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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第94話 王女殿下、ハラウェイン伯爵令嬢たちの様子に安堵しつつも、悪役令嬢の危機に気付いてしまう(!?)

(第一王女視点)

第一王女は、悪役令嬢によって救われたハラウェイン伯爵令嬢たちの様子に安堵しつつも、その奇跡を引き起こした悪役令嬢の危機に気が付いてしまいます(!?)


[ご評価、『いいね』、誤字脱字のご指摘いただきました皆様方に厚くお礼申し上げます]

 ハードリー様、ケラフォ・プレフェレ・ハラウェイン伯爵様、アリー・プレフェレ・ハラウェイン伯爵夫人様……ハラウェイン伯爵家の皆様が涙を流されながら抱き合われている光景は、何とも心を打つもので、わたしはまた涙を止められなくなってしまっていた。


「ハードリー様、本当によかった……」


 本当に……何て尊い光景なのかしら?

 これもそれも全てはメリユ様のおかげ。


 わたしは、ハナンにお部屋の入口で制止されてしまい、全てを拝見できた訳ではないのだけれど、メリユ様がそのお翼でアリー伯爵夫人様を包まれ、そのお手から生み出された『聖水』によってアリー伯爵夫人様の心身を清め、癒されていく様はあまりに感動的で、神話の世界に身を置いているかのような気分にさえなったもの。


 『聖水』については、近衛騎士団長やアリッサ、セメラたちからお話を伺っていたけれど、本当に『聖水』というものは『人』を心身ともに癒し、元のあるべきお姿に蘇らせる働きがあるのだわ。


 今でなら、あの近衛騎士団長が心を入れ替えられたのも理解できるように思う。

 きっと近衛騎士団長も、メリユ様から『聖水』を授かって、心身を癒されて、本来お持ちになっていた気概を取り戻されたに違いない。


「それにしても、奇跡を振る舞われ過ぎですわ、メリユ様」


 ハラウェイン伯爵家の皆様方から少し距離を取られながらも、そのお翼を小さく羽ばたかれながら天井近くで見守られていらっしゃるメリユ様のお背中を見詰めながら、わたしはそう思ってしまう。


 お目覚めになられてからまだ一日も経っていないというのに、次から次へと奇跡の大盤振る舞いをされるメリユ様。


 それでも、キャンベーク川の『土砂ダム』を消去されたときのように超越者としてのお力を振るわれていたメリユ様よりも、こうして『人』に寄り添い、その心身を癒そうとされていたメリユ様の方が、ずっとメリユ様の本質に近いように思われて……やはり、メリユ様はこの世で一番『聖女様』に相応しいお方なのだと思わずにはいられないの。


「ハナン、ハラウェイン伯爵家の皆様にタオルをご用意して」


「はっ」


 『聖水』で全身ずぶ濡れになられたアリー伯爵夫人様と抱き合われているハードリー様たちもすっかり濡れてしまったご様子で……けれど、濡れるのも構わず肌身を寄せられているご様子は、ご家族の親密さを現しているようで、わたしは少々羨ましく思ってしまう。

 もっとも、ハードリー様たちも、メリユ様の『救いの手』がなければ、心が離れ離れになりかねなかったことを考えると、本当にぎりぎりのところだったとも言えるのだろう。


 サラマ聖女様のときも、マルカ様のときも、いえ、あらゆる出来事が、一番適切な『時』をご存知でいらっしゃったかのようにメリユ様が動かれることで、解決にされてきたように思えるのだ。


「まるで、本当に『使徒様』のよう……」


 目の前にいらっしゃるアリー伯爵夫人様も、ケラフォ伯爵様もメリユ様を『使徒様』と信じ込まれていらっしゃったように、今のメリユ様に接していると、本物の『使徒様』のようにしか思えなくなってきてしまいそう…………。


 ……いえ、待って、何かおかしくはない?


 初めてメリユ様の『使徒様』のお姿を拝見してしまったときはともかく、その後は、仮初のお姿だと理解していたはずなのに……今日は、メリユ様の『使徒様』のお姿のご印象が大きく変わられてきているように思うのだ。


 エルたちの失神にしても、初めてなら仕方がないかと思ってしまったのだけれど、そうではないのかもしれない。


 もはや『聖女様』という次元でなく、ともすれば、信仰、崇拝の対象にすらなってしまいそうな神々しさすらも周囲に撒き散らされているように思われる今のメリユ様。

 もしかすると、『使徒様』のお姿でいることで、メリユ様は『人』としての本質を失われ、本物の『使徒様』や『神』にお近いご存在へと変わられ始めているのではないだろうか?


「メリユ様っ!?」


 わたしはそこでようやく危機感を抱くことができた。


 そう、ずっとお傍にいると決めたこのわたしすら『本物の『使徒様』のよう』と自然に思ってしまうということ自体、相当な異常事態と言えるだろう。

 それこそ、メリユ様が神のご眷属として信仰の対象となってしまったなら……メリユ様は『人』としてのお心を維持できなくなっていかれるかもしれない。


 どうして、どうしてわたしはそんなことにも気が付かなかったの!?


