特定の使徒とは?」


「例えば、わたくしの出身地であるセレンジェイ伯爵領には、使徒様の涙から生じたとされる泉がございましたが、それは使徒様のお名前が判明しております。

 しかし、まさかここまでのお力の行使を許されているとは……」


 その話を拝聴していて、わたしはゾッとするものを覚えた。

 まるで、メリユ嬢を使徒と同等に扱っているらしいサラマ聖女。

 頷いているお付きの二人も同じように考えているらしい。


 まさか、本当にメリユ嬢が使徒だとでも言うつもりなのか?


「正直に申しまして、セラム聖国中央教会の正史に大きく残る事象が生じたと言えるでしょう。

 はっきり申し上げて、これは大事です。

 神は使徒様……メリユ聖女猊下を通じて、大規模な干渉を行われているのです。

 それだけ、オドウェイン帝国のなそうとしていることが認めがたいことだったのでしょうが」


 額から汗を伝わせながら、サラマ聖女は、聖騎士団の方を見る。

 つられてわたしも見てみると、メリユ嬢の力を疑っているというアディグラト枢機卿が涙を流しながら必死に祈りを捧げているのが見えた。


 ……それほどのことなのか?


 いや、あのバリアを見てしまったせいで、わたしも正常な判断ができなくなりつつあるのかもしれない。

 今、わたしは、メリユ嬢がセラム聖国側の目にどのように映っているか、しっかり把握しておくべきものだろう。

 それでなくとも、聖女として聖務を聖国で執り行われるようなことを彼女らも言っていたのだ。


 そう、王国は何があろうとも、メリユ嬢の味方となり、彼女を守らなくはならないのだ。


 特にわたしにとっては、婚約者を他国に奪われることになりかねないのだから。

 わたしは、まだハラウェイン伯爵領城で療養しているメリユ嬢に思い馳せながら、新たな決意を固めるのだった。


新年明けましておめでとうございます!

本年も何卒よろしくお願いいたします!


旧年中はたくさんの応援をいただきまして厚くお礼申し上げます。

お正月は色々忙しく更新が遅くなり申し訳ございませんが、新年最初のお話は、久々のカーレ殿下視点です。


やはり、悪役令嬢メリユ=ファウレーナさんがやり過ぎたせいで、大事になり始めているようですね。

まあ、規模が規模だけに当然と言えば当然かもしれませんが。


何はともあれ、今年もメリユには色々頑張ってもらいたいものです!

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