「?」


 わたしの言葉にも、無言で微笑んでいらっしゃるメリユ様は、まるで『人』を(人の見えないところから)見守られていらっしゃる『使徒様』のよう。

 『聖女様』としても、既に孤独に『聖務』を執り行われてこられたメリユ様は、今までも一歩下がったところから『人』の幸せを支えようとされてこられたのだけれど、ご自身のお幸せを二の次にされているところは、既に『使徒様』の在り様に近付かれてしまっていたのかもしれない。


「何てことなの……」


 神がメリユ様に仮初の『使徒様』のお姿を下賜されたのは、状況がそれを必要としていたからというだけでなく、メリユ様が『人』としてのお心を保てなくなったときに、神のご眷属として取り込まれるおつもりだったのではないかしら?


 だから、ハードリー様とわたしに対してご啓示をくだされた。


 わたしたちがもしメリユ様のお心を『人』の側に引き留めることができないならば、本物の『使徒様』に生まれ変わらせてしまうぞと。

 もしそれを望まないならば、メリユ様を『人』の側に引き留めてみせよ。


 メリユ様に多くのご負担を強いるオドウェイン帝国との衝突。

 それが解決するまでメリユ様のお心を『人』の側に引き留め続けることができたならば、あの今朝の正夢を現実のものとしてやると、そういうご啓示だったのではないかしら?


「メ、メリユ様、どうぞお下りになってくださいませっ!」


 焦りを覚えたわたしは、両手を広げて、メリユ様を迎え入れられるようにする。

 もちろん、今のメリユ様が触れられないご存在なのは、先ほどのご変身でも知っている。

 それでも、メリユ様にはメリユ様を『人』と見ることのできて、『人』同士として心を通わせることのできるご存在が必要なのだ。


「メグウィン様」


 まるで、ご自身が『人』であったことを思い出されたかのように、きょとんとされつつも、ゆっくりと床の方へと、わたしの方へと舞い戻られるメリユ様。


 今のメリユ様が触れられないご存在であるというのもそうだけれど、このように自然にお翼で宙を飛ばれているメリユ様は、どう考えても『人』として普通ではなくなられつつあるというのがはっきりと分かってしまう。


 王城で初めて『使徒様』の姿になられたときは、これまで聖なるお力で宙に留まられていたのとまた異なる感覚であるかのようにおっしゃっておられたのに……きっと、今のメリユ様はお翼で飛ばれることの方が当たり前になられ始めているのだ。


「そう……そういうことね。

 わたしたちは、メリユ様に可能な限り『使徒様』のお姿をさせてはならないのだわ」


 そう、サラマ聖女様のときは本当に致し方のなかったことと言えるだろうけれど、今のこれは必ずしも必要なことだったとは言えないのだもの。


 今思えば、『使徒様』のお姿でアリー伯爵夫人様と向き合われるとご決断される前のメリユ様の躊躇も、メリユ様の『人』としてのお心の戸惑いによるものだったのかもしれない。

 本来であれば、ハードリー様とわたしが、この程度のことで『使徒様』のお姿になられないよう、制止すべきだったのだろう。


 本当に、神のご啓示の意味に気付くのに、これほどまでの時間がかかってしまった自分を叱りつけたくなる。


「ああ、メリユ様、もうそのお姿は必要ございませんから、元に戻りましょう?」


 わたしの腕の中にゆっくりと下りてこられるメリユ様を迎え入れて、わたしは自分の腕をメリユ様のお身体にめり込んでしまわないように気を付けながら、抱き締めるのだ。

 今はご感触も、ご体温すらも感じ取ることのできないメリユ様だけれど、『人の身』でいらっしやるメリユ様ををいち早く取り戻して、この腕でこの身体で感じてみたいと思いながら、わたしはまた涙を零してしまうのでした。

年内の連続更新も大晦日ということでこれで終わりとなりますが、今回もご評価、『いいね』、誤字脱字のご指摘いただきまして心からの感謝を申し上げます!

本当にこの一年間、応援いただきました皆様方、どうもありがとうございました!


チェックしていましたところ、最近になりましてアクセス数が少し増えてきましたおかげで、二万PV、ユニーク五千を突破しておりました。

『小説家になろう』では、なかなか目立たないお話であろうかとは存じますが、年内にここまで到達できましたこと、アンフィトリテは大変うれしゅう存じます。


さて、今回は年内最後ということで本妻(ついに文字にしてしまった……)、メグウィン殿下視点で締めくくりたく存じます。

ハードリーちゃんの方でも『人の身』に引き留めなければという『気付き』がございましたが、メグウィン殿下の方は『人の心』に引き留めなければという『気付き』があったようでございますね!


この二人に支えられながら、悪役令嬢は母国を救い切ることができるのでしょうか?

それでは、皆様、また来年も何卒よろしくお願い申し上げます。

どうぞ良いお年をお迎えくださいませ!


[三が日は更新できるかどうか、現時点では未定でございます。お正月で色々ございますゆえ、ご了承くださいませ。時間ができましたら、更新いたしたく存じます!]

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